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【観戦記】第99回箱根駅伝(2023.1.2~3)

これは箱根駅伝を現地観戦した駅伝ファンの記録であると同時に、この時の感動を回顧するための備忘録的記事となります。
それでもよければぜひご覧ください(約6,500字)

<参考>前回(第96回箱根駅伝(2020.1.2~3))の観戦記

【事前準備編】

実に3年ぶりに箱根駅伝の現地観戦が解禁されました。
その大本営発表がされたのが、11月下旬。

いつされるか分からない大本営発表を待ってから、泊付きの現地観戦を計画しようとすると宿が確保できない状況に陥ります。
そのため、敬虔なファンを自称する身としては、現地観戦が解禁されることを祈り、GW明け頃には宿を確保しました。

前回の教訓(コースから歩いて20~30分かかる宿にしてしまったこと)を活かして、コースから徒歩3分程の大平台に宿を確保。じゃらんやBooking.comなど様々なサイトを渡り歩きながら探しても、コース上の宿は数えるほどしか空きがない状況でした。早めに宿確保に向けて動くか、直前のキャンセル狙いで宿を確保するのが賢明な手だと思われます。
今回私(と妻氏)が予約した宿は、素泊まりだけれども、貸し切り温泉付き。もはや温泉付きなのは必要条件。
現地観戦後、寒さで冷え固まった身体を解凍するのになくてはならない存在です。

そして直前期。
レースを楽しむためのグッズを揃えます。
大体こんな感じ。

  • 防寒着(手袋、ネックウォーマー、厚手の靴下)

  • カイロ

  • モバイルバッテリー(TVerで観戦するためバッテリー超大事)

  • 保温機能付き水筒(暖かいお茶やスープを入れておくため)

  • レジャーシートor折り畳み椅子

  • ハリセン(過去に早慶戦でもらった応援用のハリセン。過使用によりボロボロ)

  • 箱根駅伝2023完全ガイド

前回は、登山用のワンバーナーを持参し、路上でお湯を沸かしてコーヒーを飲む、、ということをしていましたが、今年は断念。

そして、観戦とは直接関係しないものの、現地に行くと、どうしてもレースの細かな内容については追いかけることができません。
そのため、自宅のHDDの整理をして空き容量を作り出すこと。実はこれが事前準備の中で地味に大変だったりします。
というのも、この時期に録画しないといけない番組はざっと数えてみても、こんな感じ↓

  • 全国高校駅伝(男女)約4時間

  • 箱根駅伝絆の物語 約1時間

  • 箱根駅伝春夏秋冬(秋冬編) 約2時間

  • ニューイヤー駅伝 約6時間

  • 箱根駅伝(往路・復路) 約12時間

  • 続報 箱根駅伝 約1時間

  • 箱根駅伝ダイジェスト(往路・復路) 約4時間

大体30時間は空けておかないとすべてを網羅することはできません。すでにカツカツのHDDを泣く泣く整理しなければならないのは、我が軍(箱根駅伝ファンたち)にとっては恒例行事。

さて、長くなりましたが当日観戦編です。
推しのチーム(早稲田)が、シード権を獲得できるのか。去年1月3日から事あるごとに不安に押しつぶされていた一ファンとしては、この日が来るのが待ち遠しかったような、怖いような複雑な気持ちで迎えた当日でした。

【1月2日 往路観戦】

ついに迎えた当日の朝5時。
この日だけは、アラームを鳴らさなくても起きられる不思議。
頭の中でロッキーのテーマソングを流し(ている気分に浸り)ながら朝の身支度。Twitterを開くと、我が軍が一人また一人と起床報告をしています。これから戦でもおっぱじめるかのような気合を醸し出している様はなかなかに奇妙ですが、これもお祭りの日という感じがしていて嫌いじゃないです。

そして出発。運転中はスマホをいじれないため、妻氏が隣で情報を様々と仕入れて伝えてくれます(「山口くん(早大)いないよ!」「駒沢の5区、1年生だ!」「1区で学連の新田くんが一人飛び出してる!」「ナベさん(注・渡辺康幸さん(1号車解説))がスローペースに怒ってる!」等々)。

