イギリスのリアルな労働環境と家族が崩壊していく様を描いた『家族を想うとき』

2019年公開映画217本中39位。

これは、、、観るのが辛い映画です。。。
救われなさすぎて、心が痛かった。。。

タイトルからして感動系かと思ったんだけど、
全然感動しない。
ただげんなりするだけです。
しかも、ホラーやスプラッターといった類いじゃなくて、
ドキュメンタリーに近い感じなんだよね。

ただただリアルなイギリスの労働環境と、
それによってひとつの家族が壊れていく過程を
まざまざと見せつけられる内容でした。

ゼロ時間契約の配達ドライバーをしている主人公と介護士の妻、
そして16歳の長男と12歳の長女の4人家族の話。

日本じゃあんまり馴染みがないかもしれないけれど、
「ゼロ時間契約」とは、週当たりの雇用時間が決まっておらず、
雇用主が必要とするときにだけ働く形態(なので、働けないときもある)。

映画では、宅配会社と雇用契約は結ばず、
自営業というか、フランチャイズ契約のようなものだった。
当然、保険もなければ、配達の車も自腹で用意。
1日14時間を週に6日。
肉体労働なので疲労は溜まるばかり。
でも、病欠などしようものなら制裁金が課せられるという、
ブラックすぎる環境です。

訪問介護の仕事をしている妻も、
毎日多くの家をまわり、食事やトイレのお世話に追われる日々。
しかも、それまで自家用車で移動していたのに、
夫が配達用のバンを購入するために手放してしまったので、
毎日バス移動をするハメに。

長男は反抗期なのか、万引きで警察に捕まるわ、
喧嘩が原因で学校から呼び出しを食らうわの、
ちょっとやんちゃな状態。

しかも、両親が迎えに行かないと起訴されて前科者になったり、
学校も停学になったりするから、
すぐにでも迎えに行かないといけないんだけど、
両親共に仕事が忙しくて全然抜け出せないんだよね。

警察へは父親が向かうものの、
仕事に穴をあけて制裁金を支払うことになるし、
学校へは母親が向かうものの、
夫婦そろっていないため校長から怒られ、結局14日間の停学に。。。

唯一、長女だけがまともな子でした。

生活のために仕事をするけど、
その仕事のために家庭がおろそかになり、
家庭がおろそかになるから子供に影響が出て、
仕事のせいで子供のケアもできずに生活がすさむという悪循環。

そんな心のゆとりが一切ない状況が続き、
ひとつの家族がだんだん崩れていく様子を
2時間ひたすら目の当たりにするのは辛かったよ。。。

でも、この映画の辛いところは、絶対的な悪がいなくて、
誰のせいにもできないところでもあるんだよね。
気持ちのやり場がない。。。

人によっては、そんなブラックな状況なら、
仕事を変えればいいと言う人もいるだろうし、
それはすごく正論ではあると思う。

でも、そういうのはすでに社会的地位が高いところにいたり、
上昇志向が強かったり、頭がよかったり、
「できる」人たちだからこそ言えることだと思うんだな。

世の中すべての人がそうできるわけじゃないし、
経済的な理由や能力の問題から選べる道が限られていることもある。

まあ、映画では他の道を探すところまでは描かれていないのだけど、
余裕がなさすぎてそこまで考えられない気もする。。。

そのような状況の中で、
「その仕事についている夫や妻が悪い」
「そんなブラックなら転職すればいいのに」
って、外野が言うのは簡単だけど、
実際に行動に移すのは本人たちなので、
なんだかやるせない気分になる。

いろいろ考えさせられる映画なので、ぜひ観ていただきたい。
小さい頃から何不自由なく暮らしてきた人とかには
理解できないかもしれないけれど、
こういうところで歯を食いしばってがんばっている人たちもいる
っていう事実は知って欲しい。

ちなみに、この映画、キャストが特殊なのが面白いよ。

主人公リッキーを演じたクリス・ヒッチェンは
ずっと配管工をやっていて、40歳過ぎてから演技の道に進んだそう。
妻アビー役のデニー・ハニーウッドも
テレビシリーズの小さな役ばかりで映画は今回が初。
長男セブ役のリス・ストーンと
長女ライザ役のケイティ・プロクターも初の映画出演だったとか。

さらに、主人公の上司役だったロス・ブリュースターに関しては、
20年以上務める現役の警官らしい。

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