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中小企業は背水の陣で勝てるのか?

「背水の陣」
もし失敗したら後がない、という状況で物事に当たること。
付け加えるなら、後がないと自覚することで成功の確率を高めることとも言えます。
勝負事で使われる故事成語ではありますが、ビジネスシーンでも使われることはあります。

この企画が当たらなかったら我が社の命運は尽きる。
背水の陣という思いで取り組んでください。

職場でこんな檄を飛ばすシーン。
一昔前はしばしば耳にしたような気がします。
本当に命運が尽きるかはさておき、
必死に取り組まないと後がないぞ!という思いで発せされているのだとは思いますが、
果たして本当に効果はあったのでしょうか?

令和の現在、
ビジネスモデルの変化や、組織の在り方も変わってきています。
檄を飛ばす号令にはその効果もないとは思いませんが、
使い方や言葉の選び方を間違うとハラスメント案件にもなりそうなので、
上司やトップとしては慎重に使わないと
かえって命取りにもなりそうですが。

さて翻って私が若いころは、
この背水の陣的な檄を飛ばされていました。

今の会社の設立から数年後のこと、
私もまだ現場の社員として企画担当者だった時代。
最初はヒットが連発して右肩上がりでしたが、
アイデアの泉が枯渇したのか、
はたまた思い上がりがあったのかは分かりませんが、
新商品が売れない、という時期が続いたこともありました。

そんな時に創業者から発せられた言葉、
「私はこの会社がなくなっても困らないので、どうなっても構わない。なくなったら困ると思う人で何とかしてください」

ここでの「なくなる」とは会社を清算するという意味です。
創業者は他にも会社を経営しており、そちらは順調でしたので
「私は困らない」というのは確かです。

そして社員であった私は会社がなくなると行き場がなくなることを意味します。
次の企画をヒットさせなければ無職と言われたも同然です。

まさに「背水の陣」。

そして私はどう思ったか?

めちゃくちゃ燃えました!

これはもう、意識が低い高いの問題以前の話です。

もともと創業者に対する尊敬や信頼感があり、
いわゆる「らしい」言葉使いだったということもあります。

結果を出した人が結果に見合う評価や待遇を受ける会社にするという創業者の考えに深く共感していたこともあります。

この状況は結果を出せていない自分に対する檄とも言えるわけで、
ここは結果を出して見返してやる!
と、自分を奮い立たせました。
そのおかげか、その後の企画で挽回することに成功し、
現在まで至ることができました。

背水の陣作戦は成功したと言えます。

さて、
その後私が常務、社長と経営を預かり、
業績もなんとか上がり社員も増えてきました。

とは言え順風満帆の毎日ばかりではなく、
ここでも綴ってきたようにむしろ苦労の連続でもあったわけです。
組織に苦労したが、業績はよかったと書いたことがあります。
幸いにこのままでは倒産というレベルまではありませんが、
それでもヒットが出ない、思ったほどに業績が伸びないということもあったわけです。

そんな時に私の頭によぎったのが、
この背水の陣作戦でした。

背水の陣の如き檄を飛ばすことで、
この逆境を乗り越えることはできないか?

檄を飛ばされた側としての成功体験があります。
ドラマとか漫画だと、
こういうシーンは高揚感のあるシーンとして描かれることも多い。
もしかしたら?という誘惑に駆られたこともあります。

しかし、
実際には発しませんでした。
本当の意味で会社が存続の危機に面していたわけではないのが一番の理由です。
言い換えれば社員の発奮を促す程度のレベルです。
私が言われた時とは使いどころが違うのですね。

正直に言うと、近しい管理職に向けて
軽目に発したことはありました。
テスト的に試みたんですね。

反応はよくありませんでした。
反発を買ったというよりも、
「柄にもないことしない方がいいですよ!」
という感じでした。

それもまたその通りで、トップとして目指した私のキャラとは違います。
むしろ空回りしていた頃に逆戻りだったかもしれません。
振り返って考えてみても、
所詮テスト的に発しただけなので、そもそも緊迫感がないわけですから、
その時点で意味がなかったのでしょう。

また私が創業者に向けて持っていた信頼感と同じレベルで
社員たちが私に対して信頼感を持っていてくれているかも自信がなかった。

それに雇われ社長である私は
「この会社がなくなって困る」側の人でもあった。

これでは背水の陣作戦は使えません!

そんなことをつらつらと考えた結果できた言葉がこれでした。

「我が社の辞書には失敗という文字はない」
「失敗は皆で共有すれば財産になる。ただし一人で隠せば負債になる。だから失敗を恐れずチャレンジして、いかなる結果も皆で分かち合おう」

背水ではなく、背中にも大平原が広がっているイメージですね。
もしくは崖下に分厚いマットを敷き詰めいているイメージかもしれません。

この言葉は社員にとって受けがよかったこともありますが、
それ以上に、何よりも自分が発していて気持ちがラクだったのが大きいです。

自分がしっくりしない言葉を使っても、
社員に伝わるわけがありません。
作りたい組織とは
社員にとって働きやすい組織であると同時に、
トップにとっての居心地の良さも大事です。

その二つは時に真逆なベクトルかもしれませんが、
その両立を可能にする言葉やストーリーを考えることが大事なんだと
私は思うのです。

自分が発せられて燃えた言葉は、
必ずしも自分が発して社員を燃えさせることができるわけでもない。
むしろ自分が発した時に、自分自身の気持ちに違和感なく
ラクでいられる言葉こそを発した方がいい。
でないと、まずは自分自身が続けられないし、無理に続けても結局は社員に伝わらない。

トップになって改めて「背水の陣」を考えたことによって、
こんな教訓を自分に気づかせてくれた気がします。

ちなみに創業者に、「会社がなくなったら…」の言葉の真意について後日聞いたことがあります。
その返事とは?

「覚えてない」

でした。

本当は覚えていると思うけどね(笑)

最後に
本年はありがとうございました。
こんな駄文にお付き合いいただいた方には心から御礼申し上げます。
来年もラクな気持ちで続けていこうと思っております。
引き続きよろしくお願いいたします。
どうぞよいお年をお迎えくださいませ。

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