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受け取る日

先日、特別な買い物をした。写真である。私も大人になったもんだ。

その写真は、夏頃から見に行きたかった写真展で飾られていたもの。猛暑日に息を切らし汗を垂らしながら訪れたときは、夏季休業中で入れず、ドアの前で立ち尽くした。なんという人生。それからすっかり忘れていたが、秋になってふと思い出し、会期終了30分前に滑り込んだ。私らしい。

綺麗なモノクロのプリントは、写真の中にある風の匂いも感じるほど、多くの情報を持っていた。湿度も分かる。そしてその中にあった、2枚の写真をとても気に入って、どちらを買おうか迷っていた。

写真を買うことは、私にとって新たな挑戦である。何年か前から買おうと思いつつも見るだけで帰ってしまっていた。「あの写真、買えば良かった!」と、その後何度も何度も後悔していたので、今日は絶対に買う、と心に決めていた。

そして2枚の写真のうちの、少しボヤーっとした方を選んで、「これ買います!」と、スタッフさんに宣言。とても嬉しそうな表情で私を見つめてくれた。スタッフさんからキャプションでは汲み取ることのできないお話を伺い、作家さんもいらっしゃったので少しだけお話しできた。撮影の日のこと、外国の思い出、カメラについて、海について、海辺のお店、ぼやけた景色のタネあかし。作品を買うということの素晴らしさを学ぶ。買ってからじゃないと知ることのできない、新しい写真の世界が見えた気がする。

「モノクロはいいですよ、経年変化を楽しめますから。」と仰った。

やっぱり写真には、文学の響きがあると私は思う。その瞬間の前後は、まるで映画や小説のようなストーリーがあるから。

写真が仕上がり次第、また受け取りにギャラリーに行く。でも写真を受け取る前に、私は多くのものを受け取ったのだった。


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