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7月に見た映画①

まだ梅雨も明けていないというのにもう暑さと湿気でヘトヘト気味になってきました。しかもマスクまでつけないといけないのが本当にうっとおしくて仕方がない…そんな7月に見た映画の感想をまとめて書いていきたいと思います。場合によってはネタバレもありますのでご注意ください。

SKIN スキン(短編)

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肌の色で何かを分けようとする事が如何に無意味であるか、そして差別による憎悪の連鎖が今もなお続いている事実を端的かつえげつない程ショッキングに描いていく寓話のような短編映画。白人至上主義者の男は息子のいる前で平然と黒人に暴力を振るい、憎悪を口走る。一方、暴力と憎悪を受けた黒人もまた息子のいる前で復讐を実行していく。そして白人至上主義者の男が全身真っ黒のタトゥーを刻み込まれ、挙句の果てに実の息子に打たれて死ぬという衝撃的な展開に開いた口が塞がらない。そうして暴力と憎悪の応酬が延々と続いていく…まさに煉獄である。実は去年に字幕なしで鑑賞していたのだが、そのショッキングな展開とビジュアルは字幕がなくとも度肝を抜かれる。そして今回ちゃんと字幕版で見たことで白人至上主義者の息子がする毒ヘビの話がとても示唆的だった事など改めて理解が深まった。普通のヘビに見えても実は毒ヘビだったりするし、毒ヘビに見せかけた普通のヘビもいる…一面的な部分だけで判断することなんて出来やしないのだ。

SKIN スキン

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全身にタトゥーを刻み込んだ白人至上主義者が愛する家族のために改心する…それは長く険しい贖罪の道のりだった。「人は変われる」とはよく言うが実際のところはとてつもなく困難であることをまざまざと見せつける。不平不満を差別や暴力で紛らわせ、裏切り者は村八分にしてしまうというレイシズムに取り付かれた集団の内実は田舎特有のしがらみのように延々と付きまとってくるし、主人公がこれまでにやってきたヘイトクライムは決して消えるものではない。また「SKIN スキン (短編)」でも描かれていたように暴力や憎しみの連鎖もなかなか途切れない。そういったしがらみや罪、負の連鎖と向き合うかのように刻み込まれたタトゥーを消していく様はとても壮絶であり、贖罪の困難さと重なり合っている。そして赦しについても考えさせられる。人は映画の中でも現実社会でも罪を犯した人々に対して冷たい眼差しを向けがちだ。だからこそ改心や贖罪には周囲の人々による献身的な赦しの力も必要なのだ。あと忘れてはいけないのがジェイミー・ベルの迫真の演技だ。全身タトゥー姿のビジュアルにも驚きだし、とてつもない困難な道のりを歩む姿も凄まじかった。

幻の光

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是枝裕和の映画といえば画の美しさよりは人間ドラマの部分に重きを置いているようなイメージがあるのだが、長編デビュー作である今作はすごく画作りや幻想的なショットにこだわっていてすごく驚いた。俯瞰するような場所に置かれたカメラから登場人物達が画面奥に行ってしまうシーンが多用されているのだが、まるで遠くに行ってしまう人々をただ眺めるしかないというもどかしさを感じさせる。また水面に映る人の影や雪が舞う中での葬式の列など幻想的なシーンや構図が綺麗に整えられた部屋のショットなど見ているだけで美しい。そうした幻想的な世界観の中で描かれるグリーフワーク(大切な人を失くした時の悲しみや喪失とそこから立ち直るまでのプロセスのこと)をゆったりした時間をかけて静かに描き出していく。喪失の悲しみはなかなか癒えない、それでも日々の生活は続いていく…江角マキコのなんともいえない佇まいに吸い寄せられながら改めて実感するのだった。

狭霧の國

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ミニチュア特撮と人形劇で作られた約40分ほどの怪獣映画。ミニチュア特撮で作られた怪獣映画も人形劇という手法を使った映画も今ではかなり珍しいものになっただけに久しぶりにミニチュア特撮特有のリアリティや人形劇ならではの豊かさを体感できてそれだけでも嬉しい気持ちになる。例えば実在感のある怪獣が民家を次々となぎ倒していく様は圧巻だし、人形劇の細かな動きと声優陣の演技からは生命力を感じさせる。そして物語に目を向けると蔵に閉じ込められて死んだ人のように扱われる女性と太古の昔から湖に住んでいる怪獣が不思議な繋がりで結ばれ、破壊の果てに居場所のない者達に「ここにいてもいい」という安らぎを与えていく。穿った見方ではあるけれどまるでミニチュア特撮や人形劇という伝統芸能に近い撮影技法の存在を肯定し続けるかのようでもあった。

はちどり

「はちどり」の感想はこちらの記事に書いています。

アングスト 不安

アングスト①

とんでもなく身勝手で狂った殺人鬼のモノローグや才気走ったカメラワーク、妙にテンション高めなクラウス・シュルツのシンセサイザー主体の劇伴など普段見ている映画とはどこか違う荒々しい表現技法で殺人鬼の内面へと深く潜り込もうとする。「自分の殺人は全てが完璧な計画と理念に基づいている」と殺人鬼は語る。しかし実際に描写される殺人の手口は無計画かつ杜撰そのものであり、ドアを開けるのすら手こずる姿はとても無様である。また殺人を行う理由も当然のことながら全く理解できない。そんな論理的ではない殺人鬼の衝動性や矛盾に否応もなく観客は向き合わされ、共鳴させようとしてくる…そのひと時はまさに「不安」なひと時だった。そしてアーウィン・レダーのトチ狂った演技テンションも凄かった。殺人を終えたあとに絶頂をむかえてイってしまう姿は本当にヤバい人にしか見えなかった。それにしても人を殺すのってとても大変なんだなと…。

透明人間(2020)

透明人間(2020)の感想はこちらの記事に書いています。

本数が多いので今回はここまでです。続きも近いうちに投稿したいと思います。まだ全然書けてないけど…。

8/9追記:続き投稿しました!


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