叙事詩

「古典は古びない」とみんないうけれど。──ホメロス『イーリアス』上巻(呉茂一訳、平凡社ライブラリー)

古典は古びない、現代にもそのまま通用する、などと言われ、それは必ずしも間違ってはおらず、そのとおりなこともままある。
 のだけど、古典のおもしろさが「現代にもそのまま通用すること」だと思っていたら、古典のおもしろさのかなりの部分を取り逃してしまうとも思うのですよ。

 本稿の題は、綿野恵太さんの快著『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社)のもじりです。

ホメロスやギリシア悲劇を読む前

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巻末折込付録「ヴェーダ文献一覧表」が助かる──辻直四郎『インド文明の曙 ヴェーダとウパニシャッド』(岩波新書)

辻直四郎『インド文明の曙 ヴェーダとウパニシャッド』岩波新書、1967。

 インド文明についての文章には、ヴェーダ文献とかウパニシャッドとか『マヌ法典』とか『バガヴァッド・ギーター』といったものが出てくる。
 それらがいったいどういう関係にあり、どういう布置になっているのかが、断片的な情報を拾うばかりではまったくわからない。ややこしいらしい、ということくらいしかわからない。

 それで、本書『イ

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主婦は勝利した戦士として家庭を統治する 『リグ・ヴェーダ讃歌』

辻直四郎訳『リグ・ヴェーダ讃歌』岩波文庫、1970。
 ऋग्वेद (ṛgveda, Rigveda、梨倶吠陀)の抄訳。

 ヴェーダのなかでマントラ(मन्त्र Mantra、祭詞、呪詞、真言)を収める中心部門サンヒター(संहिता Saṃhitā、「集められたもの」、本集)のうちのひとつで、リグ自体が讃歌の意味を持つ。
 使用言語であるヴェーダ語は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』の

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たいていのお話は、似たような話がどこかよその文化にもむかしからある──《筑摩世界文学大系》第1巻『古代オリエント集』(杉勇+三笠宮崇仁編、筑摩書房)

《筑摩世界文学大系》第1巻、杉勇+三笠宮崇仁編『古代オリエント集』、筑摩書房、1978。

 これは珍しく10代で読んだ。ここからは

『シュメール神話集成』
『ギルガメシュ叙事詩』
『エジプト神話集成』

の3冊の文庫本が出ている。

 ここでは2019年現在まだ文庫化されていない部分である「アッカド」( 「ギルガメシュ叙事詩」「イシュタルの冥界下り」を除く)「ウガリット」「ヒ

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殴り合ったすえに「お前すごいな」「お前こそ」のフォーマットの元祖──『ギルガメシュ叙事詩』

『ギルガメシュ叙事詩』のもととなった神話は、紀元前2000年ごろには成立していたという説もある。以前「ギルガメシュとアッガ」について書いたように、これはもともとシュメールの神話群だ。

 けれどこれを集大成した形で叙事詩にまとめているのは、アッカド語によるものである。
 シュメール語版もあったと思われるが、それがアッカド語になってからも改変や追加がなされたようだ。
 19世紀後半に発見・解読された

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読みにくかったら、リライトで読んだらいい──シオドア・H・ガスター『世界最古の物語 バビロニア・ハッティ・カナアン』

古代オリエント文学は、読まず嫌いの僕にしては珍しく、10代のころに《筑摩世界文学大系》第1巻『古代オリエント集』でおおいに骨を折って読んだ。

 前回書いたように、欠けの多い書板を厳密に訳して学術的な正確さを求めた古代オリエント文学のような古い文献は、「お話」(ナラティヴ)として読もうとすると、なかなか読みにくい。

 当時、シオドア・H・ガスター『世界最古の物語 バビロニア・ハッティ・カナアン』

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