アラセルバ王国のティオフェル1
○アラセルバ王国王室。
アナスターシャN「時は紀元前5000年、アラセルバ王国と言う莫大な資産と領地を持った王国が存在しました。アラセルバは100年ほど続いている都で、未だに創始の時代と変わらずに王子の頃から厳しく凛とした教育を受けた立派な聖君の元、平和な国が成続いています。よってこの国は創立以来、戦をしたことがありません」
アナスターシャN「初代国王のギルデンバッハが死ぬと、その息子の2代目のメディオスが、2代目アラセルバ国王の地位に就きました。彼も又、父親譲りの聖君で民思いの心のいい王でした。メディオスはまだ王子だった18歳の時に、遠く離れたエジプトという王国よりクレオという王女を嫁取り、しばらくすると二人の王子と一人の王女にも恵まれました。先に生まれたのはツォリカという王女、そして次にイプスハイムという王子。二人共器量がとても良く、気立てもよく美しい子で、その上頭の良く勤勉でした。そのため国民からも多くの支持を受け、イプスハイムの方は将来の聖君を期待されていましたが…」
アナスターシャN「彼が14歳になった時、突然人が変わってしまったのです。酒には溺れ、賭博はする…今までの姿とは想像も出来ない程の放蕩者となってしまい、仕舞いには城の下女と関係を持ち、下女を妊娠させたとの噂が流れてしまい、イプスハイムも王位後継の座を捨て、国を追われてしまいました。さて、では後継はどうなるのでしょう?そんな話で国中が持ちきりになっていた頃、イプスハイムの下の弟・ティオフェルが5歳となり、王族学習室に入学する年齢となりました。やはりイプスハイムに似てとても美しく気立ての良い王子・ティオフェル…そして時は流れ、軈てティオフェルは12歳の少年になりました。成長した王子はより一層美しさを増し、大人に近づくあどけない色気も出てきました。しかしこの子は美しい顔にも似合わず、大変悪戯ざかりの男の子。それでも国民は、今度こそはとこのティオフェルに国の将来を期待していたのでした。しかし一つ…イプスハイムと違っていたのは…?」
○アラセルバ宮殿・ティオフェルの寝室
ティオフェル、眠っている。メデア、土器鍋をタクトで叩く
メデア「王子様、朝にございますよ。お起きになってくださいませ」
ティオフェル「ん…んんっ」
メデア「王子様!」
ティオフェル「今起きるよ…」
布団の中を覗いて蒼冷める
ティオフェル「あ…」
メデア「あらあら王子様、叉おねしょですか?」
ティオフェル「(泣きそう)メデア」
メデア「仕方のない王子様です事。大丈夫です、メデアめがきちんと洗って干して起きますわ。ほら王子様は早くお着替えをして朝のご準備を」
ティオフェル「ありがとう」
○同・大広間
朝食時。役人や王族が集まってそれぞれに食事をしている。クレオとティオフェル。
クレオ「ティオフェル!」
ティオフェル「はい…」
全員、一斉に注目。
クレオ「そなたはもう12にもなる立派な王子なのだ!将来はお父上の後を継ぐ国王となる王子なのだぞ!それなのにまだおねしょとは何事だ!?」
ティオフェル「母上…」
恥ずかしそうにきょろきょろ
ティオフェル「そのようなお声でお話になるのはお止めください!皆が見ているではないですか!」
クレオ「少しでも恥を感じるのであらば、そのおねしょをお直し!そうすれば母も怒鳴るまい」
ティオフェル「…」
笑いが起きる。ティオフェル、真っ赤になってうつ向く。
アナスターシャN「そうかと思えば…」
○同・学修堂
ペドロとティオフェル。ペドロ、講義をする。
