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野球は三角ベースから

野球を最近見たことがあるだろうか。

何を言ってるんだ。
つい最近まで、WBCで盛り上がっていたじゃないか。
大谷、ヌートバー、村上、吉田、ダルビッシュ。
センバツもあったぞ。
山梨学院が山梨県に初優勝をもたらしたじゃないか。
それに、プロ野球も、ペナントレースが始まっているぞ。

それでは、質問を変えよう。
子供が野球をやっているのを最近見たことがあるだろうか。

WBCで日本が優勝した時に、これで日本の野球人口が増えるかもしれない、野球を始める子どもたちが増えるのではないか、そんなことが盛んに語られていた。
しかし、本当に野球人口は増えるのだろうか。
子供たちは、大谷翔平やダルビッシュを目指して野球を始めてくれるのだろうか。

僕が子供の頃は、もう半世紀以上も前のことを持ち出して申し訳ないが、僕が子供の頃は、野球人気がおそらく最高潮の頃だったのかもしれない。
王、長嶋のジャイアンツが9連覇していた頃だ。
テレビでは、ジャイアンツ戦とはいえ、毎日地上波ゴールデンタイムにプロ野球中継があった。
野球漫画も花盛り。
「巨人の星」、「男どアホウ甲子園」、さらには「ちかいの魔球」、「父の魂」、「アパッチ野球軍」、「侍ジャイアンツ」、ついには、「アストロ球団」などと超人が野球をするものまで現れた。

そして、そんな漫画やアニメで野球を覚えた僕たちは、見よう見まねで自分たちでも始めてみる。
別に9人なんて集まらなくてもいい。
ユニフォームなんかもちろんない。
道具もまだない。
最初は手で打って、素手でとる。
ボールも軟式テニスのような柔らかいボール。

人数の少ない時には、いわゆる三角ベース。
いや、ホームから一塁に行ってまた帰ってくるような時もあった。
チーム編成も、2人、3人、時には1人1チーム。
どこでもやった。
家の前の道路でもやった。
よその家にボールが入れば、
「すいませーん! ボール取らしてください」
すると、おばちゃんも、
「きいつけやー」
空き地とあれば、どこでも潜り込んだ。
柵をまたぎ、有刺鉄線を潜り抜けた。
住宅を建てる前の平にならされたところなどは、格好の野球場だった。
追い出されるまで遊んだ。
やがて、少しずつ、兄弟や親のお下がりのグローブやバットが増えてくる。
少し裕福な子は、グローブやバットを買ってもらう。
それをみんなで使い回す。

そんな子供たちを、最近どこかで見かけたことはあるだろうか。
最近、こんな書き込みをネットで見かけた。
「近所の空き地で子供たちが集まって勝手に野球をやっています。無断で人の土地を使っているのを黙って見ていていいものでしょうか。親はどんな教育をしているのでしょうか」
そして、回答者も「それは法的に違法なので…」とクソ真面目な(失礼)回答をされていた。
別に子供が野球をやったからと言って、その土地の値打ちが下がるわけでもないだろう。
まあ、こんな世の中だから、おちおち野球もやってられないのかもしれない。

そう、野球は遊びではなくなったのだ。
今、子供たちが野球をやろうと思えば、正式に少年野球やリトルリーグのチームに入るしかない。
もちろんお金もかかる。
道具もいる。
今、硬式のグローブは5、6万円はするようだ。
素手でやりますなんて言えない。
もう小学生から真剣勝負だ。
野球一筋だ。

僕の頃には、一緒に空き地で野球をやっていた仲間の中から、何人かは中学でも野球部に入ったが、バスケットボール部に入ったもの、テニス部に入ってものなど、それぞれに分かれていった。
別に野球一筋ではなかったからだ。
僕のように一筋の子もいたが、そうでない子も一緒に野球をやっていた。
それは、野球が数ある遊びのひとつだったからだ。
今日は野球やるけど、明日は誰かの家に集まって人生ゲームをやるよ。
そんなことも普通だった。

今や、野球は、遊びではなく、気軽にやったりやらなかったりできるものでもなく、十分に考えて、時には誰かと相談して、決心して始めるスポーツになった。
これで、野球人口が増えていくとは思えない。
もちろん、野球を観戦する人は増えるだろう。
しかし、野球をやる人という意味での野球人口は、いかにWBCで優勝しようと、大谷翔平が活躍しようとも、増えていくことはないだろう。

野球人口を増やすには、まずは、道具なんかなくてもできる三角ベース人口を増やすことからだ。
そして、そんな子供たちを受け入れる世の中をもう一度作ることからだ。
何だか、少子化対策みたいな話だが、そういうことだと思う。

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