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ある片想いの話(男性の視点)

ある日僕と彼女は喫茶店へいた。
僕は会っていなかった七日間分の思いを込めて、緊張しながら
「一週間ぶりだね」
と彼女へ言ったら
「あら、そうだった?」
と彼女はメニューのページをパラパラとめくっていた。
彼女はいつも少し僕の心を傷つけるのが得意なんだ。
彼女と僕は近くのミニシアターで最近話題の映画について話した。彼女が楽しそうに話しているのを、僕はとっくに飲み干したアイスコーヒーのストローを何度もすすりながら眺めていた。
喫茶店を出る時、さっきまで座っていたテーブルの方を振り返ると、
彼女のアイスコーヒーはまだ三分の一くらい残っていたことに気づき、
また心がズキッとした。

次に彼女と会ったのは、例のミニシアター。
この前話していた映画を見ようと彼女の方から誘ってきたのだ。
たまに予想外にもそうやって彼女から歩み寄ってくることがある。
映画を見終わるともうすっかり夜だった。
僕はまた緊張しながら「そこの公園で少し休憩しないかい?」と言うと彼女は「いいわね」と言った。
近くのコンビニでコーヒーを買って僕たちは公園のベンチに腰掛けた。
お互い映画の感想なんかを言い合ったあと、「あのミニシアターのセレクトは毎回絶妙だね。」なんて話し、気がつけば2時間ほどが経っていた。一通り話し終えた僕たちの間に少しの沈黙が生まれた。
僕は喉が熱くなるのを感じながら、勇気を振り絞って「手を繋いでいいかい?」と尋ねると、彼女はあまりにあっさり「いいわよ」と答えた。
僕はもう冷たくなったコーヒーを一気に喉に流し込み、彼女の手をとった。
僕は少しの間街灯でほのかに照らされた彼女の横顔を眺めていたが、
少しすると彼女は手を繋いでいる側のワンピースの紐が肩からずれ落ちたのを気にし始めていた。
僕の心はまたズキッと淋しくなって、
「もう帰ろうか」と彼女に言うと
彼女は「そうね。もう遅いし」と返した。
彼女の言葉はいつもひんやりとしていて、僕の心をもてあそぶようにすり抜けていく。
僕はとっくに空になったコーヒーカップをゴミ箱に捨て、立ち上がった。
彼女のコーヒーカップを受け取ると、また中には三分の一くらいコーヒーが残っていた。

彼女のこころは霧のようだ。晴れてきたと思えば、また深い霧に覆われる。
あの時の僕は確かに彼女の霧の中を彷徨っていた迷い人だったに違いない。

明後日40歳になる今も、僕はあの子のことをふと思い出す。あの子はどこで何をしているのだろう。ああゆう女はいつでも僕たちの心を苦しませるのだ。

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