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地球がマイケルジャクソンになった日 高校野球

人を叱るって難しですよね。
先輩は先輩で難しいですよね。
今日は叱っている途中で、空回りして地球をマイケルジャクソンにして、
自分が叱られ始めた同期のお話。ちょっと長いです。

そうだ、後輩を呼ぼう

一つ上の代の先輩たちの夏が終わり、僕たちは野球部の中で最高学年になった。あれは確かまだ僕たちが3年生になりたての春だったと思う。

僕たちは野球に没頭していた。

どうすれば強豪私学に勝てるのか、

どうすれば注目される投手や打者を相手に対等に戦えるのか、

どうすれば個人の才能で劣る相手に近づけるのか、

没頭の字の如く、体の全部、心も、生活も全てが野球の中に没んでいた。

その中で、練習では我々高学年だけがリーダーシップを発揮していては勝てないことに気づいた。そう、同期の30人だけでは勝てない。
後輩も含めた皆で考え練習をすることでもっと強くなるという考え方が、チームでは固まっていた。

しかし、事実として後輩には浸透することが難しかった。
後輩の中では練習に取り組む姿勢が高い選手が多くても、リーダーシップを発揮して欲しい後輩があまり活発にならず、むしろ練習ではモチベーションが低い。そんなこともあり、(僕たちも少しストレスを解放したいこともあり、)数人の後輩を練習後僕たちの部室に呼ぶことになった。

部活の世界で、先輩に部室に呼ばれるということがどれだけ怖いかお分かり頂けるだろうか。確実且つ端的に言えるのは、
「行きたくないところに絶対逆らえない人に呼ばれる」ということである。
なぜ行きたくないかは、ご自分で想像するか、この投稿の最後の引用投稿をお読みください。

でもこれは逆で、僕たちが後輩を部室に呼んでいる。

僕たちからすると、
「自分たちに絶対逆らえない人を、その人が行きたくないところに呼ぶ」という完全にドSな立場になり、完全にウッキウキでなのだ。
かなり悪い性格

後輩を部室に呼ぶ行為

僕たちが初めて後輩を部室に呼んだのは、この丁度一年前だ。
2年生の時使っていた部室には、小さくて狭い「奥部屋」と呼ばれる場所があり、そこに態度が悪い後輩を指導するということで、僕たちもそうだったが、そこに呼ばれた後輩は、もうまじでビビる。

今思うと僕はよく自我を保ってちゃんとした返事をしていた方だった。
後輩の中には、気持ちが舞い上がって意味のわからない返事や行動をする者もいた。しかし笑いが出ては完全に失敗、もしろ先輩が舐められるきっかけになりかねない。絶対に笑ってはいけない先輩24時なのだ。

部屋に入った時点で気が動転してしまい、ドアの近くでそこから前に動けない後輩に、「お前、もっとこっち来いよぉ」と奥に座っている同期の一人が言うと、
何が伝わったのか、その後輩は、その奥の一人のガチで目の前まで進み、
後輩の足が座っているの自分の顔の目の前にある状態では何も言えない同期が「お、奥まで来すぎだろぉ」と笑いを堪えらえながらツッコむ。
それを見て我々が笑いが込み上げる。

先輩がいるところでは、後輩が先輩と一緒に座る状況でも
「失礼します」と言って座る必要がある。

珍回答の一つでは、
「お前、先輩がいるところで座る時なんて言うんだよ。」という同期の問に

後輩「す、すみませんて2回言います!!」

まさかの2謝1座。2礼2拍手1礼などはあるが、2謝1座もある
流石に「すみません」「すみません」と言って座られたらこちらも心が痛くなるし、それはそれで楽しそうなんて思っていたり、なぜ2回言うのか、なぜ謝らないといけないのかと考えると笑いそうになる。

人をしっかり叱るのって難しい。その上にこんなハプニングがこんな緊張感の中で起きるもんだから笑いが込み上げてくる。
だから先輩たちは帽子を深く被って暗いところで僕たちを指導したのかと、
ようやくわかる。そう、後輩を部室に呼ぶときには、こちらもしっかりと向き合わないといけない。

