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やっぱり総武線は暗いままだったけれど

「東京の暮らしはどうだったんですか?」
面接でよく聞かれる質問の一つ。

楽しかった、し、楽だった。
自分が好きなスポーツ観戦にも行きやすいし、ちょっと遠出をすれば海だってある。仕事にやりがいを感じている人や「好き」に対して熱量が高い人が多い印象だった。逆に、隣にいる人への関心は低くて、隣の人が何をやっていてもあまり干渉されることもない。ライフスタイルや価値観が多様で、ドライで生きやすかった。
東京での生活は好きだった、のは本心。ずっと東京にいたい、と転勤のない会社を選んで転職をしたぐらいに。

ただ、手放しで「ぜんぶ好き」といえるかというとそれは別の話。
いつの間にか私にとって東京は、現実と対峙する場所で生活をするために戦う場所でもあった。

年末年始やGWの長期休暇に入り、実家に戻った後の東京はその感覚が色濃くなる。
ただでさえ時間の流れがゆるやかになる中で、どこかのんびりとした地元で、ぬるま湯につかった感覚になる。じんわりとその温度感が当たり前になった頃、東京に戻る。
当たり前のことなのだけれど、休み明けの東京には現実が待ち構えている。

自分で選んだから、と言い聞かせる。それでも、新幹線が東京駅に近づくにつれて、明日からの仕事が頭によぎり、どうしても気分が重くなってしまう。

東京駅から一人暮らしのアパートまでは総武線を使っていた。帰り道、なぜか重くなったキャリーケースを転がしながら遠くの総武線乗り場を目指す。足取りはますます重くなる。明るくにぎやかな東京駅の雰囲気が徐々に遠ざかり、駅の端っこから静かで暗い地下に潜っていく。

地下鉄の雰囲気はどうしたって苦手だ。陽の光が入らなくて、スマホを見てうつむいている人ばかりでどこか暗い。朝は急いでいるし、夜は疲れがにじみでている。
地下鉄の中でも、現実を突きつけられていく総武線が一番苦手だった。

でも、旅ならどうだろう、とふと思い立って。
緊急事態宣言が明けた後の東京。
居心地の良さそうなホテルでのんびりするなら、嫌な思い出も少しは上書きできないかな。
なんて、わざわざ総武線沿いのホテルを選んだ。

今回滞在したのは、DDD HOTEL。
馬喰町駅や浅草橋駅と複数の路線からアクセスできるし、どの駅からも近い。慣れない場所でキャリーケースをひいて地図を見ながら歩くのはなかなかつらいからありがたい。(方向音痴なので携帯をくるくるして現在地を確かめながら歩いている。たまにiPhoneが逆を示す時があるのは本当にやめてほしい)

SNSやHPで見ていた様に、建物から部屋までとにかくシンプルでミニマル。

部屋にはテレビもないし、バスタブもなくてシャワーのみ。

旅に来る度に思う。本当に必要なものってそんなに多くはないんだよな、って。

無駄な物はない代わりに、一つひとつへのこだわりが散りばめられている。
部屋着は肌触りが良くて、柔らかい。

こういう形の電球ってなぜだかときめくんだよな。

本を読んだり、近くのコーヒースタンドで買ってきたカフェラテを飲んだりしながらただただのんびり過ごした。
いつもと違う場所で、ゆったり過ごせる時間がやっぱり好きだなって改めて思えた。

翌朝、鎌倉に向かうために総武線に乗った。
東京駅を過ぎて横須賀線に名前を変えて進んでいく。その途中、地下から地上に出るポイントがあって、そこで大きく息を吸う。明るい、ってそれだけでちょっと心が軽くなるのが不思議。
もしかしたら、これまで気づいていなかったのかもしれない。
嫌な思い出が詰まっていても、ふと一息つける瞬間があること。

苦手を克服して、“好き”や“得意”に変えていくのは難しいかもしれない。でも、色んな面を見ながら少しずつフラットにしていくのはできるのかもしれないな、なんて思ったりしている。

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