ちょうど1区が終盤に差し掛かったころで宿に到着。まだチェックインもできず、路上に出るのも寒いので3区途中まで車の中でTVer視聴。箱根山中の宿ということもあってか、電波がやや悪い(すべては楽天モバイルのせいでしょう。きっと。)。

レース自体も、特に面白かったのが2区。
元々前評判の高かった駒沢・田澤くんを序盤でぶち抜いていく中大・吉居大和。中盤に逆転し返す田澤くん。そしてその後ろからは青学・近藤くんも迫ってきて。
文字に起こすだけでは伝えることのできない臨場感がそこにはありました。
この濃い67分弱はこれから1年のうちに何度も見返すでしょう。それくらいの密度。

さてさて現地観戦に話を戻します。
レースが3区に突入したころ、私たちも大平台の観戦予定地に向かいます。駐車場から徒歩5分。目的地は大平台のヘアピンカーブ。

美しきヘアピンカーブ。
ここで観戦しました。

さすが定点ポイント(テレビに映りやすい)+給水地点ということもあり、選手到着2時間近くも前なのに、最前列はほとんど埋まっている状況。さすが箱根駅伝。
ここにいる人々が久しぶりの現地観戦解禁を心待ちにしていたのかと思うと、心のうちに親近感が湧いてきます。

場所に陣取ってしばらく道路を眺めていると、山を登っていくロードバイクの多さに驚きます。おそらくこの日に合わせてロードバイクでの箱根超えを試みようとする猛者なんでしょう。正月から身体を動かして、なおかつレースを生で見ようというこの欲張りセット感。うらやましい。ただ、車移動そして酒におぼれている自分には到底できない芸当です(私が10年近く前に購入したロードバイクはいまや最寄り駅までの往復にしか使われていない有様)。

レースが4区に入ると周囲に人も増え始め、多くの人がスマホ片手に(おそらく)TVerで戦況を逐次確認している様子。私のTVerから流れる音声が、周囲の人が持つスマホからも流れ出てくるよう状況も重なり、自分の耳がバグったように思えてしまいます。

選手が5区に入る頃。
沿道に俄かに広がる緊張感。黄色のジャンパーを着たスタッフが等間隔で並び、日テレの定点カメラスタッフも準備に余念がない様子。
後ろを振り返ると何重もの人垣が。こんな箱根の山中で人口密度が高まるのは正月三が日だけでしょう。
車の往来が止まり、白バイも通り始める。「あと10分くらいで先頭のチームがやってきます。旗やタオル等での応援はお控えください」とのこと。
3年前までは認められていた応援方法が認められないのは悲しいと思いつつ、私がやることはただひとつ。持参したハリセンをたたいて大きな音を出して応援すること。

まずやってきたのは駒沢・山川くん。1年生ながらもしっかりした足取りと、立派な太もも。かつて駒沢黄金世代を迎えていた時の主力・堺選手を思い起こすような太ももの逞しさ。「太ももです。太ももが来ました!」と、かつての名実況が脳内を駆け巡ります。
1年生でしかもトップで箱根の山を走ることはきっと大きなプレッシャーがあるのかと思います。
ただ、ヘアピンカーブの中でも最も傾斜のキツいカーブの内側(=最短経路)でかけていく姿は、自分と一回りも下の人間とは思えない強さを感じます。

次にやってきたのはほとんど差がなく中大・阿部くん。去年も山を駆け上って好走した選手。
古豪から強豪になるためのレースを進める中大。ダイナミックなフォームで身体を左右前後に大きく律動させていく姿がひたすらにかっこいい。
私たちは、ヘアピンカーブの見晴らしのよい位置に陣取っていたので、駒澤と中大が私の視野の中でとらえることができました。この勢いだと、中大が芦ノ湖ゴールまでに逆転するのでは、とこの頃は予想していました。

