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【日記集】夏の真髄・共感覚オスマンサス


 公開しそびれていた日記集2本です。どちらも書きかけだけど、もったいないので出します。


夏の真髄(2023年8月)

 夏、そろそろお前の真髄を見せてくれよ。

8/4(金)
 図書館を出たら入道雲がとても夏だった。

入道雲

8/5(土)
 母からのLINEに夜電話をしようと思い返していなかったら心配したのか夕方に電話が掛かってきた。体調はどう?と聞かれ、最近の生活習慣や院試勉強の進捗を大雑把に話す。夏の帰省の予定や、バイトを減らしたせいで金欠なこととか。最近余裕がないせいか、弱音を吐きたい気分だ。
 将来が不安だ、と言った。あぁ、自分は将来が不安なのか、とそこで初めて分かった。
 社会で一度下層に入ってしまうと上に戻るのが難しい。初手を失敗したら終わりなのだ。来るべき就活を自分は失敗せずにちゃんと乗り切れるだろうか。母親は「お母さんだって大丈夫だったんだし、そんな先のこと心配しないで大丈夫だから、今目の前のことを一生懸命やりんしゃい」と。お母さんだって、はつまりあなたは京大卒になるわけだしという意味だろうが、京大卒が自分の性格のマイナスを帳消しにしてくれる気がしなかった。やるべきことを順当にやれない自分の性質は、小学校の夏休みの宿題から変わっていなかったし、それが就職や社会で生きていくときに致命的な短所になることを想像するのは容易だった。色々な企業を調べ、ESを書いてインターンに参加し、面接の練習をして……。自分がそういうこと一つ一つを着実にこなしていける気がしなかった。
 まぁもう今考えても仕方のないことだ。母親が言ってくれたように、今は目の前の院試に集中しよう。

8/6(日)
 朝から去年の京大の過去問を本番と同じスケジュールで解いた。基礎が6/6、専門が0.75/2だった。基礎がだいぶ時間を余らせて解けたので少し安心。専門の方はしょうもないミスしなければ一完あったので勿体無い。出来がよくてちょっと落ち着いた。

8/9(水)
 熊野寮でやっている狂奏祭で『まなみ100%』を見てきた。主人公が恋心を10年引きずる様子を描いた監督の自伝的映画だった。
 自伝的なだけあって引きずる主人公の解像度が高くてよかった。例えば、普通にまなみちゃんじゃない人のこと好きになって、普通に付き合ったりセックスしたりするところとか。「まなみちゃんが好きだから恋愛できない」じゃなくて「普通に色恋沙汰あるけど、何故かまなみちゃんがずっと背景にいる」って、うん、10年引きずるってそういうことだよね。
 それから、結婚式のシーンで、合唱してる高校時代のまなみちゃんがオーバーラップするのも良かった。好きなまなみちゃんが生活にいた高校時代、あの時間、出来事、感情、その象徴として合唱してるまなみちゃんが主人公の中にあるんだろう。それがウェディングドレスを着たまなみちゃんにダブると、主人公の中にまなみちゃんを好きっていう気持ちがもう一度鮮明に立ち上がってるのが、実感を伴ってわかる気がした。だって、あの大音量で合唱を聴いたら観客も主人公と同時に学生時代を想起せざるを得ないから。
 主人公は多分全然まなみ100%ではなくて、でもそれでもまなみちゃんが自分の中にありつづけることを思うとまなみ100%でもあって、そうやってまなみちゃんを想い続ける自分のことを尊くも思っていて、「まなみ100%であること」に浸っているのかもしれない。この映画はそんな主人公が、まなみちゃんの結婚によってまなみちゃんから、そしてまなみ100%な自分に浸りつづけることから卒業するお話なのかもしれない。
 10年恋引きずると俺もあんな感じになるんかな、って余韻に浸りながら帰り道で数えてみたら、この春がSと出会ってから10回目の春だった。どうだろう。彼女が結婚したら俺は悲しみとかまだ感じるんだろうか。感じたら感じたでキモいし、感じなかったら感じなかったで、自分の中のそれが終わってしまうことは寂しい。

8/10(木)
 iskから第一志望の院に受かったと連絡があった。これで本当にiskがいる京都は四月までらしい。なぜかあんまり寂しいとも思わない。去年なら泣き喚いたりしていたろうに。

8/12(土)
 北野天満宮に合格祈願に。

8/14(月)
 一日中布団にいて、流石にまずいと思い夜八時半にカフェコレに行って勉強した。八月入ってからエネルギーが切れて、勉強全然出来てないし、せっかく作ってた生活習慣も崩壊していっている。まじでこれどーすんの。

8/18(金)
 いよいよ明日が院試。もう明日だと思うと落ち着かず、ラーコモでずっとそわそわしながら勉強していた。学部入試のときもこんなに緊張したっけ?忘れちゃった。もう信じてやり切るしかない。頑張ろう。


共感覚オスマンサス(2023年10月)