ペドロ「よって聖君とは民の事を重んじ第一に…王子?王子様!」
ティオフェル「んんっ」
ペドロ「王子!学業中ですぞ!聞いておられるか!」
ティオフェル、ビックリして目覚める。
ペドロ「王子!」
ティオフェル「すまない…聞いていなかった」
ペドロ、ため息。
ペドロM「ティオフェル王子様にも困ったものだ」
アナスターシャN「ティオフェル王子は12になってもおねしょが治らない、しかも非常にマイペースで我が道な王子。そんな王子の将来を父も母も按じていました」
クレオ「王様、このままではあの子の将来が心配ですわ」
メディオス「うむ…如何にも。今のままのティオフェルに本当にアラセルバの後継を任せれるのか」
語り「しかし頭を悩ます両親や城の者共を他所に、ティオフェル王子は相変わらず気儘にやりたい放題。重臣達もこの子には大層手をやかせていました。そして国民達も城の者共も、この子がイプスハイムの荷の前を踏むんではないかとそんな心配も囁かれました」
○同・ティオフェルの寝室
ティオフェルとメディオス
メディオス「なぁティオフェル」
ティオフェル「はい父上」
メディオス「お前には国王になると言う自覚はあるのか?国の父となる覚悟はあるか?」
ティオフェル「自覚や覚悟…あるもなにも私は国王になる気はありません!」
メディオス「ティオフェル!」
ティオフェル「私には兄上様がいらっしゃったのでしょう?本来ならば兄上様が王位を継ぐべきお方なのですから、私には関係ないはずではありませんか!」
メディオス「そうだ。しかしイプスハイムはこの国にはおらん。アラセルバを捨て、敵国である邪馬台国に行った。故にティオフェル、国の将来を支えていくのはお前しかいない。それ故、父はお前の将来が心配でならぬのだ。お前の自由さや気儘さ、その泣き虫で怖がりな性格はとても国王になるものの姿勢には見えぬ」
ティオフェル「故に私は!」
メディオス「そこでだティオフェル、今日はお前に大切なお話をしよう」
ティオフェル「大切なお話ですか?」
***
ティオフェル「え?」
メディオス「今申した通りだ。間もなくアラセルバでは戦が始まろう。それがその時の合図だ。それで万が一父に何かあったらティオフェル、アラセルバを守るのは本当にお前しかいなくなるのだ」
ティオフェル「そんな…そんな父上、変なご冗談を仰らないで下さい!」
メディオス「(笑う)大丈夫だ。言ってもそれほど早い事ではなかろう。しかし、何れはお前が生きている間に必ず来る。その為にもティオフェル、お前には確りとしてもらわねば困るのだ」
ティオフェル「分かりました父上。しかし私はどうすれば?私はまだ何も知らないのです」
メディオス「案ずるな。お前が一人前になるまで父が王としてお前の元にいる」
アナスターシャN「しかし」
○アラセルバ王国・戦場。
1年後。アラセルバ王国と邪馬台国との大きな戦。
メディオス「ティオフェル、お前もいずれ戦を指揮する時が来る。この父の姿をしかと見ておけ!」
ティオフェル「父上!」
メディオス「アラセルバ出陣!」
メディオス「メデア、ブブ、王子を頼んだぞ」
メデアとブブ
メデア・ブブ「はっ」
メデア「王子様」
腰を抜かすティオフェル。
メデア「無理もございませんわ。アラセルバは長年平和だったゆえに王子様は戦をご覧になるのは初めてですもの」
ブブ「如何にも」
ティオフェル「父上と母上は!?もうこのまま戻っては来られないのではあるまい?」
メデア「お気を確かに王子様、大丈夫です。王様は必ずや邪馬台国に勝利しお帰りになりますわ。王妃様ですて、きっとご無事に戻られます。ですから王子様、信じてお待ちしておりましょう」