地球が止まるまでのカウントダウン

2年になると態度は変わり姿勢も正しくなり、問題は少なくなる。
つまり3年生が2年生を呼ぶのは稀である
後輩にも練習の時間がありその時間を取りたくないというのも一つの理由である。僕達の先輩がいうには2年になっても3年の先輩に呼ばれ、暴力的な指導を受けたと言っていたが、先実際僕たちが2年の時に一つ上の3年生には、一度も呼ばられなかった。

今回の僕たちのこの数名を呼ぶことはかなり重いイベントである。
特にリーダーシップを発揮して欲しい人に我々の想いを伝えたくて、
自分を見つめて直して欲しくて、そして何より後輩は何を想っているのかを確認するためだ。ただの遊びとは違う。そうは言っても3年の部室は2年の「奥部屋」より断然怖い。正方形で広いため、呼ばれた後輩はより多くの先輩が自分に対することになる。

そしてある日の練習後。キャプテンが、
「今日、練習の後に後輩を呼ぶので1時間くらい部室使えなくなります。」
と連絡し、予定通り、最高学年の部室に移って初めて、後輩を呼ぶことになった。

夜になり暗くなり、

虫の鳴き声が聞こえる中、

部室を暗くし、僕たちはそれぞれの椅子に座り後輩を待つ。

正方形でドアがある一辺を除いた他の三辺に沿って椅子が内側に向いているため逆に座っている同期の顔も見れるようになっている。
部室は暗く、数人が携帯をいじっていることで少し明かりがある。

一人目に呼ばれた後輩は、僕たちの試合にも出ていた選手で、僕たちが引退した後にはキャプテンになった選手だった。
なぜ他の30人ほどの後輩たちのやる気が低いと分かっていながら行動に移らないのか、やる気がない後輩なら部活に来なくても良いと伝えた。
厳しい言葉もあったが、彼に対する僕たちの姿勢は、ある程度冷静で、ちゃんと気持ちは伝わりなかなか悪くなかったと思った。

「シツレイしマス!!!」

と言った彼に二人目を連れてくるように伝える。
そう、僕たちは単に後輩を怖がらせたいわけではなく、次から変わって欲しいのだ。怖い言葉をかけたからといって伝わるわけではない。
そのために笑ってはならない。

二人目の後輩が呼ばれ、

中に入る。


同様の質問に加えて、少し調子に乗っていることもあり、かなり厳しく問われ、(先輩は調子に乗っている後輩が大好きなのだ。)
より多くの同期が彼に対し厳しい”意見”を言い放った。
彼は明日からの行動は変えると固く誓い、もちろん死ぬほど大きな声で

「シツレイしマス!!!」

と言って3人目を呼びに戻った。

悪くない、彼も明日から楽しみである。

そんな中、とりあえず後輩に何か強く言いたいとタイミングを伺っていたのが、コウキ君だった。

彼は一言で言うなら野球マニア。相手投手のデータや故障防止のストレッチなど、普段みんなが気を使わないところにも気を使える大変真面目な同期。
僕の横の横の席。普段後輩に厳しくない彼は、僕たちが2年の時の後輩の呼び出しには参加していなかった。ただそんな彼も一度はこういった場所でガツンと言ってみたい。みんなが罵声を飛ばしているタイミングで何か一言言ってやろうと、チャンスを待っていたのだ。性格が凄い悪いように読めるかもしれないがそんなことはない、皆先輩にされたことは自分もやってみたいと感じるのだ。(性格が凄く悪い)

「お前今まで何して来たんだよ」

3人目の後輩が入った途端、
その後輩に対して厳しく詰め寄るという気持ちが、他の同期と同じことが一瞬で分かった。彼が部屋に入ってからみんなの声のボリュームが全然違う。
恐らく相当態度が懸念されていたんだろうなと分かったし、当然な結果ではあった。

