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『珈琲と一緒にどうぞ』#シロクマ文芸部

「珈琲と……サンドイッチ……いやフライドチキン……やっぱりおにぎりだろ!」
「おにぎり??」
リカコがパーティスペースを借り切って、持ち込み自由のハロウィンパーティをするという。リョウスケは好きな珈琲を道具も持ち込んで煎れる予定のようだ。
「新米でおにぎり作ったらうまいじゃん」
「そりゃそうだろうけど……。珈琲とおにぎりって、ミスマッチじゃない?」
私はもっともすぎることを口にしてしまう、面白みのない人間だ。仮装は手っ取り早く、黒いワンピースに黒の帽子でメイクはグレーにして、持ち込みはワインとチーズにしようと思っていた。何度も言うが私は面白みのない人間だ。

「だいたい日本人はクリスマスやらバレンタインやら独自にカスタマイズして、勝手に楽しむ種族なんだから、おにぎりというもっとも日本的な伝統食を持っていくのは正しいじゃないか」
リョウスケは袴で決めたいと言っていたけど、そんなこと考えてたのかと勝手に納得してしまう。
「じゃあコーヒーじゃなくて日本茶がいいんじゃない?」
「いやおれのコーヒーは漢字で書く珈琲なんだ。日本の飲み物だ。だからおにぎりだっておはぎだってあんぱんだって、よく合うし、うまいんだ」
リョウスケはなぜかもっともらしいことを言う天才だ。
「日本の飲み物の珈琲は、どんな味?」

「そうだな。アメリカンじゃなくて、深煎り珈琲じゃなくて……デカフェにしよう。胃に優しい珈琲にしてパーティを盛り上げるんだ」
もう袴姿でコーヒーを淹れるリョウスケを想像して笑ってしまう。チグハグさをわかってないけど、ちゃんとコンセプトがあるから憎めないのだ。

「そういうアサコは珈琲に一番合うのはなんだと思う?」

少し考えて、ためいきをつくように答える。

「本。
珈琲を飲みながら山田詠美や村上春樹や東野圭吾や太宰治や柚木麻子や池田クロエさんの本を読むの。とってもしあわせで、珈琲が魔法の飲み物に感じるよ」

「おう。それはいいな。おまえは立派な日本人だ」

もっともなことを言うリョウスケは、おにぎりの具を何にするか考え始めた。どうやらおにぎりは決定らしい。

今夜はリハーサルだと言ってリョウスケにデカフェ珈琲を淹れてもらおう。それから何の本を読もうかなと考えていたら、自然としあわせな気分になって、秋のまんまるな月を見上げて思った。

日本人でよかった。
リョウスケが日本人でよかった。
「珈琲と一緒にどうぞ」とおにぎりを出されても、笑えるわたしでよかった。



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