***
夢の中。クレオとメディオス、火刑台で燃やされている
ティオフェル「父上!母上!」
メディオス「ティオフェル!」
クレオ「そなたは強く生きるのだ!」
○アラセルバ宮殿・ティオフェルの寝室
更に1年後。ティオフェル、飛び起きて息を切らしている。
ブブ「王子様、如何なされたか?」
ティオフェル「ブブ…」
ブブ「酷く魘されておいででしたよ」
ティオフェル「恐ろしき夢を見た。数年前の戦で父上が邪馬台国に出撃し、母上が邪馬台国に捕らわれ夢だ。夢の中では父上も邪馬台国に捕らわれ、母上と共に火刑台にかけられ炎の中で…」
ティオフェル、声を詰まらす
ブブ「王子様…」
ティオフェル「ブブ、私はどうすればよい?何故に何百年にも渡って太平の世が保たれてきたこのアラセルバがこの様な事になる?何故に東方のアラセルバには関係もない南方の邪馬台国が攻めてくる?」
ブブ「今から5000年前…邪馬台国には卑弥呼と言う女王がいた事は王子様もご存じでしょう。その、女王卑弥呼が復活する年が軈て訪れるとアラセルバの歴史書に書かれていると、以前にメディオスから聞いた覚えがあります」
ティオフェル「女王卑弥呼の復活?」
ブブ「左様。王子様も5000年前のあのおぞましき出来事をお勉強なされたでしょう」
ティオフェル「??」
ブブ「ペドロに習っておられないのですか?王子様のお年の王族であれば誰しもが知っておいでなのに」
呆れたため息。
ブブ「もしや王子様、又もお居眠りを?」
ティオフェル、ドキッ
ブブ「よいでしょう。わたくしブブめがお話致します。5000年前の出来事です。創立されたばかりの国・邪馬台国のゴノスロー宮殿にアナスターシャと卑弥呼という王女がいたんです。二人ともとても仲睦まじく、腹違いの姉妹ではありましたが実の姉妹のように過ごしていました。卑弥呼はアナスターシャよりも5歳年下であったため彼女を姉のように慕っていました。しかし互いの母親は二人が仲良くすることを大変嫌っていたんです」
ティオフェル「何故だ?」
ブブ「アナスターシャは大王・クンドルの正室の子、卑弥呼は側室の子だったのですが、皮肉にも正室と側室の家柄は宗派が真逆で、敵同士だったからです。当時の邪馬台国には“革命派”と“国風派”というものが存在し、革命派は古い文化を捨て、新しい文化を取り入れていこう!国を明るくしよう!というもので、国風派は古き良き国の文化を守り抜こうと言うものでした。アナスターシャの家は革命派、卑弥呼は国風派だったんです」
ティオフェル「そんな…同じ国の者同士で争うだなんて…」
ブブ「そしてついに…恐れていたその時が訪れてしまった…」
ティオフェル、息を飲む。
ブブ「大王のアルソン・クンドルが病気で急死したのです。しかしクンドルには男の子がなく、後継に値する人はアナスターシャしかいない…そうなると過去初めての女帝誕生。しかしその事がきっかけで邪馬台国は内戦となってしまったのです」
ティオフェル「なぜ…」
ブブ「革命派の娘が国の母となるのです。そしたらどうなります?邪馬台国は革命派の権力によって変えられ、国風派は革命派によって滅ぼされてしまう。国風派はそれを恐れたのでしょう。元々宗派のせいで国が分裂していたのですから、敵が統治者になったところで纏まる筈がありません。国風派にとってアナスターシャが王位に就くなどあってはならぬこと、どの様な汚い手を使ってでもそれだけは防がなくてはならない…そこで国風派は刺客を派遣して革命派の者共を皆殺しにし、アナスターシャも邪馬台国に戻れぬように東方の国に連れ去りました。遠く離れた地で誰にも知られる事なくアナスターシャを殺す計画でいました」
