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Is Life Unfair or Beautiful? Vol.1

人生は不公平かそれとも美しいのか?

 友人の紹介で、乳がんの治療を受ける若い日本女性の通訳を依頼された。彼女は私の友人のお店で雇われたワーキングホリデー1年目のロンドンの新米だ。ワーホリを取得するとイギリスでの2年間の滞在と就労許可が下りる。着いたばかりの彼女はまだ英語が覚束ないのだろう。
 彼女は渡英する前に隈なく健康診断をして今年初頭渡英したそうだが、その短い数ヶ月の間に乳房にしこりを発見した。コロナが猛威を振るうヨーロッパで、ロックダウンの影響もさながら、無事に緊急手術を受けた。今回は友人がどうしても行けないのだと、私は手術後、これから始まる抗がん治療のプロセスの説明を受ける時の通訳を承った。
 初対面の印象では、彼女はとても明るく、健康そうで気立てが良いという言葉が実にしっくりきた。コロナの影響で病院の何箇所かある入り口に規制がかかっていた為に、近道に使えない。刻々と待ち合わせ時間に差し掛かっていた。大きな病院なので、また通りに出てぐるっと回るとどれだけ時間がかかるのかわからない。私のせいで遅れてしまっては面目ない!ラインで電話もかけられないし(なぜ?)焦ってやっと出会えた時の彼女の神対応には本当に頭が下がる。体調が優れないと機嫌が悪くなるのは当たり前なのに、逆に私のことを気遣ってくれた。
 イギリスNHSでの医療は原則全て無料だ。全て税金で賄う。彼女の今回の一貫の治療も切開手術を含めて全て無料となっている。イギリスに住んでいる全ての人に対して平等だ。外国人でも関係ない。日本では考えられない事だと思う。コロナの影響でコロナ以外のたくさんの患者が診療を待っているとニュースで言っていたが、彼女の場合緊急を要したのだろう、不幸中の幸い、すぐに治療を始められたようだ。

NHS:国民保健サービス(こくみんほけんサービス、英語: National Health Service)とは、イギリスの国営医療サービス事業をさし、患者の医療ニーズに対して公平なサービスを提供することを目的に1948年に設立され、現在も運営されている。NHSにはイギリス国家予算の25.2%が投じられている。公費負担医療によるユニバーサルヘルスケアに位置づけられ、利用者の健康リスクや経済的な支払い能力にかかわらず、臨床的必要性に応じて利用可能であり、自己負担金額は無料か極めて少額である。また、外国人も合法的にイギリスに滞在していると認定を受けられれば、NHSのサービスを利用することができる。Wikipedia


 NHSの効率やシステムの弱点、医療機関の低水準などの批判も日本人から聞くことがあるが、イギリスのお医者は割とサバサバして偉そうじゃないし、いらない薬を処方して見当違いの気休めの治療を強要してくる事もない。予算がないからしつこく言わないとレントゲンや細かな検査などをしてくれない事もあるが、いざ大病が見つかるとしっかりケアしてくれると言う印象だ。子宮ガン検査やワクチン接種の案内などもちゃんとある!そう言えば子宮ガンの検査結果は電話して聞いてちょうだいねと言われていたのを今思い出した。あれは8月あたりの話だったような、まぁ、問題があればきっと連絡が来るはず…。無駄がなくて良いじゃないか!
 Oncology(腫瘍学)の待合室で待っていると中年のナースに呼ばれた。彼女はとても包容力があって、ひどく訛りが強く「ネーム」を「ニェーム」と言ったり、外国人だと思うが優しくて安心する。体重と血圧を測り、また待合室に戻った。
「前回来院した時に、新しい先生に変わったのですが、私の英語が拙いのでしょうがないのですが、彼女に通訳を連れて来なさいと言われました」と話された。そして彼女はその新しいドクターが少し怖いとも言った。どうゆう事だろうかと思っていたが、一緒に診察室に入って話し始めると何となくその意味がわかった。その女医は若く、歯切れもいいし、頭もいいのだろうが、そのスピードが特急だ。鷹揚な日本女性の人となりは、彼女からすればはっきりしないとイライラするのかもしれない。特に言葉の壁があるもんだからなおさらだ。私みたいに気が強くても、病に犯されていたら不安に思うこともあるだろう、まして彼女みたいな気を使うタイプは怖がるのも無理はない。女医から今後の治療過程やそれに伴う副作用の説明を今一度口頭でされた。頭で分かっていながらも、実に具体的で辛い副作用を英語で事細かに聞き、事前に本人はその内容をしっかり調べておさらいしているから大丈夫だと言っていたが、再び日本語で伝えた。
「抗がん治療は前半と後半の二つに分かれます。初めの方が副作用が辛いでしょう。吐き気や気分の落ち込み、食欲不振…治療の後に不妊になる恐れもあります…卵子を摘出されていると思いますが…リスクは分かりますか?髪の毛も…」
彼女は私の目を見て頷き、その都度「はい」と答える。最後に女医から治療の合意書に署名をするよう求められた。私は通訳として真実を伝えましたという事らしい。なるほど、合意書があったから私が必要だったんだと納得した。割としっかりした先生じゃん!と私は彼女に言った。大切な事がちゃんと伝わっているかメイク・シュアしたのね。
 診断後中断されていたお給料の話になった。と言うか私は友人から通訳料を支払われていたから、その旨を伝えた。彼女はどうしようと言った具合に困惑していたので、お人好しだからしょうがないねと苦笑い。もうその分は甘えればいいと思うよとは言っておいたが、たった数ヶ月雇った人に対してこんなに親切になれる人はなかなかいない。ええヤツや。
 治療は全部で8回、2週間に一度の抗がん剤治療に始まりホルモン治療に続く。翌日から血液検査やコロナ検査などが始まり、来週から本格的な抗がん治療が始まる。今はとても元気で明朗な彼女がこれから徐々に弱々しくなっていくのかと思うと辛い。私が辛がってどうする!と奮起するも、この「Life is unfair」(人生は不公平だ)という言葉が離れない。私は次の治療後の診断にも同席するように求められたので、もちろん即オッケーを出した。グーグルトランスレートはもう会話も拾えちゃうし、上手いことできてるよと言いかけたが、私がいる事で救われるのかも知らないと少し傲りかも知れないが、異国の地で何かと不安になった若い頃の自分と重なった。

執筆にあたって
私は何にでも意味や価値があると思うタチだから彼女に出会った事も大切にしていこうと思う。宗教家にはほど遠いが何かが私を引き寄せたのだと思うことにする。そして湧き起こった感情や思考をこの場でアウトプットすることによって自分や他人が救われる事を一番に思っておる。興味本位な暴露ではない事をひとこと。

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