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プレミアリーグ第18節 ウォルヴァーハンプトンVS.マンチェスター・ユナイテッド ~成熟の兆し~

まずは、両チームのスタメンから。

①スタメン

Ⅰ.ウルヴスのプランとユナイテッドの対応力

1⃣ウルヴスのプレッシング&ビルドアップ

②ウルヴスのミドルサードでのプレッシング

 この試合のウルヴスの守備時の配置は4-4-1-1。プレッシングの開始ラインをミドルサードに設定し、そこに4-4-1-1のブロックを構える。まず、CFのD.コスタまたは列を上げてカゼミロをマークするIHモウティーニョがさらに飛び出して、相手CBへプレッシャーを掛ける。ボールをサイドに誘導し、赤の点線で表されたそれぞれの守備の基準点に従って、サイドから中央に入ったボールを奪い取るか、相手をサイドに追い込む狙いである。

③ウルヴスの相手ゴールキック時の数的同数プレッシング

 また、相手ゴールキック時には右WGヒチャンが相手左CB、右SBセメドが相手左SB、右CBコリンズが相手左WGに、というように右肩上がりにポジションを上げて3-4-1-2のような配置になる。相手の4-3-3に対する3-4-1-2での数的同数プレッシングを行う。

④ウルヴスのビルドアップ

 ウルヴスのボール保持時の基本配置は4-3-3。ビルドアップ時には両SBが高い位置を取り、2CB+DH+列を下りた左IH(+たまに右IH)の4(5)枚で行う。まず、GKの利用やDHネヴェスの列を下りる動きでCBを広がらせて、「ハーフスペースの入口」からボールを供給するようにする。そのCBに対して、右はCB-SB-DH-IH、左はCB-SB-IH-WGの4枚でひし形を作って前進を狙う。GKが係われないエリアではDHネヴェスor右IHヌニェスの列を下りる動きで3バック化したり、ヌニェスの代わりにモウティーニョが低い位置でのビルドアップに関与するなど、原則の徹底や局面ごとの応用も見せていた。

 ユナイテッドはプレッシング時、いつも通りの中盤のマンツーマン気味の守備を基本とした4-2-1-3の配置。➃のようにブルーノが相手DHをマークしてカゼミロが列を下りる相手左IHを対応することになるが、(サイドチェンジされてカゼミロのスライドが間に合わないときなどに)どうしてもブルーノVS.相手のDH&左IHの1対2の状況が生まれてしまい、対応が遅れていた。
 ユナイテッドのプレッシングの構造的弱点となる(相手CBまでプレッシャーを掛ける)WGの背後のスペース。この試合では、ユナイテッドのSBもタイミングよく縦スライドして、そのスペースにいる相手SBに対応できていたが、それでも8:03~のシーンのように少ない「時間」で突破の起点とされることもあった。
 ユナイテッドのWG裏のスペースの利用に加えて、ブルーノに対する2対1局面を創出できていたウルヴスは、9',10',16'の場面のようにユナイテッドのプレッシングを機能させなかった。

⑤時間帯に分けた前半のスタッツ[Whosored参照]

 ⑤が前半20分を区切りにして分けた前半の主なスタッツ。(シュート数、コーナーキック数こそ相違はあるが、)前半20分まではウルヴスが保持率、パス本数、タッチ数で上回っているのに対して、前半20分以降のそれらの値における優位はすべて反転している。
 ウルヴスは上記したプレッシング&ビルドアップでユナイテッドよりもボールを保持し、ユナイテッドが得意かつ好んでいる「ボールを持つプレー」をさせなかった。しかし、前半20分以降のユナイテッドの2つの修正によってユナイテッドはウルヴスからボールを取り上げることに成功する。以下、その2つの修正について見ていこう。

2⃣ユナイテッドのピッチ上での2つの修正

 上述したように、ユナイテッドは(監督の指示があったかは定かではないが、)HTを挟まずにピッチ上での修正を行った。まずは、ユナイテッドのプレッシング局面から。

⑥ユナイテッドのプレッシングの修正

 プレッシングの修正、それは中盤の配置の変更である。前半20分までの中盤を正三角形とした4-2-1-3から中盤を逆三角形とする4-3-3気味に。そして、中盤の基本マーカーをブルーノ→相手左IH、エリクセン→相手DHに設定。これによって局面的に発生する相手の中盤での数的・位置的優位は消え、サイドの選手含めてほかの選手たちの守備の基準点もはっきりする。
 この細かいけれど大きな修正によって、ユナイテッドの選手たちのプレッシング時における迷いは減少し、連動した激しいプレッシングが見られるようになる。19:40のプレーからその修正が見られており、修正前は20'のミドルサードでのボール奪取ぐらいしかプレッシングでボールを奪えなかったユナイテッドだったが、修正後は前半だけでも21',24',28',38'と高い位置からのプレッシングに成功している。

⑦ユナイテッドのボール保持での修正

 次はボール保持。こちらはほぼピッチ上での修正と思われる。その修正はビルドアップ時でのカゼミロの列を上げる動きエリクセンの列を下りる動きである。後者に関しては、前半20分までにも何度か見せていたが、24:44のシーン以降、ビルドアップ局面においてエリクセンの列を下りる動きは明確に増えた。それに呼応するようにカゼミロも列を上げる動きをときたま行っており、相手の中盤3枚のマークをずらす狙いを見せる。
 ただ、エリクセンの列を下りる動きに対して、相手のマーカーであるDHネヴェスが付いてこなければ、エリクセンがそこで前を向いてそのままチャンスメイクとなるが、当然そうもいかない。迷いやスライドの遅れは若干あるにせよ、ネヴェスはしっかりとエリクセンについていき、エリクセンに前を向かせない姿勢。ただ、ユナイテッドの後方の選手もそれは織り込み済み。

