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今まで観た認知症の映画で一番衝撃的だった『ファーザー』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:2/87
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★★

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
ホラー
サスペンス
認知症

【あらすじ】

ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)。彼は記憶が薄れ始めていたものの、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が手配する介護人を拒否していた。

そんな中、アンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられ、ショックを受ける。

しかし、ここでひとつ疑問が浮かぶ。もしそれが事実なら、アンソニーの自宅に突然現れ、アンと結婚して10年以上になると語る、この見知らぬ男は誰だろうか?なぜ、彼はここが自分とアンの家だと主張するのか?ひょっとして財産を奪う気か?

そして、アンソニーのもう一人の娘、最愛のルーシーはどこに消えたのか?

現実と幻想の境界が崩れていく中、最後にアンソニーがたどり着いた〈真実〉とは――?

【感想】

これは、、、ヤバい映画でした。。。(語彙力w)いや、本当に観て欲しいです。アカデミー賞の作品賞、これがよかったんじゃないかってぐらい衝撃的でしたね。。。初見での衝撃だけで言えば、現状僕の中で1位の『SNS-少女たちの10日間-』を凌ぐかもしれない。。。とにかく内容がショックすぎました。。。

<過去の同ジャンルの作品とは一線を画す作り>

父親が認知症になるっていう設定って、前クールにやっていたTBSのドラマ『俺の家の話』を思い出しますよね。認知症の父親を、それまで離れていた長男を中心とする家族みんなで支えていくっていう、心温まる家族の話。でも、これはそんな温かい物語ではないんです。過去の認知症を題材とした作品をすべて観たわけではないので、もしかしたら同じようなコンセプトの映画がすでにあるのかもしれませんが、僕がこれまで観てきたものとはだいぶ違ったなと思いました。

認知症を題材とした作品って、認知症になった主人公(またはヒロインなど)が大切な人のことを忘れてしまう悲しさや、彼らを取り巻く家族の絆に焦点が当たることが多くて、どちらかと言えば「忘れられた側」に感情移入することが多かったと思うんです。

でも、今回の映画は、認知症にかかった本人に焦点を当て、彼が直面している世界を如実に表しているのが、これまでと大きく差別化されている点だなって感じました。

<ホラーやサスペンスを思わせる演出>

この映画、ヒューマンドラマではあるんですけど、実際の作りはホラーやサスペンスを思わせるところがあるんです。さっきまで話していた人がいない、同じ人なのに自分と家族で見えている姿が違う、同じことを繰り返すタイムループ要素など、次の展開に進むたびに「え?どういうこと?」という謎に満ちた恐怖に襲われるんです。この感覚、ホラー映画やサスペンス映画を観たときと似たものがありました。。。

<認知症の人から見た世界と圧倒的な孤独>

でも、そのホラーやサスペンスっぽさを感じた世界観こそが、実際に認知症の人から見た世界なんでしょうね。少なくともこの映画の中ではそう描かれています。健康な人とは住んでいる“次元”が異なるんですよ。見ている景色、聞いている言葉、流れている時間がまったくの別次元。当然、まわりの人と話が通じるわけがないんです。

そんな状況に身を置いたら、人ってどうなると思いますか?そう、孤独です。目の前に広がる世界は、自分にしか知覚できない様相を呈しており、誰かと共有することは不可能です。現実として確かに存在しているのに、脳が正しく認知してくれませんから。まるで、自分だけが違う世界に来たような、その世界の住人は自分ひとりかのような状況。圧倒的な孤独ですよね。

これは辛いですよ。孤独に苛まれたアンソニー・ホプキンスの演技に、僕は涙が出ました。

<認知症患者の介護の負担>

もちろん、主人公のアンソニーを取り巻く家族の様子もこの映画では描かれています。それを目の当たりにして改めて思うのは、認知症患者の介護がとてつもなく大きな負担と疲弊を伴うってことです。違う世界に行き、話がまったく通じない人の面倒を見るのは、これほどまでに辛いのかというのが、娘夫婦を見ているとよくわかります。同じ経験をした人なら余計にこの映画に共感するところがあると思います。

<忘却の行き着く先は孤独>

僕は死ぬそのときまで健康でいたいですが、認知症にならないとも限りません。でも、できることなら避けたいですよね。「忘れる」ということが、まわりを悲しませるだけでなく、自分も苦しむことになるのかもしれないということを、この映画は教えてくれましたから。

ぜひ観て欲しいです。忘却から生まれる孤独を垣間見ることができます。


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