見出し画像

5. 強迫症的なオレンジ色の部屋- 強迫症的なオレンジ色の部屋

強迫症的なオレンジ色の部屋

5. 強迫症的なオレンジ色の部屋

 病的なオレンジ色の部屋に閉じこもり、ひとり叙事詩をかきつづけていたわたしは、法則がみいだせないものを嫌うようになった。美しさもすべて法則のうちにみいだされるという考えに取り憑かれた。わたしは均衡がとれ、体系化され、整列されたものを好むようになった。論理的ではないものは、わたしの神経を衰弱させる。
 さまざまな調子のオレンジ色に染まった部屋に対して、わたしは苛立ちと不安をおぼえるようになった。統一されていないオレンジ色の具合は、神経症を悪化させていったため、対策に講じなければならなかった。

 そこでわたしは、部屋の壁を細かい模様で埋め尽くした。くる日もくる日も、壁に模様をかきつづけた。模様を考案するにはそれほど時間がかからなかった。かたちは朝顔の花弁を幾何学的に分解したものにした。色はオレンジ色と相性のよい色を使うことにした。光りをそのスペクトルから理論的に分解することで、すみれの色とエメラルドの色と青みがかった紅色を採用し、それらの四つの色で模様を構成した。模様をすこしのずれもなく整列させることに神経を研ぎすませ、いきるための生理的な欲求のように壁に模様をかきつづけた。
 床はオレンジ色と、色調としても時間としてもオレンジ色と対称になる色との縞模様に塗りかえることにした。時間的に対称とは、オレンジ色が薄明の色なのであれば、ちょうど日没し太陽が世界から消えてすぐの、仄暗いころの空の色を想起させる色のことであり、藍色を採用した。形状だけではなく、時空の幾何学性も意識した。
 絨毯さえ敷かずに剥きだしにされた縞模様の床の上には、午後二時の太陽のような力強いオレンジ色に塗られた正方形の作業台と、二脚の椅子を左右対称に配置した。
 この簡素な空間でわたしはひとり、かきつづけていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?