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水俣病患者のリアルな姿に痛ましさを感じつつ、日本人としてそれを風化させてはいけないと感じた『MINAMATA―ミナマタ―』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:35/197
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★★☆
      音楽:★★★★☆
映画館で観るべき:★★★★★

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
史実に基づく物語
水俣病
写真家

【あらすじ】

1971年、ニューヨーク。アメリカを代表する写真家の1人と称えられた
ユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、今では酒に溺れ荒んだ生活を送っていた。

そんなとき、アイリーン(美波)と名乗る女性から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影して欲しいと頼まれる。

水銀に冒され、歩くことも話すことも出来ない子供たち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側。そんな光景に驚きながらも、冷静にシャッターを切り続けるユージンだったが、あることがきっかけで自身も危険な反撃に遭う。

追い詰められたユージンは、水俣病と共に生きる人々にある提案をし、彼自身の人生と世界を変える写真を撮る──。

【感想】

これは日本人として観ておいた方がいいと思いました。僕が小学生の頃、社会の授業で初めて習った「四大公害病」。水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく。その水俣病患者を撮影したアメリカ人写真家ユージン・スミスに焦点を当てた映画が本作です。

<粗暴な性格だけど腕は確かという主人公のキャラクター像>

主人公のユージンは、飲んだくれで自分勝手な印象を受けます。とはいえ、写真の腕前は一流です。その腕を見込まれて、彼は日本へとやって来て、水俣病患者を撮り続けます。

わざわざ遠い異国の地からの来日。しかも、何でもそろう都会というわけではないので、決して居心地がいいとは言えないでしょう。さらに、取材を続けていく中で、水俣病の原因を作ったチッソ株式会社からの妨害もあります。一時は撮影を投げ出そうとさえします。

しかし、懸命に戦おうとする被害者たちの姿を見て、彼らの力になりたいと決心します。「写真は撮る者の魂も奪う。だから、本気で撮らなきゃいけない」。そう語ってきた彼の覚悟の強さがよく伝わってきますね。腕はいいけど、性格は難アリというよくある職人気質っぽい要素もあるんですが、そんな彼を突き動かす現実が、この場にはあったということですね。

<リアルに描かれる水俣病患者>

ユージンのキャラクターもよかったのですが、やはりこの映画で強く心に残るのは、水俣病患者たちの姿だろうなと思います。特殊メイクか何かでしょうか。小学生のときに教科書で見た写真のまんまでした。あまりにもリアルに再現された姿はとても痛ましかったです。

また、劇中に出てくる写真の中には、実際にユージンが撮影されたものもある。特に『入浴する智子と母』の再現シーンは、映画を観終わった後に実際の写真と見比べて、その再現度の高さに驚きました。

<ユージンの本気度に脱帽>

終盤における、被害者たちのチッソ社に対する抗議シーンも見どころのひとつです。ここでユージンはチッソ社の社員から暴行を受けてしまうんです。そこでひどい怪我を負ってしまって、その後の撮影に支障をきたすほど。なお、映画では触れられていませんが、実際に彼はこの暴行により、コンクリートに激しく打ちつけられて脊椎を折り、片目を失明する重傷を負ったそうです。それが原因で後年は撮影もままならなかったとか。それでも彼は日本を恨むことをしなかったようです。自分の写真家としてのキャリアにマイナスを与えているにも関わらず、恨むことすらしないとは、器が大きいというより、それだけ覚悟があったっていうことですよね。人々が何に対して怒っているかを深くわかっていたからこそ、その場にいる自分にどんな運命が待ち受けていようとも受け入れることを決めていたんだと思います。

<その他>

エンドクレジットでは、世界各地の公害病の写真が映し出されていました。水銀、殺虫剤、サリドマイドなど、その被害に遭った方々の写真は心が痛みます。全体的に淡々と進む映画ではありますが、写真展を訪れているかのような雰囲気があって、視覚的に訴えてくるものがあります。

いまだに政府やチッソ社から十分な対応を受けられていないようですが、日本人にも広く知られている公害病なだけに、これは日本人ならぜひ観ていただきたいですね。むしろ、小学生の社会の授業で観たかったです。


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