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つかえますか

「テレビ朝日ですが、お話うかがってもよろしいでしょうか?」

急に来た…

都内の駅前。銀行を出たところで、突然話しかけられた。ゲリラ豪雨や腹痛だって、多少の猶予はくれるのに… まばたきする暇もないまま固まった。

20代に見える二人組。一人は、手にデジカム、もう一人はマイクを持っている。(以下、Mr.マイク) 今どき、街角でインタビューを受けた経験のある人は、山ほどいると思うが、自分は初めてだった。

なんの前触れもないアプローチ。思考停止するまでのコンマ5秒くらいの間、ほぼ同時にいくつかの※項目が脳裏をよぎった。

※本当にテレビ朝日のスタッフか?
※本当にテレビ番組か?
※AbemaTVじゃないのか?
※本当なら何の番組だ?
※どうして自分に声をかけてきたんだ?


見ると、Mr.マイクは首から見覚えあるものをぶら下げている。テレビ朝日の入構証だ。疑われないよう、身に着けているのかもしれない。

一瞬「同じ業界の人間です」と言おうか、ここまで出かかったが、話のネタになると思い、「なんでしょうか?」と、平静を装った。

Mr.マイクは「先日、この付近で起こった事件をご存じですか?」と訊いてきた。そういえば、ヤフトピで見ていたので、知っていることを伝えると「犯人は逃走中ですが、どう思いますか?」と、たたみかけてきた。

私がすぐに答えなかったので「言葉に窮した」と、思われたかもしれない。「う~ん」と、唸りながら周りを見たり、空を見たりしていると
思ったことをそのまま言っていただければいいです…」と、促してきた。

答えが見つからなかったわけではない。コメントを考えていたのだ。

普段、テレビを見ていると、街頭インタビューのシーンなんて、しょっちゅう目にする。「街頭インタビュー」って、当たり前のようだけど、制作する側からしてみると、実際にもらうのには、相当な労力が要る。

まず、答えてくれそうな人に目星をつけて話しかける。カメラを向けられることに慣れていない人は多いので、断られる確率が高い。だいたい都内では急いでいる人が多い。映りたがり、出たがりならいいけど、出たがりの人は、嬉しそうにしゃべるから、質問内容によっては、不謹慎ととられかねない。せっかくコメントをもらっても、使えないことがある。

ほどよい感じの人をつかまえても、制作側が望むようなフレーズを言ってくれるかわからない。話してくれた人には、コメントを使っていいか確認して、承諾書にサインを頂くという手続きもある。しかし、実際に使う部分といったら、ほんの一言か二言。そもそも「街頭インタビューなんてどうせ使われないだろう」と思われ、断られるケースもあるだろう。

街頭インタビューで使われている一般人のコメントは、内容こそ普通でも、いろんなハードルを超えて放送されている貴重なものだ。ボーっと見ていると、その価値って全く伝わっていないけど…

自分も駆け出しの頃、アシスタントディレクターと一緒に銀座四丁目の交差点で街頭インタビューを手伝ったことがあり、どれだけ大変なのか身に染みている。

なので、ちょっとしたVTRの構成を考える際、若手作家が「街頭インタビューを入れたらいいんじゃないですか?」なんて軽い感じで言おうものなら、「街頭インタビューをとるって大変なこと、知ってる?」と、忠言してしまう。

なので、いざ自分が “される側” に立たされ、ついコメントを考えてしまったのだ。私が、なかなか言葉を発しないのでMr.マイクは「犯人は、まだこの辺りにいるかもしれませんよね?」と、「なんでもいいから言ってよ!!」的な圧をかけてきた。

「ははぁん、そういうこと!?」今回のように、ひどい事件について訊かれたら「恐いですねぇ」「酷いですねぇ」「早く犯人が捕まるといいですね」あたりがコメントの定番だ。

Mr.マイクがあの時点で定番コメントを望んでいたかどうかはわからない。ただ、定番は誰かが言うだろうから、自分は「ちょっと別角度で、使えそうなものを言ってあげよう」と、余計な親切心から考え込んでしまったのだ。

結局、なんとかコメントして、さくっとその場を離れた。歩き出してすぐ、いくつか※疑問(ツッコミどころ)が浮かんだ。

※何の番組か言わなかったな
※承諾書をとらなかったな
※路上撮影の許可をとっていたのかな


そんなことより、自分のコメントを冷静に思い返し、反省しきりだった。

ぐるぐる思案を巡らせた挙句、こう答えていた。

「新元号になる直前、お茶の水女子大附属中で侵入事件がありましたよね。警察は、威信にかけて、付近の監視カメラを徹底的にチェックして、犯人の逃走ルートを速攻で洗い出しましたよね。あれを見た時、警察の本気を感じました。やればできるんですね。今回も本気出してもらえるといいですね。」

相当に頓珍漢なコメントだ。絶対使うわけないよな。だって、切り取りどころが無いし、そもそも警察に失礼だし。

親切心が仇となった。考えすぎた。せめて定番のコメントくらいは保険で押さえておけばよかった。やっぱりコメントはシンプルが一番だ。

もしまた機会があったらシンプルにこう答えよう。「急いでますので、ごめんなさい」

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