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飲み屋にて。若い2人

[エッセイ×小説]
実話を物語仕立てで

若い頃の私はとにかく"若い男の子"が苦手でした。
大人は平気なんです。仕事でたくさん関わっていたし、なんと言っても安心感がありましたから。

それでも若い男の子と関わらなくてはいけないシーンがあると、自分が苦手なのをバレたくなかったからか、必要以上に冷たく対応してしいまっていた数々の思い出があります。ごめんなさい。

それを元に、
ある夜のとってもくだらない、どこにでもある
出来事を男の子目線で書かせていただきます。

僕が24歳で入社2年目の新人の頃。
その日は2軒目に上司が行きつけの酒場に行くというので、付き合っていた。

「ママ、きたよ!」
「あら、久しぶりじゃないの。若い人連れて」
「そう、期待の新人。ハハハッ」
僕は"ママ"に会釈した。
「うちは若い人あんまり来ないから、嬉しいわ。お酒は飲むの?」
「ええ、まぁまぁ飲みますね」
と僕は答えた。
「こいつ結構飲めるんだよ。ハハハッ」
「あら、あなた何歳?」と"ママ"が訪ねた。
「24歳です」
「あら、じゃあの子と仲良くなってあげて21歳でうちの最年少。」
ママの指さす方には常連客に紛れて女の子が座っていた。

"ママ"が手招きするので僕は彼女の隣に座った。
「あ、こんにちは」
彼女がちらっとこっちを見た。
「こんにちは」

カウンターの向こうから"ママ"が言った。
「若い人同士どこか飲みに行ったら!ほら、店も混んできたし。いいでしょ先輩!」
ママが上司の方を振り返る。
すると上司も
「おお、行け行け。いいねぇ〜若いって。」
と言ってきた。


僕は彼女の方を向いて、
「えっと、この近くでもう一杯行きませんか?」
と言った。
「私とあなただけで?」
「そう、ほら店も混んできたって店の人が」
「私はここにいる」
「なんで、行こうよ」
「だってあなたと今初めて出会ったし、あなたのことなにも知らないもん」
「なにも知らないからいいんじゃないか」

顔に似合わずだいぶ頑固な女の子だ。

カウンター越しにママがにこにこしながらこっちを見てる。
「ねぇ、一回くらい行きなさいよ。2人で若い人同士!」
「ママは面白がってるだけでしょ!」
「ごめんね、この子頑固で、照れてるんだよ。」
「ママ私にいっつも言うでしょ。中途半端に優しくするのが1番悪いって」

なるほど、この子はこの飲み屋で結構鍛えられているんだな。
「じゃあ…。となりの焼き鳥屋。一杯だけ行ってここに戻ってくるならいいだろ」
「あなたすごく諦めが悪いと思う」
彼女は口を少し歪めながら言った。
「だって君がなかなかOKしてくれないからさ。そんなに嫌?」
「だってあなた若いもん」
「そりゃ。まだ社会人なりたてだけど。」
そう言いかけると同時にママが
「お堅い仕事だから給料結構いいんでしょ。将来有望!」
と僕に助け舟を出した。
「給料はまぁそこそこいいかな」
「そんな事じゃないの。若い人は危なっかしいから」
「いやいや、俺の方が年上だけど。」
「2、3個だけね。」
「じゃあ君さ、人生は一度きりって知ってる?」
「知ってる。だからわたしは時間を大切に過ごすの」
「うわー可愛くない答え」
「だって可愛くなくしてるもん。
でも私あなたの好きなところ一つある。」
「え、なに?」
「日本酒を飲んでるとこ。」
「?」
「なんか、若い人が日本酒飲むっていいじゃない。渋くて。ちょっと絵になるっていうか」

僕はもう酒が入っていないおちょこに口をつけ最後の一滴を喉に注ぎ込むと、
「日本酒、2合お願いします。」
とママに言った。
「あら、若いのに飲めるね!」
と近くにいた常連客が俺を褒める
それと同時に女の子ははぁーとため息をついて
「そういうわけじゃないのに」
と言った。

「君も飲む?」
「私、日本酒好きじゃないの」

「…。君さ、変わってるよね。うん。本当に変わってる」
「あなたが悪いわけじゃないの。
私はこういういやな女の子なの。こんな子と飲みにいきたくないでしょ」
「そんな事ないけどさ」

はい、僕は絶対この日被害者でした。

結局あの日は閉店までその店にいて、
結構ベロベロになるまであの飲み屋で過ごし、
上司と共にタクシーで帰った。

そして最後、上司とタクシーに乗った僕に彼女がなんか言った気がするが全く覚えてない。

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