見出し画像

プレミアリーグ第21節 アーセナルVS.マンチェスター・ユナイテッド レビュー

 両チームのスタメン。

①スタメン[Sofascore]

Ⅰ.徐々に表れる両チームの差

1⃣ハイインテンシティと相手への「慣れ」

②前半のスタッツ[Whoscored]

 ②は前半のスタッツ。そして、前半のxGARS(1.22):MUN(0.11)。どうみてもアーセナルが内容的に上回った前半だった。それでも先制したのは、ユナイテッド。ラッシュフォードのゴラッソ。このゴラッソを無理やりにでも、チームとしての文脈で考えたい。
 試合開始当初から、互いに激しいプレッシング、ボールを奪ってからの速攻で息つく暇もないハイインテンシティな試合となった。試合序盤ということで、ハイインテンシティ下で両チームとも相手の守備の方法が見えない状態でのビルドアップが強いられる。序盤20分でいえば、アーセナルは0:30~,8:00~,9:11~でプレッシングを起点とした一連の流れからチャンスを作っており、ユナイテッドも6:38~,16:00~と崩されかけながらも相手陣内からのプレッシングによるボール奪取に成功している。

③16:00~のアーセナルのビルドアップ局面

 そして、③で示した16:00~のアーセナルのFKからのビルドアップ。この局面を起点にユナイテッドの得点が生まれる。アーセナルの4-3-3に対してユナイテッドは4-2-1-3で嚙み合わせを合わせて「人」を基準として守るいつも通りのプレッシングである。
 アーセナルは左CBガブリエウが「時間」を得てボールを持ったところで、左IHジャカが列を下りる動き。ジャカが空けたスペースに左WGマルティネッリが入って中央で瞬間的な位置的・数的優位を確保して、ビルドアップを狙う。
 しかし、ユナイテッドも右WGアントニーの外切りとCFヴェフホルストの中央からのプレッシャーでパスコースを限定している状況。右SBワン=ビサカがボールをもらったマルティネッリに激しいフィジカルコンタクトを行い、後方にボールがこぼれたところを右CBヴァランが回収に成功する。
 紙一重のやり取りであったが、アーセナルが相手のプレッシングに完全には慣れきっていないことによってユナイテッドは相手陣内でボールを奪う。

④16:27~のユナイテッドのボール保持(定位置攻撃)の局面
⑤アーセナルの基本的な守備(ボール非保持)プラン

 奪ったボールで今度は、ユナイテッドが撤退したアーセナルの守備ブロックを崩す定位置攻撃の局面に突入。この試合のアーセナルの撤退守備を含めた基本的な守備時の配置は4-1-4-1。⑤のように、ユナイテッドの4-2-1-3に対して、中盤3枚は「人」を意識しながら、サイドの選手は中央に絞って中央のパスコースを封鎖し、相手の攻撃をサイドに誘導する狙いである。②のボール保持率の値からもわかるように、アーセナルはそこまで苛烈なプレッシングは行わずに、4-1-4-1のミドルブロックを敷いていたといえる。
 4-1-4-1の欠点は、相手2CBとCFが1対2の状況となり、相手CBにボールを持ってパスをすることのできる「時間」と「スペース」を与えることである。アーセナルはCFへのフォローとして右IHウーデゴーアが列を上げて相手CBへプレッシャーを掛ける決まりごとを設定していたが、相手CBの自由を奪う目的ではなくパスコースを制限するためのものであった。
 ➃の場面でも、ボールを持ったユナイテッド左CBリサンドロが「時間」を得たことで、相手DFライン裏に抜け出したブルーノにロブパスを出すことができている。そのこぼれ球を拾ったアーセナルだったが、ユナイテッドのカウンタープレスに捕まり、ボールを奪い返される。陣形が整っていないトランジションの状況にラッシュフォードが登場。例のゴラッソとなる。

 ちなみに、5:48~のシーンでもリサンドロの裏パスにブルーノが抜け出してあわやGKと1対1という状況が生まれている。伏線とまではいわないが、ユナイテッドの先制点はアーセナルの守備の構造上の弱点(1トップ周辺の広大なスペース)を突いたことによる副産物といえそう。

