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ある男性の話(女性の視点)

私はある男性と喫茶店へいた。
彼は私に「一週間ぶりだね」と言ったので
「あら、そうだった?」と返した。
私たちはいつの間にか一週間置きに会うほどの仲なっていたようで、少し驚いた。

私たちは近くのミニシアターで最近話題の映画について話した。意外にも彼があのマイナー映画を知っていたので、少しテンションが上がって話しすぎてしまったかもしれない。
気がつけば彼のアイスコーヒーは空になっていた。

私ばっかりしゃべっていた証拠に喫茶店を出る時、アイスコーヒーはまだ三分の一くらい残っていた。まぁコーヒーはあくまで彼と過ごすための補助でしかないわけで、そこに未練はなかった。

次に彼と会ったのは、私が普段からよく行くミニシアター。
私から彼を誘ってみた。
もちろん彼から断られても一人で見に行くつもりだったけど、彼とならこのマイナー映画の面白さを共感できるかなと思った。
大きな映画館は"定番のデート"って感じで今までも何度か行ったことがあったけど、
このミニシアターで上映される映画は個性的だから、共感してくれる人を探すのは難しく大体1人で見に来ていた。だから男性を誘うのは実は初めてだった。

映画を見終わるともうすっかり夜だった。
彼が「そこの公園で少し休憩しないかい?」と言ってくれたのは、まだ映画の余韻に浸りたかった私にとって素敵な提案だった。
「いいわね」と返事をし、
近くのコンビニでコーヒーを買って私たちは公園のベンチに腰掛けた。
それからお互い映画の感想を話しあったがやっぱり彼はこの映画の奥深さを理解してくれたし、彼の見ている視点は興味深くて面白い。私は彼ときて良かったなぁとつくづく思った。
あっという間に2時間ほどが経っていた。一通り話し終えた私たちの間に少しの沈黙が生まれた。風が心地よくいつまでもこの時間が続いてほしいなとさえ思った。
すると彼が突然「手を繋いでいいかい?」尋ねてきた。私は少しびっくりしたが、彼となら全く嫌だと思わなかったので「いいわよ」と答えた。
彼の手は以外と大きくて、少し男性らしさを感じた。
少しすると手を繋いでいる側のワンピースの紐が肩からずれ落ちて、こんなんだから撫で肩は困るなぁ、なんて思っていたら、
彼が「もう帰ろうか」と言った。
そうか、気がついたらもう深夜0時になりそうだ。本当の事を言うと、まだもう少しこの時間を過ごしていたかったけれど彼も明日は仕事があるだろうし
私は「そうね。もう遅いし」と返した。

彼は私のコーヒーカップを受け取って、ゴミ箱に捨ててくれた。まだ中に少しコーヒーが残っていた気がする、と思ったが、
やはりコーヒーはあくまで彼と過ごすための補助でしかないわけだし、と理由付けしてコーヒーの事は諦めた。

彼と過ごす時間はいつも静かで、ゆっくりとした詩のようだ。彼は私の変わった趣味の映画も抵抗なく楽しんでくれる。次はあのパキスタン映画にでも彼を誘おうかしらなんて考えながら気持ちの良い風と共に家へ帰った。

39歳になった私は、あのミニシアターに行く機会もだいぶ減ってしまったけど、今でも月に一回は行っている。相変わらず私好みのマイナー映画が揃っていて、ここでは後にも先にも一人で映画を楽しむのが私のスタイルだ。
10年前たった一度だけある男性とこのミニシアターに行った事を除いては。

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