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今なら間に合う、作家誕生の現場に〜秋谷りんこ「ナースの卯月に視えるもの」

あなたは、こんな現場に立ち会ったことがあるだろうか。
例えば、noteに短編小説を書き散らし(失礼)、小さなコンテスト、時折り大きなコンテストに応募して、入選と落選を繰り返していた女性、いや最近は、ひとりの人間と言わなければならないのであろう、その人間が、誰もが知る出版社から自身の作品を出版し、有名作家への階段に足をかける、そんな現場。
例えば、まあまあ面白い短編小説でしかなかった(失礼)作品が、すっごく面白い長編小説に生まれ変わる、そんな現場。
あなたは立ち会ったことがあるだろうか。

もしそんな経験がないのなら、今が最後のチャンスだ。

昨年の「note創作大賞2023」において「別冊文藝春秋賞」を受賞された秋谷りんこさんの小説「ナースの卯月に視えるもの」が、いよいよ今年5月に文春文庫より刊行されることになった。

いや、それだけなら、単なるお知らせだ。
その1話と2話が「別冊文藝春秋3月号」にて公開されている。
それもお知らせだ。
今なら、Kindle Unlimitedに入っている。
それもお知らせに過ぎない。

つまり、僕たちは、長編小説として出版される作品と、その元になったというと語弊があるかもしれないが、その作品とを読み比べることができるのだ。
作品の背景、登場人物、舞台、展開がどのように書き換えられて、ひとつの長編小説として出版されるに至ったか、その過程に立ち会うことができるのだ。

看護師の卯月咲笑はあることをきっかけに、人が亡くなる少し前になると、その人の思い残したものの一部が視える特殊な能力を持つことになった。病院で働く間、患者の思い残したことを視る卯月は、何とかその「思い残し」を解消しようと試みる。患者の「思い残し」は、いつも思わぬミステリーを連れてくる。意識不明の男のベッドサイドに現れた女の子は誰なのか。癌を患い余命の少ない男のベッド下に横たわる女性との関係は。クモ膜下出血後の老女が思い残した若い男性の面影とは。「死にゆく人の思い残したものが視える」からこそ自分に何かできるのではないかと考える卯月の、不思議で少し切ないお仕事ミステリー。連作短編集。

note掲載の「ナースの卯月に視えるもの」より

あらすじを読んだだけでも、本編を読みたくなる。
そして、note掲載時には4話だったものが、6話となって出版される。
今読めるのはまだ2話までだが、その1話の冒頭を読むだけでも大幅にブラッシュアップされているのがわかる。
新たな人物の登場で、以前にはなかったテーマも展開していくようだ。
最初の作品と読み比べて見ることは、今後長編小説を書こうと思っている方には貴重な経験となるに違いない。

今のうちにしっかり応援しておけば、将来どこかの酒場で、
「あの有名な秋谷りんこって作家さあ、実はデビュー前からちょっと知ってるんだよね」
そんなことをうそぶいたって、秋谷りんこさんはきっと許してくれるだろう。

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