⑧エリクセンの列を下りる動きによるウルヴスの2-3列目間の空洞化

 ⑧のようにエリクセンの列を下りる動きにネヴェスが付いてくると、空いてくるのはウルヴスの2-3列目の間。そこで待つ4枚の選手もマークされているのでパスを通すことは難しいが、ユナイテッドは2-3列目間に目掛けてロングボールを供給することで、相手の空洞化した中盤を狙っていた。
 ユナイテッドは26',30',33'と「エリクセンの列を下りる動き」+「ロングボール」でビルドアップすることができ、その後のボール保持のリズムをつくれていた。

 この修正によって、得点も入っていなければ、スタッツ的に優位を奪ったとも言い難い。ただ、チームとしての完成度が高まり、ピッチ上での修正を可能にした点は、シーズンを戦っていく中で大きな前進している証明なのかもしれない。

Ⅱ.勝利の要因とチームの完成度

1⃣ウルヴスの5-4-1化と得点機のチームとしての動き

⑨後半のスタッツ[Sofascore]

 ⑨が後半のスタッツ。ちなみに前半のxGWOL(0.32):MUN(1.12)。後半もユナイテッドが主導権を握っていたとはいえ、膠着状態が続いた。
 そんな中、73'にウルヴスのベンチが動く。LSBブエノ⇒CBブエノ、IHモウティーニョ⇒LWBアイ=ヌーリの交代で配置を5-4-1(3-4-3)に。

⑩73'時点での両者のスタメン

 この交代の意図は正直不明だが、打ち合い気味になっていた試合を落ち着かせ、「0-0でもOK」のメッセージをチームに伝えるものだったというのが個人的推測。
 この交代によって、ユナイテッドは撤退した相手の5-4-1ブロックを崩すという難儀なミッションに挑むことになるわけだが、ピッチ上の選手がそのブロックを割るのはテンハグのVDB投入という交代策よりも早かった。

⑪得点シーンの右サイドでの攻防⇒左サイドの崩し

 75分の得点シーン。左サイドでラッシュ&マラシアVS.相手右SBジョニーの2対1を作り、マラシアが大外を回って最後はラッシュ&ブルーノのワンツーとラッシュの個人技で完結。
 ただ、少し巻き戻してその起点となる⑪で表した右サイドでの攻防に目を向けると、ユナイテッドの攻撃がウルヴスの守備ブロックをチーム全体で攻略していたことがわかる。

⑪のシーンについて
(1)
左サイドのスローインから、右CBヴァランまで展開。ワン=ビサカの相手ライン間への侵入と同時に、ヴァランがドリブルで運んで大外のアントニーに展開するそぶりを見せるが、相手左STポデンセがそのコースを切る構えのため、キャンセルしてヴァランは内側にボールを運ぶ。
(2)
相手の左ST、左CH、CFの3枚に囲まれたように見えたヴァランだったが、⑪内の緑色で示したように、ユナイテッドはヴァランに5つ(最終的に広がるワン=ビサカと大外アントニーはコースが被って4つ)のパスコースを用意していたため、ヴァランは3人の隙間からフレッジへボールを供給。
(3)
フレッジはマイナスのカゼミロにワンタッチで落として、カゼミロもワンタッチで左サイドのハーフスペースに位置するマラシアに展開。
(4)
マラシアも2タッチで素早く、大外のラッシュに預けて相手左SBに対して、時間とスペースがある状態で2対1を創出。

 この右サイド⇒左サイドでの崩しは、「同サイドに集まって、逆サイドでの突破」というテンハグがアヤックスで見せいてた王道パターンである。ヴァランがボールをもらった時点では左のブルーノと近い位置にいたマルシャルもボールサイドに寄り、ワン=ビサカの動き出しで空いた相手のCH間のスペースに顔を出している。それ以外の選手もヴァランの運び出しに合わせて、ブルーノ、マラシア、ラッシュフォードの3枚以外は右方向に動きを付けており、⑪で示したように相手の守備ブロックの矢印を右サイドに大きく向けている。
 そしてその相手を密集させた空間で、相手に位置的優位(相手の選手と選手の間の中間をとるポジショニング)、瞬間的な数的優位(5つのパスコース)をつくり逆サイドに展開して、膨大な時間と広大なスペースがある左サイドで個人技に優れたラッシュを中心とした崩しで得点に至る。ラッシュの突破力はもちろん、彼の特徴を鑑みて自分は後ろに下がる動きを見せたうえでワンツーをラッシュに「選択させた」ブルーノも見事だった。

2⃣選手がテンハグ流を理解し始めている

 得点シーンの右サイドの崩しから必見。アヤクシートの方からしたらまだまだかもしれないが、ほぼアヤックスだと個人的に感じた。

 Ⅰ.で見てきたピッチ上での修正力の向上、Ⅱで見てきたテンハグ流の崩しの完遂。どちらも、明らかにチームとして成熟してきている証。テンハグの交代前にピッチ上で最適解を導いて5-4-1ブロックを崩して得点を取ってしまうのだから、選手たちはテンハグ流、そしてボールを持って得点を奪う方法の深部を理解し始めている気がします。このままのメンバーでもかなり強いチームになってましたが、きたる移籍市場で獲得する選手によっては優勝争いに食い込む可能性すらあるかもしれないと思っています!!
きっとガクポがこなくても大丈夫なはずですよね…(笑)。では。

タイトル画像の出典
https://www.sofascore.com/manchester-united-wolverhampton/dsK


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