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パリの隠れ家的美術館

フランスに来て好きになったことのひとつに、美術館巡りがあります。
美術については何も知らない素人ですが、だからこそ、知らなかったことを知ることができるという楽しみがあるのです。

私はブルゴーニュに住んでいるのですが、数年前からときどきパリへ行き、1日かけて文字通り美術館巡りをするようになりました。まだまだ無知ながら、行ったことのない美術館へ行っては、まずその建築に見とれ、展示会を見るときには新しい世界へ導かれる気持ちで会場へと入ります。行ったことのある美術館でも、展示が変わるたびにまた違う世界を見せてくれるから新鮮でまったく飽きないのです。

そして数ある美術館の中でも、パリには隠れ家的な美術館がたくさんあります。正確に言うと、パリに住んでる人たちにとっては隠れ家でも何でもなく、よく行く美術館かもしれないのですが。

パリの美術館というと、多くはルーブル美術館とか、オルセー美術館、オランジュリー美術館、ポンピドゥーセンターなど、大きな美術館を思い浮かべる人が多いかもしれません。そんな大きな美術館、特にルーブル美術館は、全館見て周ろうとすると3日くらいかかるのではないかというくらい広く、常に混雑しています。そういう理由で、美術館に行くと疲れてしまうという人もいるでしょう。でも、こじんまりしていて、1時間くらいで観れる美術館たちもあるのです。

まず一つ目は、モンマルトル美術館

モンマルトル美術館の外観

名前の通り、モンマルトルにある美術館で、サクレクール寺院から歩いて3分から5分くらいのところにあります。いつできたのかなと思って調べてみたら、開館は1960年でした。ここは印象派のアーティストたちが集まった場所で、建物が邸宅というかアパートみたいな作りになっています。実際に、画家のスザンヌ・ヴァラドンとその息子モーリス・ユトリロが1912年から1926年に住んでいて、アトリエとしても利用していました。2014年に、その頃のアトリエの様子を再現したという部屋も作られ、当時の雰囲気が味わえるようになっています。

再現されたアトリエ

モンマルトル美術館では、モンマルトルにゆかりのある展示会も頻繁に行われています。普段は大きな美術館でしか見たことがなかった、トゥールーズ・ロートレックやラウル・デュフィなどのアーティストたちの作品を、当時の雰囲気が残る小さな美術館で観たことがあり、距離が近く感じられたのが印象に残っています。物理的な距離だけでなく、作品から感じるものも「近い」のです。

いまでもアーティストが住み、絵を描いていそうな雰囲気

絵の具の香りや、木の床のギシギシ鳴る音、アーティストのナレーションがラジオみたいに流れていて、小さな美術館ならではの、心地よく感性を刺激される体験ができます。美術館に入った瞬間に別世界へと連れていかれ、出た瞬間に現実世界へと戻るような…。モンマルトルは観光客と地元の人たちでにぎやかな界隈だというのに、モンマルトル美術館の中だけ空気が違うのです。少しだけ小さな道にひっそりと佇んでいるせいか、喧騒も気にならず、むしろ時間を忘れて長居してしまいそうになります。

ラウル・デュフィの展示会


次は、割と大き目だけどそこまで大きくなく1時間くらいで見られる、カルナヴァレ美術館

カルナヴァレ美術館の外観

この美術館はマレ地区にあって、オシャレな地区なので知っている人も多いかもしれません。

ここはパリの歴史をテーマにした美術館で、1880年に開館ということで、美術館自体にも歴史があります。2016年から始まった改装が2021年に終わったばかりです。

昔のお店の看板

カルナヴァレ美術館は建物もすごく邸宅というかんじで、とても手入れの行き届いた中庭にカフェレストランが入っています。建物の中もパリの歴史がテーマというだけあって、昔のお店の看板がずらりと飾られたスペースから始まり、きらびやかなベルサイユ宮殿みたいなお部屋や、アールヌヴォーの装飾が施されたお部屋がとても美しく、つい長い時間見入ってしまいます。

アールヌヴォーの装飾

もしマレ地区でお買い物をするついでに時間があったら、このカルナヴァレ美術館を訪れてパリの歴史も感じるのもいいかもしれません。

パリが舞台の絵画


そして最後は、ギュスターブ・モロー美術館。ここは、私が20年前にフランスに来る本当に直前にパリに旅行をしたときにも訪れた美術館で、1852年からギュスターブモローが暮らしていた邸宅でもあります。美術館としての開館が1903年、モローの自宅兼アトリエだったところです。そういう美術館はフランスには多く、アーティストが暮らして作品を生み出していたところがそのまま美術館になって見学できるというのは、すごく贅沢なことだなと思うのです。作品だけではなく、アトリエや暮らしぶりも観ることができるという感動も味わえます。

モローが使っていた道具
応接間のようなところにはチェスも

このギュスターブ・モローの美術館は、ところ狭しと並ぶ彼の作品が各々放つ存在感に統一感を持たせています。象徴主義の画家だった彼がどんな絵を描いていたかを知っている人は想像ができるかと思うのですが、神話をもとにした幻想的な世界が作品の中で繰り広げられています。時には美しく、時には残酷な世界観で、モローの絵画に四方囲まれるという体験はここでしかできないので非常に貴重な場所です。そしてやっぱり、この美術館で見る彼の作品が一番美しい。

一面に広がるモローの世界

数年前に再訪して、約20年ぶりに行ったにも関わらず、美術館の雰囲気は全く変わらず時間が止まっているようでした。そして名物と言えるような、とても有名な美しい螺旋階段があるのだけど、その階段を見るのも醍醐味というくらい、一見の価値があります。オペラ座から歩いて15分くらいのところにあるから、モンマルトルとの間くらい。閑静な場所でモローの世界に浸れる場所です。

美しい螺旋階段
螺旋階段の上から

私は、日本にいたころは美術館へはあまり行かず、フランスに来てから美術館を訪れる楽しさというのを知りました。あまり専門的な知識はないのですが、そのぶん、展示会に行くたびにたくさん発見があって新しい体験ができます。パリだけではなく、フランス国内にたくさん素敵な美術館があるので、今年の楽しみの予約としてそういう場所に行くことも計画しようと思っています。


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