2⃣首位を快走するアーセナルの実力

 先制点を奪われたアーセナル。しかし、20分までに既にCK3本、キーパス3本と内容が決して悪かったわけではない。ユナイテッドの偶発性を多分に孕んだゴールを前に、首位のチームは焦りを見せなかった。失点後のアーセナルに明確な変更点はなく、積み上げてきたもの・この試合に向けて準備したものをぶつけ、前半のうちに追いつくことに成功する。

⑥20:20~のアーセナルのビルドアップ局面

 20:20~のアーセナルのビルドアップ。恐らくこの試合で始めて、自陣ディフェンディングサードからのビルドアップに成功した場面である。DF3枚+アンカーで相手の3トップ&OHを引き付け、空いた相手1-2列目間に右IHウーデゴーアの列を下りる動き発動。ボールが逆サイドにある場合は、相手CBを見ることを約束事としているユナイテッドのWGの裏のスペースにいる左SBジンチェンコに一発でボールを届けたウーデゴーア。アーセナルはそこを起点とした崩しで、CKを獲得している。

⑦22:07~のユナイテッドのビルドアップ局面
⑧アーセナルの数的同数プレッシング(イメージ図)

 CKはマルティネッリのシュートミスに終わるが、直後の22:07~の相手ゴールキック。2:30~,8:02~,9:11~と、「相手ゴールキック時または相手GKがボールをもったとき」を条件として試合開始当初から行っていた数的同数プレッシングを見せる。
 ⑧のようなイメージで、右WGと右SBが列を上げて3-5-2のような配置となり、2トップのパスコース切りで相手GKのパスコースを「左SBへのロブパス」に制限する。ロブパスは距離が長く、ボールの軌道も山なりになるので、そのボールの移動中に右SBホワイトを含むチーム全体がスライドをして、相手を囲い込む狙いだ。
 ⑦の22:07~ではアーセナルの狙いを外すために、デヘアは右サイドにパスを供給するが、ワン=ビサカとの距離感が長く、ボールの移動中にマルティネッリに間合いを詰められたワン=ビサカはボールを奪われ、アーセナルが再びCKを獲得する。そのCKからの一連の流れで、エンケティアのヘディングが炸裂。左サイドの崩しも見事だった。

 W杯明けからの調子の良さをそのままに先制したユナイテッドであったが、②の20分以降のスタッツが示すように、アーセナルとの地力の差を徐々に見せつけられる前半となった。そして、後半も大局はあまり変わらなかった。

Ⅱ.挑戦者の粘りと王者の貫禄

1⃣両者の得点を生んだアーセナルのビルドアップ局面

⑨後半のスタッツ(左:アーセナル 右:ユナイテッド)[Sofascore]
⑩後半の時間別スタッツ[Whoscored]

 ⑨の後半のスタッツを見てもわかるように、アーセナルが主導権を握る展開は前半と相違なかった。ただ、⑩で見ると意外とスコアが2-2になるまでは互角の戦いだったらしい。そんな両者の得点が生まれたのは、どちらもアーセナルのビルドアップを起点としていた。

⑩50:30~のアーセナルのビルドアップ

 自分でも同じような図を作るのは面倒くさいと感じたが、まさに⑥の再放送が⑩の50:30~の場面では起きた。2CBが重心を下げて相手3トップ&OHを引き出したスペースに右IHウーデゴーアの列を下りる動き。ウーデゴーアから、ユナイテッドのWGの背後のスペースで待つ逆サイドの左SBジンチェンコへ。
 実は、30:26~,38:40~,62:35~と同様にIHや右WGサカの列を下りる動きから相手WG裏で待つSBへボールを届けるプレーが行われており、アーセナルはユナイテッドのプレッシングの構造上の弱点を見抜いていたといえる。