ティオフェル「そんな…なんと卑劣な!」
ブブ「しかし幼き頃より仲が良かった卑弥呼はどうかアナスターシャの命は取るなと国風派に嘆願したため、彼女は殺されずにすみました。しかしアナスターシャのその後の暮らしはとても酷なもの…死んだ方がよかったと思ったことでしょう。アルプラート宮殿の後宮に送られ、側室や上位女中の側で雑用をさせられる毎日…王女として育った彼女にはとても辛かったでしょう。しかしそんなある日、アナスターシャに転機が訪れました。アルプラートの国王シラ・ルエデリがアナスターシャを養女として迎えられたのです。ルエデリは大層アナスターシャを可愛がり、なに不自由ない暮らしをさせ、彼女に女王としての資格までをお授けになったのです。間もなくして国王がこの世を去ると約束通りにアナスターシャが女王として即位をし、こうして嘗ての身分を取り戻しました。まだ若いながらに賢くて頭のいい女王はすぐに国の支持を集め、アルプラートを拡大して国を纏め上げ、勢力も強めていったのです。僅かまだ15歳にも満たない少女でした」
ティオフェル「私よりも若くして国の統治者か」
ブブ「左様です。そしてそんな話は遠く離れた邪馬台国・ゴノスロー宮殿にも届きました。こちらではあの卑弥呼が女王の座についていました。卑弥呼はそれを知り、アナスターシャに対して危機感を募らせ、生かしておいたことに後悔しました。もはや過去にアナスターシャを慕い、彼女を愛した事ももう忘れて。このままではアナスターシャが腹いせに邪馬台国まで攻め入り、国を奪うと思ったのでしょう。卑弥呼はそれを防ぐべく兵を挙げ、アルプラートへと進撃を始めました。宣戦布告を受けたアナスターシャも兵を挙げ、瞬く間にアルプラートと邪馬台国は戦となったのです」
ブブ「でも、その時が初めのその時となったのです王子様」
ティオフェル「初めのその時?」
ブブ「アルプラート宮殿に巨大な流星が落ちたあの出来事です」
ティオフェル「とは?」
ブブ「全く…しっかりなさってください王子様。これもご存じないのですか?」
ティオフェル「し…仕方なかろう!私とて父上と母上なき傷を負い学業も手につかぬのだ。続けてくれ」
ブブ「ちょうど戦の真っ最中でした。邪馬台国の者はその流星の落下により殆どの者が滅ぼされてしまったが卑弥呼だけは生き延びたのです。勿論、アルプラート王国も滅びてしまい国はぐちゃぐちゃ、もうどうにもならない状態で人も住めない」
ティオフェル「アナスターシャは?」
ブブ「恐らく巻き込まれて死んだのではと言われておりますが、実際彼女のご遺体は何処からも見つからなかったそうです。そこで後々、人々の間で広まった伝説は卑弥呼が邪術をかけたのではと言うもの。邪術によってアナスターシャはこの世でなくなったのではなく、お体ごと何処かに消されてしまい、そこで息絶えたとか。それからと言うもの500年~1000年に一度の割合で戦が起こり、その年には必ず流星が落ちて国を破滅させると言うことが起こっていました。しかしそれも時と共にいつしかなくなり、人々から伝説や噂も忘れられていったのです。一説では誰かが呪いを封印する儀式を行ったのではないかとも伝えられていますが…」
ティオフェル「封印する儀式?それはどういうものだ?」
ブブ「いえ王子様、それは単なる噂でございますよ」
ティオフェル「しかし…」
ブブ「さぁもう夜も更けました。王子様ももうお休みください」