その後も選手が通過する中で、推しチームが6番目で通過。2年連続山登りをする伊藤大志くん。ここ数年、山は早稲田のウィークポイントでしたが、それも今は昔。
今回、平地での走力が高い伊藤くんを5区に置くことで、展開次第では上位を目指していこうとする早稲田陣営の強い意気込みを感じました。
実際に伊藤くん特有の跳ねるような走り方で地面を一歩一歩踏み進めていく姿はまだ余裕も感じられて、この瞬間、早稲田のシード奪取が現実のものになったかのように思えました。これは私だけではないはず。

その後も続々と通過する選手たち。ちょうど給水地点でもあったため、給水を受けることで力を取り戻す選手もいれば、給水選手とガッツポーズを交わし合う選手も。たった一人孤独に20キロを走らなければならない選手にとって、この給水のわずかな数十秒が大きな支えになるだろうことは想像に難くありません。

5区エントリーの時点で最も意外だったのが東洋・前田くん。主将でもある彼は4年連続の箱根出走でありつつも、初めての山登り。190cm近い彼が山を登れるのかというのが、専らの話題でした。実際の山登りの姿は、たぶん誰よりも辛い表情をしていたと思います。しかも、まだ大平台は5区の中盤でしかなく、終盤まで持つのかと思わず心配になってしまうほどに。18年連続シード権獲得を目指すチームの主将。きっと抱えるものは多いと思いと外野からでも察してしまいますが、こういった魂や責任感で走るランナーは無意識のうちに応援してしまいたくなります。
レース後の東洋大の記事(↓)は必見です。


あっという間の10分間。21本の襷は通り過ぎていきました。
レースの余韻に浸るというよりは、ただ選手の躍動する姿に圧され、選手の過ぎていった残り香からエネルギーをもらったような気持ちにさせられていくこの感じ。
私も3年ぶりに取り戻した感じがします。

レース観戦後は、箱根湯本に降りていき、遅めの昼食。
ちょうど推しチームもシード圏内(5位)で芦ノ湖ゴールに飛び込んだとのことで、気分のよい祝杯です。

宿へ戻ってからも温泉に浸り、寒さに打ちのめされた身体をほぐし、部屋で酒を飲む。日帰り観戦勢では味わうことのできない贅を楽しむことに現地泊の楽しみがあります。
欲を言えば、宿にBS放送があれば往路ダイジェストをリアルタイム視聴できたところですが、なかったため早めに就寝。翌日も6時起床なので。

夜の大平台温泉郷

【1月3日 復路観戦】

やはりこの日も我が軍の朝は早い。
私も例外ではなく6時前起床からの朝温泉。そして身支度。

8時の復路スタート時刻前に宿を立ち、またしても大平台の観戦地点へ。「朝だし、昨日よりは人が少ないだろうから、最前列確保は余裕だろう」と呑気に構えていたら、前日の観戦した場所は人(とテレビカメラ)で立ち入れず。
諦めて写真(↓)のあたりで観戦することに。

6区の観戦場所

やはり朝早いこともあり、寒さは前日の比ではなく1度前後。用意したカイロや、スープジャーに詰め込んだポタージュスープで暖を取りつつ待つ。
空を見上げるとヘリコプターの姿が。あのヘリコプターはどこを撮影するのだろうか、芦ノ湖なのか、箱根湯本の監督車合流付近なのかといった話を妻氏として待ちます。黙ってTVerみるよりも身体を動かしたり、話したりする方が寒さがまぎれる気がします。

待つこと1時間弱。前日同様に白バイがやってきて間もなくの選手の通過を周知します。6区はスピードに乗った選手が駆け下っていくため、接触に注意する旨の内容が前日からは追加されています。
そして期待や緊張のざわめきがさざ波のように広がる沿道。

やってきた1位駒沢の6区は1年生の伊藤くん。5区の山川くんに引き続いての1年生です。分厚い選手層を持つ駒沢のレギュラーを勝ち取った選手なので、調子がいいのだろうとは思っていましたが、あっという間に一瞬で過ぎ去っていきました。音もなく(実際はあったのですが)、そして下りの勢いを殺すことなく、前傾姿勢で下っていく姿。大平台のヘアピンカーブをセンターラインに沿って、身体を傾けつつ曲がっていく姿。ある種の芸術のような耽美さを観衆に与えているようでもありました。

