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外国人児童生徒教育と概算要求(令和6年度)

8月下旬に各省から来年度予算の概算要求が発表されました。これは来年度の文部科学省の外国人児童生徒教育の方針が端的に記されているのこれについて補足しつつ、外国人児童生徒教育の課題を整理してみたいと思います。

●概算要求について

資料は以下よりご参照ください。42・43ページです。なお、以下の黒字は資料からの転載、太字は私のコメントです。

https://www.mext.go.jp/content/20230828-mxt_kouhou02-000031628_1.pdf

○⽇本語指導を含むきめ細かな⽀援の充実

請求額 1,171百万円(1,139百万円)
• 公⽴学校における⽇本語指導補助者や⺟語⽀援員の活⽤による指導体制の構築、オンラインによる指導や多⾔語翻訳システム等のICTを活⽤した取組など、外国⼈児童⽣徒等への⽀援体制の整備等に向けた学校における⾃治体の取組を⽀援する。
→通称「きめこま」のやつですね。研修会の充実に使われているのが一番多いのかと思いますが、基本的には自治体主導でやるみたいなので、報告書などをみると色々やっているんだと思います。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/001/1339531.htm
• 外国⼈の⼦供の就学状況把握や就学案内、⽇本語の基礎的な学習機会の提供など、公⽴学校等への就学促進に向けた学校外における⾃治体の取組を⽀援する。

○⽇本語指導が必要な児童⽣徒等の教育⽀援基盤の整備

請求額: 21百万円(21百万円)
• 情報検索サイト「かすたねっと」の充実による教材や翻訳⽂書の提供等を⾏うほか、アドバイザリーボードの設置・運営等
⾏う。
→アドバイザリーボード…?誰が何するんだろう。

○児童⽣徒の⽇本語能⼒把握の充実に向けた調査研究

請求額: 36百万円(36百万円)
• 学校が⽇本語指導の⽬標や指導内容を決定する際に基準とするための、DLA (⽇本語能⼒把握のための評価ツール)を踏まえた能⼒記述⽂(Can-do)を作成し、その活⽤⽅法について検証を⾏う。
→これは東京外国語大学多言語多文化共生センター(http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/g/cemmer/)が受託して実施しているやつですね。報告書なども上がってきています。また、DLAに関しては日本語教育185号で論文が出ています。(https://www.nkg.or.jp/gakkaishi/yomu/2023_08_25.html)
個人的に、ここで取られたような手法を取ってテキストをDLA作成者側が指定して増やす方向で行くのか、あるいは、もう少し一般化してこういう特徴のあるテキストであれば使用できるという風にモデルを示していくのかどういう方向でいくのかが関心があります。現場の先生方は、DLAに限らず、普段からあるテキストを読んでいるときの様子から子どもの言語能力を捉えているわけです。そうすれば、このテキストでこのくらい読めていればDLAではこのくらいになるのでは、という見立てができるようになるのではと思います。その中で、DLAと普段の教育活動とが連綿と子どもの力を捉えることにつながることを期待できるかなと思います。
個人的に非常に気になるのは、「客観的な評価ツール」の活用というところです。少なくともDLAやCan-doと「客観性」が並ぶのには非常に違和感がありますので、文部科学省と制作側の意図のずれが心配になります(でなければこういうことは書かないかと)。

• 散在地域において、関係機関が連携し、学校において⽇本語能⼒や学習歴等の児童⽣徒の実態を把握する⽅法・体制を研究する。

○児童⽣徒への⽇本語指導の⽀援体制に関する調査研究 (新 規)

請求額:10百万円
• ⼩・中・⾼等学校における⽇本語指導の教育⽀援の実態を調査し 、登録⽇本語教員の活⽤を含めた ⽀援⽅策の具体的な検討を⾏うとともに、⽀援体制等に関する研修を⾏う。
(以上4事業 担当︓総合教育政策局国際教育課)
→ここで突然爆弾が!なんと文化庁の資料にはたまーに書かれていたくらいでしたが、学校現場での登録日本語教員の活用というのが出てきました。どこが受託するかは分かりませんが、高校の指導体制の充実に関する委託事業(https://www2.u-gakugei.ac.jp/~knihongo/index.html)が終わるので、また東京学芸大学がやるのでしょうか?ただ、登録日本語教員の養成では実習を小中学校でやる話はありましたが活用の話は出てきていないので寝耳に水です。登録日本語教員は成人学習者向けだと思っていた人も、現場に残るには必要になってくるかもしれません。個人的には、教員免許×登録日本語教員の人をちゃんと処遇してほしいと思います。私のことです。
一番気になるのは、「制度開始後、速やかに⽇本語指導の⽀援体制を構築することができる」という文言です。ということは、令和7年にはもうスタートしたいということですので、どんなスピード感で運用しているのか注視したいと思います。

○夜間中学の設置促進・充実

請求額: 95百万円(75百万円)
• 夜間中学に通う⽣徒の多くが外国籍の者であること等を踏まえ、夜間中学の設置促進や、多様な⽣徒の実態等に応じて夜間中学の教育活動の充実を図るための⽀援等を⾏う。
(担当︓初等中等教育局初等中等教育企画課)
→最近ちょっと下火になってきましたが、ココもちゃんと継続したいところです。高校で教えていると夜間中学出身の生徒もまだ稀ですがいます。自分の意思で学んでいることもあって志が高いし、自己管理能力も高い生徒が多い印象を受けます。いつでもどこでも適切な教育が受けられる社会が望ましいと思いますので、ここは手厚く続けていただきたいです。

○⾼度外国⼈材⼦弟の教育環境の整備

請求額 205百万円(新 規) • ⾼度外国⼈材の⼦弟にとって魅⼒的な教育環境を整備するため、横展開が可能なモデルの創出や、受⼊れの好事例等の収集・発信に取り組む
→これは熊本(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rkk/674913?display=1)の件でしょうか。日本語指導はどうでしょうか。

○外国⼈学校の保健衛⽣環境の確保に向けた取組

請求額 24百万円(26百万円)
• 外国⼈学校における保健衛⽣環境の改善のため、相談対応窓⼝の運⽤や普及啓発に取り組む。
(以上2事業 担当︓⼤⾂官房国際課)
→外国人学校では、養護教諭がいない、保健室もないなどの実態があり、コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点からも問題となっていました。今はホームページ上での情報発信や相談の受付が行われているようです。(https://hsfs.mext.go.jp/)

まとめ

分かるところと分からないところがありますが、概ね課題となっている問題に対症療法的なアプローチを中心に予算獲得を目指していることが傾向として見られます。確かに、一方では、現場の課題が吸い上げられて、精緻化が目指されている部分もあるように思います。
ただ、文部科学省が率先して何かをするとか、全国的な取り組みの普及拡大という点はあまり見えてきません。地域によって課題が異なることは事実ですがより長期的なスパンでどのような体制を目指すかを考えることが今後の課題のように思われます。