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ゴッホ展に行ってみた

 日本ではファンの多い画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の展覧会が福岡市美術館でやっているので、その観覧報告です。福岡市では2022年2/13までです。(小野堅太郎)

 まぁ、凄い人気でした。地下鉄駅から大濠公園をのんびり10分ほど歩いたら福岡市美術館なのですが、2階入り口には人がごった返していました。午前中にネットでチケット予約して指定時間ちょうどに到着したのですが、100人は並んでいて、入れたのは30分後でした。こんなにもゴッホが人気だとは知りませんでした。

 ゴッホは現代に伝わる種々のエピソードが絵と結びついているため、物語性の高い作家として好きです。浮世絵の模倣、弟テオとのやりとり、ゴーギャンとの関係、耳切事件、療養所への入院、謎の死といった盛りだくさんです。

 ゴッホに関する映画も多くありますが、一番のオススメはポーランド映画協会支援でクラウドファンディングも受けた「ゴッホ 最後の手紙」という油絵アニメです。始めから最後までゴッホ風の絵柄でのミステリー映画です。家のTVではなく映画館の巨大スクリーンで観たので、感動が凄かったです。

 あと、美術史家の山田五郎氏のYouTubeも必見で、「なぜゴッホはヒマワリの絵をいくつも描いたのか」はかなり面白いです。今回の展覧会にひまわりの絵はありませんが、動画で紹介される「黄色い家」があります。結構大きい絵でびっくりしました。本記事のトップに上げているものですが、本物とはかなり色が違うので現物を見に行ってください。

 この黄色い家のあるフランスのアルルに住み始めた頃からゴッホの絵が面白くなってきます。ひまわりの一枚目はこの部屋から始まったそうです。

 本展覧会はゴッホの作品を年代を追って展示していますので、私は会場に入った途端に列を抜け出し、後半のアルル時代以降、特に療養所時代の絵(一枚だけ序盤に展示されているので見落とさないように)から見始めました。凄い人の数でしたので、多くの人がアルル時代の有名絵画にたどり着いた時には疲労困憊しており、あまり絵の前に居座る人がいない状態でした。前半をすっ飛ばした私は一枚一枚じっくりと観れてよかったです。

 8年前に研究留学でニューヨークにいたので、ゴッホの有名どころの絵はメトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)で何度も見ました。やはり人気の絵は迫力が違います。絵の具のモリモリ感と色使いが凄いです。福岡市美術館のゴッホ展ですが、目玉となる一枚を展示するというよりは、ゴッホの絵の価値を上げたコレクターであるヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションの満遍ない展示です。

 ゴッホは生きてる間は確か一枚ぐらいしか絵が売れていません。ゴッホの死後、弟のテオが作品を引き取ったようですが、テオも直ぐに亡くなり、小さな子を抱えるテオの妻ヨハンナに作品が残ります。とにかく生活のためにも無名のゴッホの回顧展をやる中で、ヘレーネがゴッホの絵を大量に買い集めるようになるわけです。

 19世紀に写真が開発されてきて、写実的絵画の「記録」としての有用性が失われていきます。肖像画も写真でいい、となってくるわけです。19世紀半ばには写真がヨーロッパ全土でブームとなり、絵画価値観の変容が出てきます。時同じくして、日本が開国して陶器などの美術品の包み紙として使われた浮世絵が注目されてきます。さて、絵画はどうあるべきかと試行錯誤して出てきたものが「印象派絵画」です。モネ、マネ、ドガたちです。写実的ではなく、情景の瞬間や雰囲気を荒いタッチで描くもので、写真では表現できない絵でした。

 ゴッホは幼い頃から絵がうまく、テオはそんな兄を尊敬したわけです。ゴッホ展では、ゴッホの美麗な素描画がたくさん展示されています。ゴッホが変な絵しか描けない人ではなく、そもそもは超絶絵がうまかったことが示されています。油絵を描くようになってからも絵はかなり上手いです。

 しかし時代は変わり、印象派が認められるようになりつつあったわけです。さらにゴッホは、浮世絵に関するジャポニズムブームの直撃を食らいます。「え、輪郭線書いたり、構図を誇張しちゃっていいの?」となります。アルルでは絵も売れず、友人もできず、奇行に走り、そんな中、彼の絵が徐々に変貌していくわけです。ネジくれた極端な構図と荒いタッチによる光表現。不安定な輪郭線を引いて、赤や緑をハイライトで使用します。白い花は絵の具モリモリで花弁を表現します。風景画が書き手の悩みを表現し、人物画なのに何かを主張してきます。それが死後、ポスト印象派として高い評価を受けることになり、現在は投資対象として高額の値がついているわけです。ゴッホ展では、作品を年毎に総額表示していて、みんなが桁数を数えて驚いていました。

 ゴッホ展の最後の部屋にはゴッホの絵はなく、ヘレーネのコレクションの有名どころ作品があります。個人的には、目玉の不気味なモノクロ画を描くルドンの油絵が見れたのが嬉しかったです。これも山田五郎氏のYouTube解説があります。

 しかし、本当の個人的衝撃は福岡市美術館の常設展でした。大好きなダリの大好きな絵があったのです。え、日本に、しかも福岡に飾ってあったのかよ!シャガール、ミロ、藤田、バスキアなど、いきなり凄い部屋があります。古美術展も螺鈿が綺麗でした。ゴッホ展に行くとオマケでこれらも閲覧できます。こちらも行かないと損です。

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