ティオフェル「わかったよ…おやすみ」
ブブ「お休みなさいませ」
○尖り石縄文公園・野原。
現代の長野県茅野市。 柳平麻衣、小口千里、岩波健司
健司「よしっ、みんな集まったな」
麻衣「えぇ!」
千里「うん。でも僕らなんで集まったんだっけ?」
健司「あーのーなー!お前、人の話ちゃんと聞いてたか?」
麻衣「今日は流星群を見に来たんだらに」
千里「あ、そうか」
健司「確りしろよな」
千里「ごめん」
星が流れる
千里「あ、流れ星!」
麻衣「又だわ!」
健司「本当だ。しかし今日は昼間は金環日食だったし、夜は満月だし、何か変な日だよな」
麻衣「こんな年は千年とか二千年に一度あるだとかないだとかのとっても貴重で珍しい日なんですってよ。だから今日は終わるまで絶対眠らずに見ているわ」
健司「俺だってそのつもりさ」
千里「僕、終わる前に眠っちゃうかも」
健司「ダメよん。今夜は」
色っぽく
健司「ね、か、さ、な、い、わ、よ」
千里「やめろよ」
麻衣、笑う
麻衣「二人ともおふざけはしてないで。これだけ流れとるんだで早く願い事しなくっちゃ!」
健司「じゃね、俺はワルシャワに行きたい」
麻衣「ワルシャワに?」
健司「そう。ワルシャワにある音楽の名門行ってバイオリンを学びたいんだ。呪いも打ち砕くようなすざまじきジプシーバイオリンを弾きたいのだ」
千里「バイオリンか。僕はピアノかな。早く上手になってショパンのポロネーズやリストのエチュードを弾きたい。」
ため息
千里「でもな…その前に僕、勉強が出来るようにならなくっちゃ。だって僕は今までに一度だってテストの点数でママに誉められた事がないんだ。いつでも十点や十五点で、最悪な時には0点さ。一度でいいから五十点以上は採ってママに誉められたい。そして今よりももっと強い人間になりたいんだ。僕だって男だもん、男らしくて逞しくて、人を助けられる人になりたい!」
麻衣「テストにピアノにバイオリンか。んじゃ私はねぇ?」
ジェスチャー
麻衣「うん!私もこんな風に!こんな風に!護身や武術を磨いて父さんのような警察官か、人を助ける強い人になりたいわ」
健司「武術だぁ?お前がか?」
健司、大笑い
麻衣「何よ!失礼しちゃうわ!そんなに笑うんなら」
気の棒を持って立つ
麻衣「妾と一度勝負をして見るか?妾の剣を受けてみるがよいわ!」
千里・健司「恐れ入った…姫」
麻衣「うむ。分かれば良いのじゃ」
笑う
麻衣「それかそうね、考古学とかも面白そうかも」
千里「考古学?」
麻衣「そうよ。ほら、古代史って謎が多いら?ほいだもんで私、色々調べてみたいのよ。気になるのはやっぱり茅野市7000年の地よね」
健司「確かに俺もそれ、興味あるわ。ここには嘗てアラセルバとか言う名前のでっけー王国があったって話だろ?なのにそんな大きな王国だったにも関わらず、アラセルバについては良く分かっていない。調べてみたいじゃん!」
千里「7000年か。今まで色々な人がここに住んできたんだよね。当時の人達も今の僕らみたいに星を見たのかな?」
麻衣「どんな願いをかけたのかしら?」
健司「当時なんて願ったとすりゃ国の平和か無病息災じゃね?そんなでかい王国なら戦も耐えなかっただろうし」
麻衣「そうね…あら、空を見て。あの光何かしら?」
健司「飛行機かUFOか?」
麻衣「まさか!」
千里「こっちに近づいてくるよ!」
光の玉が落ちる
三人「うわぁっ!」
***
麻衣「今のなんだっただ?」
健司「さぁ?でも俺たちの町になんの被害もなかったみたいだでとりあえずは良かったんじゃね?」