続いて2位で来るのは中大・若林くん。4年連続の6区山下り。事前の監督インタビューを聞いても、ここが中大の復路ストロングポイント。下っていくスピードは風のようでありつつも、差はそこまで縮まっていない印象。前日、5区で見た差よりも離れている印象を受けます。

そして3位で青山学院。そのすぐ後ろに早稲田の6区北村くんが駆け下りてくるのが見えます。前を走る青山学院・西川くんとは明らかに違う軽やかな足運びで、その差を詰めてきた様子。
応援する私の身体にも熱が入るのを感じます。外気温1度なんて気にならなくなるくらいに。
彼の特徴でもあるメガネ(この日はサングラスでしたが)がブレずに下っていく。前シーズンは不調に苦しみレースでも活躍できなかった彼が、こうして活躍する姿を見せてくれるのはファンとしてもうれしいことであり、私の親心を刺激せずにはいられませんでした。

下りは平地での走力が必ずしも反映されるというものでもなく、思わぬところから山下り職人が生まれるのを見ることができるのもこの区間の醍醐味。そして、目の前を一瞬で過ぎ去っていく選手が多いことから、普段のレース観戦では味わうことのできないほどの
スピード感を楽しむことができる場所でもあります。

私が好きな小説に『風が強く吹いている』(三浦しをん)という作品があります。ここで6区を走る選手・ユキが、自チームのエース選手・走(かける)くんを思って言う言葉ががあります。
「走、おまえはずいぶん、さびしい場所にいるんだね」
チーム内でも飛び抜けて速いからこそ孤独でもあった走くん。そして6区の山下りを経験することで同じ速さを体感するユキの独白です。

きっとこの6区を走った実際の選手たちも、普段自分たちが走れないようなスピードで箱根の山を駆け下りていったのかと思うと、「何を考えてくだっていたのか」とつい聞きたくなってしまいます。

そして、下りきった21本の襷。
感慨に浸る暇なく、レースを見届けるために宿へ蜻蛉返りです。
同じ宿に泊まっているお客さんたちとほぼ同じタイミングで帰着し、同じタイミングでチェックアウトをする。
我々の戦いはレースを観戦することと、渋滞に巻き込まれずに帰ること。大事な使命です。

ここからは車内でTVerをかけつつ、戦況を見守りゆっくりと帰路へ。
小田原中継所として使われている鈴廣に立ち寄り、毎年恒例となっているお弁当や正月用の蒲鉾・伊達巻等を購入。
朝10時前時点では、まだ小田原中継所に選手たちも残っており、足をひきずっている選手もチラホラと。おそらく、足の裏ではマメがつぶれ、歩くのも立つのも難しい状況なんだと思います。
直接声はかけられないですが、心の中でお疲れさま、と敬意を表したくなります。

毎年恒例の鈴廣のお弁当

【おわりに】

帰りの車中、東名高速から見える景色が自然から都市に移り変わるにつれて、箱根というイベントが終わる寂寥感と、推しが無事にシード権を取れそうだという高揚感が混ざり合う。
私にとっての1年は1月3日で終わり、1月4日から始まると思っています。
また1年頑張ろうと思える素敵な2日間でした。

でも、この埋めることができない箱根ロスがしばらく続くのは抗いようのない事実。
家に帰ってからは数十時間分の録画を消化していくこと、そしてこれから始まるであろう箱根関連番組や都道府県対抗駅伝といったレースの観戦準備で、心を満たしていく日々になりそうです。

長文の感想記となってしまいました。
観戦するとどうしてもレース内容を追うことは難しくなりますが、その代わりに選手の息遣いや足音といった生の情報に触れることができます。テレビでは映ることのない情報を感じることができます。
自分の持つ五感を振り絞って体感するレース観戦というのは、やはり何とも言えない至高なものです。

これからもできうる限り、現地に足を運び続けたいと改めて思います。

最後まで長文ご覧いただきありがとうございました。
今後もどうぞよろしくお願いします。

【参考】

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