後輩の中では入部当初は上手い部類として入って期待されていた彼だった。その時には自己練習もしなければ、声も出ない、更には少し同期のことを舐めているという情報(酷いほど雑な情報だが僕達には十分な情報である)がうっすらあり、かなりの嫌われ方である。ただ、罵声が飛ぶだけでなく、
「お前は隣の◯高行けば4番でキャプテンだよ」など冷徹な意見もグサッと刺されている。後輩も僕たちの話を聞き、それに答えるが、僕たちは先輩として舐められてはいけない。(なんの根拠もないが)

後半に差し掛かると、僕達の質問に対する彼のしょうもない答えも暗い部室を燃やす着火剤となった。

同期「お前、今日の練習なんで声出してなかった」


暗い部室で沈黙が続く。

同期「連携で声は必要だよな?なんで自分でチームを引っ張るって言った奴が声出してないんだよ」

後輩「え、、、と、、、風邪をひいてました」

その瞬間火がついたみんなが言葉を浴びせる。

「お前病院行って来い」 「風邪ならもう来んな」
怖いことに正論で責めれるゴールデンタイムである。
ここぞとばかりにどんどん言葉が強く言われ、彼も物凄いカウンターにただビビっている。そんな流れが終わりかけた時、

その波に乗ろうとしたコウキ君が遂に口を開いた。


「お前今まで何やって来たんだよー!」



その瞬間、地球が止まった。

奇跡的な止まり方。もう信じられないくらい止まった。地球の時点の止まり具合でいうとマイケルジャクソンが回転して爪先立ちになるくらい止まった。あの、クルクルっキュッ!と感じ

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地球がつま先立ちになったと想像して頂けたら一番わかり安いだろう。(わかり難い)地球はアウっ(青)!ヒッヒー!
ちなみになんでジャクソンファイブはキャッチャー防具を足だけ着けていたのか、いまだに全く分かっていない。誰かがスライディングして来た時の為か。

誰かがえげつないくらいにスベってシラけた時、
一瞬だけ世界の地平線の奥の方のインド人の声ですら聞こえるような体験をしたことはあるだろうか。

田舎の高校の一室、暗い部屋であんなに罵声が飛んでいた部室に、
「お前今まで何やって来たんだよー!」の
「来たんだよー!」の「よー!」がだけが反響している。
よぉぉぉ、よぉぉぉ、と

今まであんなに大きな声が飛んでいた部室に、、、、

絶対に笑ってはいけないスリラー24時である。

真面目に叱ってスベった彼を笑ってはいけない。
ただどんなに忘れようとしても、切ない「よぉぉぉ」が頭の中で聞こえてくる。他の皆が暗闇の中で、下を向いている。誰も何も言えない。どうする。

後日談によると、彼は他の奴らが後輩を罵る中、「良いかな?今言って良いかな?」と隣の同期に相談しながら状況を伺っていたぐらい何か言いたかったらしい。自分が貯めに貯めて、大事〜に出した「お前今まで何やって来たんだよぉぉぉお!」で世界が一瞬止まるとは思ってもいなかったため、
完全に「よー!」の「お」の口で止まっているのが暗闇でも分かるほど体が固まっている。

大体、「お前今まで何やって来たんだよ?」って、
どんな質問やねん、、、と思っていたところ、
誰かが小さい声で、

「お前が代わりに病院行け」

と言った。

そうだ。

ここで病院に行くべきなのは、練習中声を出していないこの後輩ではなく、声を出しては地球をマイケルジャクソンにした彼だ。

「そうだな、お前が病院行け」
「マジで練習くるなよな」

中には、

「お前今まで何やって来たんだよ」と言うもの、
「左投げが」と完全な個人の見解での指導が始まり、
コウキ君に「良いかな?今良いかな?」と聞かれて頷いた彼も、
「アイドルオタクが」と。
#残酷な世界  

後輩を叱るのは難しい。でも叱る時はちゃんと叱ってあげましょう。ここでの一番の被害者は地球でも僕達でもなく、その後輩だったと思った。

目の前で勝手に滑っては先輩がやる気をなくすとは、大変である。

皆さんも気をつけましょう。地球を止めないように。

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