千里「そうだね。でも…今のでもう流星は終わり?」
健司「らしいな」
千里、伸びをして欠伸
千里「僕もう眠くなっちゃった」
健司「俺も」
麻衣「私も」
悪戯っぽく
麻衣「なら、ぼちぼちやりましょうか?あれ」
千里・健司「あれとな?」
○同・縦穴式住居内。
麻衣、健司、千里が入る。
健司「ここって尖り石の復元住居だろ?」
千里「こんなところで何するの?」
麻衣「んっ、見てて」
干し草の上に倒れ込む
麻衣「こうやって…わぁー気持ちいいわ。二人もやってごらんなさいよ」
健司「お、おいっ、何やってんだよ?怒られるぞ」
麻衣「大丈夫、大丈夫。夜なんてこんなとこ誰も来ないわよ。それに明日は尖り石祭りだら?ここなら始まり次第すぐに会場に参加できるじゃない」
健司「じゃあまさかお前…」
麻衣「そ。そのまさかだに。どう?」
健司「うっおー!めちゃサバイバル! 楽しそうじゃん!俺のった!」
麻衣「流石!話がお分かりになる」
千里「え、えぇー?」
麻衣「せんちゃんも勿論だら?」
千里「嫌だよ!帰ろうよ!」
健司「帰るだぁ?お前は本当に意気地のない男だな」
千里「だって…だって万が一日本狼とかナウマン像とかが出てきたらどうするの?第一縄文人の幽霊とかに襲われたらどうすんのさ?」
***
健司「縄文人の幽霊に?」
麻衣「日本狼?」
健司と麻衣「それにナウマン像…」
二人、大笑い
麻衣「せんちゃんバカはよしてに!あーお腹いたい!いくら縄文時代の遺跡だからって、今時日本狼にナウマン像って!」
笑いながら
麻衣「あんた今までここに住んでてナウマン象に遭遇したことある?日本狼なんて見た事ある?縄文人の幽霊なんて見た事ある?」
千里「それは…ないけど」
麻衣「な!大丈夫よ。もし変なのが襲ってきたならこの柳平麻衣が警察官の父の名に懸けてお守りいたす!ってこんでお休みなして」
寝る
健司「千里も早く寝ろよな。お休みなして」
千里「お休み」
***
夜中。虫が鳴いている
健司「んんっ、おしっこおしっこ」
外に出る
健司「んーっ、まだ夜か。綺麗な満月だな」
用を足し出す
健司「ん?」
健司M「何だあの灯り?山の上に今まであんな灯り見えたっけ?」
十吠えや人の声。
麻衣「もう煩いなぁ…何?」
寝惚ける
麻衣「健司、こんな夜中に何騒いでんのよ?」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「せんちゃん、なに?」
千里「あれ…」
麻衣「あれ?」
千里、指差す。二人の目の前に日本狼。そこへ健司。
健司「おい…何だこれ?」
麻衣「とりあえず私には…」
千里「狼に見えるけど…」
三人、顔を見合わせる
三人「まさかね!」
笑う。狼、三人に迫り寄る
健司「こいつ、何かヤバくね?」
麻衣「今にも吠えそう…」
千里「と言うか、僕らを襲おうとしているみたい…」
狼、十吠え
三人「うわぁ!」
○アラセルバ宮殿・学修堂。
ティオフェルとペドロ
ペドロ「よって聖君とは民の事を思い、民を第一に考え、民のために最善の…王子様!聞いていらっしゃるか!」
ティオフェル「ん?」
ペドロ「王子様はこの国の君主となられるお方ですぞ」
ティオフェル「だからって何でこんな夜中に勉強をしなくちゃならないんだ!もう眠いよ…」
ペドロ「王子様が昼間おサボりになられるから、こうやって補修をしなければならないのです。もうすぐ試験も近いのですよ。その様な事で合格できるとお思いですか?出来なければ叉初めから…」
ティオフェル「嫌だよ!私は試験なんて受けるつもりはない!」