 夏休みが明け後期が始まった。気温は下がり夕方になると風が肌寒く、胸の奥がツーンとする。街には金木犀が満開で、どこにいってもその香りが見つけられる。いい季節。
 数学、進路、プログラミング、有志バンド、文フリ東京、アルバイト。色々なことに追われ精神的に余裕がない生活が続いていた。中でも一番大きいのは院試合格してもなお抱えている進路の問題だった。それはつまり来年どうするのか、という話ではなく、五年、十年、どう生きていくのか、ということだった。
 満開になった金木犀の香りで溢れる京大構内を、ヘビロテのパーカーを着て過ごす二〇二三年十月下旬の日記。

10/17(火)
 昼寝をしていたら寝過ごして十五時からのゼミに遅刻した。前日ちゃんと寝たうえで午前10時からの昼寝をして目覚めたら十六時半になっていたのだ。あちゃちゃ。
 yknと夜ご飯を北食で食べて、散歩がてら本部構内で金木犀探索をした。金木犀の匂いがしたらそれをたどって写真に収め、また金木犀を探す。とても楽しかった。yknは風邪で鼻が効かなかった分、目で探していて、おかげで見た中で一番大きい金木犀に出会えた。

本部構内、今出川沿いの生垣
教育学部前の庭には金木犀が沢山
時計台脇の金木犀
時計台の側の金木犀
総合研究14号館前
電気総合館裏の出会った中で一番大きな金木犀

10/18(水)
 珍しく朝に起きて朝ごはんを食べた。二限の幾何学IIに出席して、授業を聞きながら復習していたら、微分形式がちょっとずつ分かってきた気がする。
 夜、tnmrと進路について話していた。なんか数学でもやっていけそうな気がした。

10/19(木)
 夜、tkd、tsmと鴨川でボーカル練習。練習後、みんなの好きな曲をギター弾きながら歌っていた。ところどころtsmがハモったり、ところどころ僕がハモったり、たまにそれがカチあって主旋律がいなくなったり。そういうのが楽しくて仕方なかった。十九時に集まったのに気づいたら〇時近くになっていた。大学で見つけられていなかったハモれる友達がここに来て見つかったかもしれない、とうきうきしながら帰路に着いた。いい鴨川の夜だった。

10/20(金)
 合コンだった。詳細は略。

10/21(土)
 バイトのクローズだった。会計が合わずnktkさんとレジ締めに苦戦して、終わったときにはもう二十三時になっていた。お腹すいたというnktkさんにご飯どうするのか聞くと「一緒に食べる?」と言われ、二人で歩いて北白川のマックに行った。ば先の人と外で話すのは初めてで少しの新鮮さと緊張だったし、髭を剃ってなかったことをすこし後悔した。
 マックではバイトのことや進路のこと、恋愛のこと、色々話したけど、nktkさんは感情が見える人だってことが一番印象に残っていた。
 蛍の光が流れ店を出ると外はとても寒く、コンビニで温かい飲み物とおでんを買って、帰りしなの公園で食べた。僕が食べてるあいだ、寒い寒いと言いながら公園を走り回るnktkさんは子供みたいで面白かった。
 nktkさんが大文字に行ったことがないというので、今度登る約束をした。楽しみ。

10/24(火)
 バンドの練習後、四条河原町のマックでみんなでご飯を食べた。hdkあたりが「三角チョコパイ食べたい」とか言い出しそれに乗じてみんなが「真中さん、三角チョコパイ食べたいです」と口にし出し、気がつけばみんなに三角チョコパイをご馳走していた。

10/25(水)
 nktkさんと大文字に登った。ちょっとの物音にびっくりしたり、息切れしてすぐ休憩を求めたり、火床からの景色にすごいと連呼して写真を撮りまくったり、東の空の月を指さして「え、なんか今日、月近くない?」と言ったり、nktkさんはとても率直なひとだった。
 「これ内緒ね」と言って話し出したり「え、今のカエル化した?」とふざけたりnktkさんはよく話す僕と同じぐらい話す人だった。中でも不満エピソードを話すときのnktkさんはとてもいきいきしていて、それを聞いているのがとても楽しかった。はっきりものをいうのが気持ちよくて、それなのに嫌味な感じにならないのが不思議だった。
 結局山を降りたあともご飯食べたりふらふらと歩いたりして話していて、そろそろ解散するかとなった頃には月が南中を終え西に向かい出していた。仲良くなれたら嬉しい。

10/26(木)
 昼間、yknが怪我をしたのに出くわし手当てを手伝った。病院にかかったところ骨折間近らしい。早く治りますように。
 「三年間ゆりかごだった」最近別れた友人が誠実な恋人との日々をそう振り返った。それがあまりに美しくて、切られた木の年輪を見るような、崩れた崖の地層を見るような、そんな気分だった。でも乗りたかったのはジェットコースターだったんでしょ?と言うと友人は笑っていた。それもとてもリアルで、三年という歳月をより一層浮かび上がらせていた。ゆりかごを出た二人それぞれに幸福のあらんことを。

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