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「ドラマ」はなくても、「物語」はある。

ずっと見に行きたいと思っていた映画を、数年ごしでようやく見に行くことができました。

日本のどこかに実在した、とある中学2年生の1クラス、35人全員に密着したドキュメンタリー映画。
2021年に封切りされて以来、毎年春に再上映されていますが、
一般人、しかも中学生に密着しているという特性上、
配信などはされず映画館でしか見ることができないし、
なんなら35人のうち一人でも上映を拒む人が出たら、明日にはもう見られなくなってしまうかもしれない。
そんな薄氷の上に立っているような映画の上映が、4年間続いていること自体が奇跡だなあと思うし、
その「奇跡」に立ち会う一人になれたことも、幸せだなあと思います。


内容はというと、本当にサイトに書いてある通りなのですが、

とある中学校の3学期、「2年6組」35人全員に密着し、ひとりひとりの物語を紐解いていく。
そこには、劇的な主人公もいなければ、大きなどんでん返しもありません。
それなのになぜか目が離せないのは、
きっとそれが「誰もが通ってきたのに、まだ誰も見たことのなかった景色」だから。
そしてその35人全員が、どこか自分と重なってしまうからかもしれません。
まだ子供か大人かも曖昧なその瞬間、私たちは、何に傷ついて、何に悩んで、何を後悔して、何を夢見て、何を決意して、そして、何に心がときめいていたのか。
これは、私たちが一度立ち止まり、いつでもあの頃の気持ちに立ち返るための「栞」をはさむ映画です。

ただただ淡々と、一人ひとりの人生が描かれていて、
そこには刺激的なクライマックスも、
ハラハラ・ドキドキのスペクタクルも、なにもない。
でも、だからこそ安心して見れたし、
見た後の満足感も、なんら変わることはなかった。

劇的な「ドラマ」はなくても、そこには一人ひとり、
とても濃密な「物語」があったし、
一人ひとりの「物語」から、
思わず考えさせられること、ぎゅっと心掴まれること、ほっこり心が温まること、
いろんな感情が湧き上がってきた。

もしかしたら私達は、
日常の中で「ドラマ」とか「感動」みたいなものに侵食されすぎていて、
なにげない、ささやかな幸せみたいなものへの感度を失っているのかもしれないし、
きっと誰の人生の中にも、
なんの変哲もない・退屈だと一見感じてしまう日常の中にも、
心動かす、動かされる出来事の原石がたたずんでいるのだろうなあ。
そんなことも、考えさせられる映画でした。

14歳というのは、すっかり大人びた側面も垣間見える一方で、
行動や言動の端々には、やっぱり子どもだなあ、という部分もまだまだあって、
本当に絶妙な、子どもと大人の端境期を生きている時期なのだなあ、と思います。
それぞれに悩み、葛藤することがあって、
きっと、必ずしも全員が、あのとき望んだような人生を送ることができるわけではないかもしれないけれど、
それでも、それぞれのいる場所で、できる限り「幸せ」に生きていてほしいなあ。

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