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窓の外は雪

みんな毎日こんな生活してるのかなあ、歳取ったらボケちゃうよ。

百貨店の最上階のカフェでお茶をしていると彼はそう言った。だいたい50代くらいのおばさまたちが午後のお茶会をしている。私の席から見て三組、奥はVIPルームのようで、そこにも何組かがお茶会をしているようだった。

彼は平日、脇目も振らずに働いているらしく、それに将来の不安を抱いているようだった。脇目で仕事をしているような私とは真逆の生活を送っている。彼が漏らしたその言葉をなぜかすぐに理解し、心に不安が広がった。

不思議だけれど、ときに全く別の、本来ならお互いに交わることのない人の方が理解出来ることがある。

私は人生を自分の意思で選んでいるように思っているけれど、裏を返せば何かの拍子で選ぶはずだったもう一方の人生を捨てて今を生きている。だから、もしかしたら自分が見ているはずの景色を相手が見ているのかもしれない。 勝手だけどもう一人の自分を見ているような気持ちで隣にいる彼を見ている。

カフェの大きな窓を見ると、外は雪が降っていた。やっと寒くなってカナダグースを意気揚々と着ているご婦人の横で、私は近所で見つけた新しいロングコートを意気揚々と着ている。彼はスーツ用のコートにそれに合わせた少しくたびれたマフラーをして、私と手を繋いでコートのポケットに突っ込む。これがとても暖かい。

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