⑪アーセナルのCKを獲得した崩し

 ⑩の局面で前進に成功したアーセナル。ユナイテッドの撤退守備に対しても、アーセナルはユナイテッドの守備の弱点をしっかりと突く。サイドでのボール循環から、右WGサカの内側にカットインから中央の右IHウーデゴーアへ。ウーデゴーアがボールをもらった際、相手DFラインに対して左IHのジャカが飛び出し、CFエンケティアはその場に止まる動きを見せる。ジャカのマーカーがマクトミネイ⇒ヴァランへ、エンケティアのマーカーがリサンドロ⇒マクトミネイへというユナイテッドのマークの受け渡しの一瞬の隙を見逃さなかったウーデゴーア。エンケティアに預けて、もう一度ボールをもらうとジャカへの変態パスでCKを獲得。

 獲得したCKから、これまたサカのゴラッソであった。得点自体はCKというセットプレーだが、相手WG裏(マンツーマン気味に守る)相手ダブルボランチに対する3対2の創出というように、アーセナルがユナイテッドの守備の欠点を突いたことによって生まれた得点であった。

 だがしかし、である。食い下がる挑戦者。サカの逆転弾から僅か、6分後の59分にCKからリサンドロの執念の得点で追いつく。
 ユナイテッドは54:27~のスローインからのロングボールで一気にチャンスを作って、陣地回復。56:00~に相手を押し込んだ状態で相手DFライン背後へのパス。相手ボールのスローインを奪い返すも、結局相手のゴールキックに。

⑫57:18~のアーセナルのビルドアップ

 そのゴールキック。⑫のようにアーセナルがGK⇒WG裏のSB⇒同サイドでの中盤2枚の係わり(相手2-3列目間)によって突破したかのように見えた。しかし、左SBジンチェンコからボールをもらったDHトーマスはプレスバックしてくるブルーノに焦ったのか、CFエンケティアへのパスを引っ掛けてしまう。
 ボールを奪ったユナイテッドは速攻。ワン=ビサカ⇒アントニー⇒ブルーノ⇒ヴェフホルスト⇒ブルーノ⇒ヴェフホルストと繋ぎ密集を突破すると、左サイドにボールを展開。ボールをもらった左SBショーとブルーノでワンツーを行い、CKを獲得。
 速攻はモウリーニョ政権からの強みであるが、今季はパスワークに磨きがかかったことで、ボール奪取から相手のカウンタープレスを剥がして速攻に繋がるケースが増えている気がする。4局面のシームレス化。そんな言葉がフリックバイエルンによって一気に広まったが、今季のユナイテッドはシームレスなサッカーができつつある。
 それにしても、怪我している頭で押し込むリチャの闘志はすごいの一言。

2⃣人は変えても、問題点は変わらず…

 59分のリサンドロの得点から、試合は若干の停滞。⑩を見てもわかるように、構図はアーセナルがボールを保持して、ユナイテッドが守るかたち。アーセナルの勢いの衰えないプレッシングにユナイテッドがロングボールで逃げるのに対して、ユナイテッドのプレッシングはほぼ機能しなくなっていことが一因である。
 71分のフレッジ投入以降、マクトミネイ-フレッジのダブルボランチの間にトップ下のエリクセンが落ちて3センター気味になるなど、中盤の流動性と活力が増したが、この試合の前半から続く問題点は拭えないままだった。

