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初めての商談が怖かった話

父が急逝してから、家業を継いだ。
小さ過ぎて、あるのか ないのか 分からないほどの小さな会社だけど、継いだので私は今、社長だ。

次ぐための色んな手続きは大変だった。

でも、幸いな事に、父の仕事を手伝っていた事もあり、なんとか真似事ながら仕事をしている。

「これは私の仕事では無い。」
ずっとそう思ってきた。
私は美容師でヘアメイクでやるなら美容室。
若しくは雑貨屋さん。(古着物含む)

そう、決めていた。

父もあの世で驚いていることだろう。

何故継いだかと言うと、たくさんのお客様が継いで欲しいと求めてくれた事。
目先の生活費が必要だったこと。

毎月、品物を生産し、配達に行く。
それによって母を養える。

父が亡くなる前、入院が増えた父の代わりとして、
私にやり方は教えてくれていたから作業には困ってはいなかった。
たけど、今年から仕入れが値上がりし、、、
いや、値上がりというか、爆上がりだった。

そのため、商品も値上げしなければならなくて、その計算をするのにとても時間が必要だった。
(数字も計算も苦手)
また、内容表示の法がかわり、ラベルも作り直した。
価格を決め、卸先に打診しなければならない。
これが1番、メンタルにきた。

卸先のバイヤー担当と商談をする。
商談なんてこれまでの人生したことも無く、何を持って行くのか、どんな服装が好ましいのか、そもそも何を話すのか?

急ぎ近所のしまむらでリクルートスーツを買い、
金髪とブルーのグラデーションの髪を黒く染めた。

いざ!バイヤーミーティング!

少し待たされ、バイヤーさんが到着。
立ち上がって挨拶をする。

担当者はものすごく不機嫌で苛立った人だった。
もう、パワハラでモラハラだと思う。
こんな人がいていいんだろうか?

値上げとその価格を伝えると、なんかごちゃごちゃ言ってきた。
マスクもしていて、クリアボードもあり、全く聞き取れない。

相手に伝えようとする気なんてそもそもないんだろうな。

はい?
何度も聞き返したことで不機嫌に油を注いだらしい。

断片的に聞き取れた業界用語のようなものを なんやかんや言われて、それが分からないから「すみません、それってなんの事ですか?」と聞き返し、さらにゴニョニョ。高圧的でため息をつかれる。
それが繰り返し30分。

ぬぬぬぬ…
堪えた。
結構、堪えてた。

ブッチん…

「なめんなよ。」
私の中にいたヤンキー要素が出番を待っている。
もう、いつでもやってやる!と立ち上がろうとしている。

「待て待て」と宥める優等生な要素。
必死に立ち上がるヤンキーを座らせる。

わたしは膝の上で拳に爪が刺さる。


あろう事かヤンキーが優等生と連れ立って降臨した。

「すみません、私はこのような事が初めてなので何も分からず申し訳ないですが、さっきからその…バカにした態度とため息は失礼ではないですか?」

と、睨みながら言ってしまう。

身体中が急激な怒りで震えた。

礼儀正しいヤンキーでよかったものの、
泣きたい。帰りたい。
そして何より時間を戻したい。
契約終わったと思った。

ところが、不思議なことに、体を斜めにして机に肘をつき足を組んでたバイヤーさんが座り直し、急に敬語で説明しだす。

え?
こんなに分かりやすく態度変える人いるんやね。

はじめからそうしとけよ。(ボソッ)
マスクの中だけでつぶやく。

これは…
吉とでたのか。
(理不尽に立ち向かって勝てたよ、お父さん。グスンッ)

多分。舐められていたのだと思う。
オドオドしていた私も悪い。

無事値上げ交渉できて、一件落着。

卸先を出ると足がガクガク震えだし、目が潤う。

怖かったぁ。

ほんとにこんなの本当嫌だ。
世の中の営業職の人たちを心から労った。

クルマに乗ると一気に脱力し、妹に怖かった旨をメールで伝えると「ご苦労さま」と返事が来た。
手のひらがヒリヒリして、見ると汗ばんだ手のひらに
くっきりと爪の跡が残っていた。

あれから半年を過ぎ、なんとかキリモリしている。

少し、心に余裕も出始めてきた。

父が亡くなる前、私は雑貨屋を始めようと動いていた。
自分の好きな中東や南米、アジアの雑貨を仕入れに行く旅程を考えたり、
いざ、店舗を見に行こうとか、仕入先を検討していた矢先、父が倒れたので、白紙に戻った。

それが、もしかしたら家業と並行してやれるかも!

そんな気がしている。

好きなこともやっていいよね、とワクワクしている。






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