ペドロ「王子様!そんな事でどうやってこの国を守っていけます!?」
ティオフェル「煩いなぁ…私だって国王になりたい訳じゃない。無責任な兄上が王位を放棄したから仕方なく私が後取りとして生きているだけ」
鼻を鳴らす
ティオフェル「王様になるための勉強なんて嫌だよ。だってなるつもりもないんだもん。だから私はもう寝る。続きはまだ今度やるよ」
走って退室。
ペドロ「(やれやれ)ティオフェル王子様にも本当に困ったものだ」
○アラセルバ王国・市街地
橋の上。女装をしたティオフェル、リラを弾いている。
ティオフェルM「日がな一日こうやって、昼間は揺ったりと何も考えずに好きなリラを弾いて過ごす。これこそ私の一番安らげる時だ。この何て静かで穏やかな日…なぁピぺ。お前はいいよな、羽があるからいつでも好きな時に自由に飛び回れるんだもの」
***
山の手。麻衣、健司、千里、狼に追いかけられている。
麻衣「これっていつまで逃げていればいいのよ?」
健司「知らねぇよそんなの、死んだふりでもしろ」
麻衣「そりゃ熊の時でしょうに!」
千里「ママぁ!」
鈍い鳴き声
麻衣「何、今の?」
千里「麻衣ちゃん、健司君…」
健司「狼だ…」
千里「死んでるね…」
麻衣「とにかくありがとうございます。助けてくれた
のね」
千里「本当にありがとう」
健司「おじさんたち尖り石祭りのスタッフ?」
千里「何か言葉通じてないみたいだよ」
麻衣「見た感じ日本の方ではなさそうね」
健司「ってより何かこの状況…俺たちヤバくねぇか?」
千里「確かに…」
麻衣「どうする?」
ホースとポテト、剣を振るう。
三人「わぁぁぁぁぁぁ!」
麻衣「追ってくるわ!」
健司「全速力で走れ!」
麻衣「無理よ!大人から子供が逃げ切るなんて出来っこないわ!諦めましょうよ!」
健司「ばか野郎、諦めたら殺されるかも知れねぇーんだぞ!お前ら死にてぇのかよ?」
千里「僕もうやだ、ママぁ!」
***
橋の上。リラを弾くティオフェル。
ティオフェル「全く、今日は何なのだ?騒々しくて休むことも出来ない」
ティオフェル「あれ?おいピぺ!何処に行くんだ?待て、待てったら!」
追いかけて走る
ティオフェル「ピぺー!ピぺー!あ、ゲッ…」
ポテト「おぉこんなところでそなたに会えるとは!なんと言う光栄!」
ティオフェルM「オエッ」
ポテト、ティオフェルにベタベタ。
ポテト「私はそなたの敵ではない。そう私を避けるな」
ティオフェルM「お前が今ベタベタしてるのはバッチリお前の敵で、お前の憎むアラセルバの王子でしてよ」
ポテト「さぁ、今日こそご身分とお名前を私に教えなさい。見たところどうやら、あなたは普通の町娘ではないようだ」
ティオフェルM「私の事を本当におなごだと思ってらぁ。こりゃ面白いや、ならもう少しこいつの前では娘を演じよう。えーと、名は何と名乗ろう?」
ティオフェルM「そうだ!」
ティオフェル「あぁ…あなた様は邪馬台国のポテト様ね。では約束通り、私の身分をお話致します。私はこの国の王宮に使える下働きの女でロミルダと申しますの」
ポテト「ロミルダ、なんと美しゅうお名前。そなたが宮殿の女とは驚いた!しかしアラセルバは無王で乱れている。この国の王子だってまともじゃないとの噂だ」
ティオフェルM「誰がまともじゃないだって?」
ポテト「そんなアラセルバに住むなどそなたには危険過ぎる」
ティオフェル「何故?アラセルバはとても平和でいい国よ。時々邪馬台国のバカがうろついているみたいだけど…」
ポテト「今は確かに平和でいい国の様に見えるでしょう。しかし、そなただけに教えておきます。他のものにはまだ決して漏らしてはいけません」