⑬アーセナルの3点目の崩し

 89分にアーセナルのエンケティアの土壇場弾。起点となったのが、⑬の右サイド⇒中央⇒左サイドへと相手1-2列目間でボールを繋いだ崩し。
 87:57~のGKからのビルドアップで、一度ユナイテッドのプレッシングに捕まるものの、ボールを取り返して左WGトロサール(途中投入)のドリブルで前進。右サイドに展開したボールを一度奪われるが、激しいカウンタープレスで回収し、2次攻撃へ。右サイドのスローインから、一度中央に戻して、再び右サイドの大外(右SB冨安)に展開。冨安から中央に入った右WGサカへボールが渡り、⑬の局面となる。
 サカが内側へのドリブルでフレッジを引き付けたうえで、DHトーマスへ。トーマスの2タッチでのジャカへのパスは少しずれたが、偶然にも左WGトロサールまで流れて、ユナイテッド右SBワン=ビサカに対して左WG&左SBで2対1の状況をつくることに成功するアーセナル。自身のドリブルによって相手右CBヴァランを釣りだしたうえで、大外のジンチェンコへボールを流したトロサール。ヴァランの空けたスペースにマイナス方向のクロスが上がると、そこでトロサールとウーデゴーア、マクトミネイとフレッジが交錯し最後はエンケティアがカンフーキックで押し込んで得点。
 相手WG裏で待つSBにボールを届けること、中央で相手CH+OHの3枚に対して4枚以上の選手が立ち位置を取って、位置的・数的優位を確保すること、この試合でアーセナルが前半から取り組んでいたことが結実した得点だったといえる。

 「中央での位置的・数的優位?、急に出てきたやん。」といわれるかもしれないが、実はこの試合のミドルサードでのビルドアップや崩しの局面で最も意識されていたのが、(前回対戦と同様に当然のことではあるが、)中央での優位をつくるということである。ちなみに、3点目のシーンでは中央での優位の創出の役割を(相手の3枚の中盤に対して)DH+左IH+両WGの4枚が担っているが、試合全体を通して目立っていたのが、左SBジンチェンコの内側に絞る動き(偽SB)とそれに対応した左IHジャカの外へ流れる動き、つまりポジションチェンジである。

⑭アーセナルの左SB&左IHのポジションチェンジと中央での優位の創出

 ⑭の場面の他にも11:55~,19:25~,35:50~,43:26~,45+1:25~で左SBジンチェンコの中に入る動きからのビルドアップが確認されている。2CBがボールを持った際に、左SBジンチェンコが内側に絞り、ジンチェンコのいたスペースにジャカが列を下りる動きで顔を出す。さらにジャカが空けたスペースにCFのエンケティア(もしくは左WGのマルティネッリ)がボールを引き出す動きをする。⑭の64:40~のシーンでは、右CBにボールが入ったときにジンチェンコとトーマスの2枚がパスコースを作り、ブルーノに2対1の状況を押し付けて前進に成功している。
 この場面のように、中盤がひし形の3-4-3に近い配置をとるアーセナル。余談ですが、アーセナルの配置を3-4-3と考えると、ジャカの動きはW杯日本VS.ドイツ戦の前半で日本の右サイドを崩壊させたミュラーの動きとほぼ同じ原理。
 前回対戦でもジンチェンコのボランチ化による3-4-3に苦しめられたユナイテッド。困り果てたユナイテッドはヴェフホルストが位置を下げて、4-2-4-0のようにしたり、フレッジ投入後右WGに入ったブルーノが極端に絞るなど、個人戦術による修正はあったが、チームとして明確な打開策は見せられなかった。フレッジ投入というマンパワーに頼った修正では効果が薄く、ユナイテッドのプレッシングは機能を失っていったということは否めない。
 推測に過ぎないですが、アーセナルの3点目の⑬の場面で大外に張るジンチェンコを無視してブルーノが極端に絞っていたのは、ブルーノが内側に絞るジンチェンコに対応するために見せていた立ち位置の修正による名残や錯覚が生まれたことによるものかもしれない。

 リードしたアーセナルは最後は締めのホールディング投入で逃げ切り。ユナイテッドは一歩及ばずという試合だった。

Ⅲ.総括

 61:30~の速攻、フレッジ投入後の75:35~のカウンタープレスによるボール奪取から、86:14~のロングボールからのチャンスの創出、87:57~のプレッシングというように、惜しいシーンも見せたユナイテッド。しかし、やはりビルドアップ&プレッシングの両面で圧倒されたことは否めず、ディティールの差は感じられた。
 この試合で見せつけられた差を糧に、今後、この試合で見せた一瞬の輝きを試合の中の繋がりとして見せることができるようになるか。期待です。
 では。

タイトル画像の出典
https://www.sofascore.com/arsenal-manchester-united/KR


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?