ティオフェル「なんですの?」
ポテト「我が邪馬台国の女王・復活なされた卑弥呼様がアラセルバの王子の首をとり、無王のアラセルバを統一しようとなさっている」
ティオフェル「何とまぁ!」
泣く演技
ティオフェル「つまりそれは宣戦布告をしてくると言うことですか?ではアラセルバはどうなるのです?」
ポテト「故にロミルダ嬢」
ティオフェル「いいえポテト様、私はアラセルバが大好きなのです!何があろうと絶対にこの国を離れるわけにはいきません!私の大切な者共を裏切るような事は決して出来ません!」
ティオフェル「どうしても戦は避けられぬ事なのですか?和睦する事は出来ぬのですか?」
ポテト「女王卑弥呼様がご復活なされた今、それは難しいのです」
ティオフェル「何故です?私は戦など嫌いです!どうぞアラセルバを、この私のふるさとを滅ぼさないで下さいまし!」
ポテト「ロミルダ殿…私も下の人間ゆえ上の者にお従いしているだけです。故に私の力ではどうすることも…」
ティオフェル「どうかどうか、戦だけはお止めくださいまし!和睦をお考えください!」
ポテト「卑弥呼様にもお話ししてみましょう…」
***
ティオフェルM「邪馬台国と戦争!?こりゃ偉い事になったぞ!」
立ち止まる
ティオフェル「あ、ピぺの事を忘れていた!」
***
麻衣、健司、千里、息を切らして歩く
麻衣「誰も追って来ないわ」
健司「まだ油断はするな」
麻衣「分かっているわ」
千里、もじもじ。
千里「もう嫌だよ!帰りたいよ…」
健司「千里どうした?」
千里「トイレに行きたくなっちゃったんだよ!」
健司「こんな状況の中でそんな事言うんじゃねぇよ!我慢しろ!」
千里「うぅ…」
健司「ところで千里、お前…どいでそんなもん持ってるんだ?本物だろ?」
千里「あ、これ?勿論本物さ。僕の可愛いおかめのルルちゃん、いつでも何処でも一緒なんだ!だから今日も連れてきた」
健司「逃がすなよ」
千里「誰が逃がすものか!あれ?」
千里「セキセイインコが飛んでくるよ。誰のだろう?」
ティオフェルの声「ピぺー!ピぺー!」
千里「誰か来る」
ティオフェルがかけてくる
ティオフェル「ピぺー!」
ティオフェル「ピぺ、良かった。こんなところにいたのか」
千里「これは君のインコ?」
ティオフェル「あぁそうだ。しかし気安いぞ、私を誰と心得る?私はこの国の王子だぞ」
ティオフェル「さぁピぺ、帰ろう」
***
麻衣「王子様って言った?」
千里「うん。でもあの子、女の子だったよね」
健司「王女の間違いってか?」
笑う。
健司「あ…」
麻衣「さっきの野郎共よ」
千里「こっちに向かってくる…どうしよう」
三人、土器の中に引きずり込まれる。直後、邪馬台国の兵士が通りすぎる。
***
エステリア、警戒しながら三人に合図
エステリア「もう出てきていただいて大丈夫です」
健司「痛ってぇ!姉さんいきなり何すんだよ?痛ぇじゃねぇか!」
エステリア「申し訳ございません。今、この辺りには邪馬台国の兵士がうろうろしています。やつらは大変残酷で卑劣な人種です。あなたたちも見つかってしまったら八つ裂きにされてしまうかも知れません!」
麻衣「では私たちを助けてくれたの?」
エステリア「王子様がいつも、例え敵国の者や他国の者であろうと、罪のない者や弱き者はお救いするもの、それが人だとおっしゃっていますので」
千里「ありがとう」
エステリア「礼には及びません。とにかく私に着いてきてください。あなた方を安全な場所へお連れいたします」