一流を知れない

「一流を知らないと本物にはなれない」
我が家でも小さい頃にそんなことを言われたような記憶がある。
しかし、幼き我が家の製品群は、一流とは言いがたい品であふれていた。

例えば食品用ラップフィルムは宇部フィルムの「ポリラップ」。サランラップもクレラップでもない。ポリラップは弱小第三勢力であり、サランラップとクレラップの2製品で業界の8割というシェアがある。本物どころか、マイノリティじゃないか。。。

そりゃ、ラップフィルムなんて地元スーパーで安売りしてたら買ってしまうだろうが、CMで流れている製品が家にないのは地味にショックである。

80年代に一世風靡した家電と言えばウォークマン。その頃のSONY(株)は世界的にもブランド力が強く、庶民の憧れだった。地元のお金持ちの子はウォークマンにロードマン(こちらも当時流行した自転車)を自慢げに近所の神社に乗ってきて羨望の眼差しを受けていたものだ。

そんな羨ましい話をキラキラした目で親に話したところ、仕方なく買ってくれたのはアイワ (株) 製のシングルカセットレコーダー。もはやウォークマンですらない。。。

「お姉ちゃんと仲良く使うのよ」

しかし、カセットテープが1個しか入らない。これじゃダビングも出来ない。昭和あるあるで有名な、テレビの前で「シーッ!」とかやりながら日常音とともにテレビの音楽を録音するという行為は我が家でも行われていた。こんな機械をもともと鬼畜な姉と仲良くなんて使えるわけがない。普通の昭和の家庭であればテレビはひとつ。チャンネル権争いも過熱しており、大半は弟の僕が辛酸を舐め、気が付くとその憎きアイワのラジカセは姉の私物と化していた。
※余談だが、アイワ (株) は2002年に憧れのSONY (株) に吸収合併されたので、もはやSONYもアイワも一緒ってこった。

しばらくすると世の中はコンパクトディスクというものが登場する。珍しく我が家でもビッグウェーブに乗りCDプレーヤーを購入することになった。

そして届いたプレーヤーはあの忌まわしきアイワ (株)!!

またか、愕然とはしたが何にせよ聴ければメーカーは何でもいい・・・っが、当時若者には(株)KENWOODが先進性のあるデザインで流行していた。無理を承知で打診してみたところ

「そんなの高いだけだから」

と、家族で一番ナウでヤングの意見を一蹴。

喜び勇んでCDプレーヤーを導入した両親だったが、僕自身にはディスク自体を買う財力も無いため僕の聴きたい曲などを手に入れる術もない。仕方なく親が翌日買ってくると言っていたCDに期待するしかなかった。

80年代中頃だった当時は、マイケルジャクソンやスピーディーワンダー、ライオネルリッチなど、We are the Worldに出てくるような人たちが全盛期だった。

その日、親がいそいそと買ってきた待ちに待ったCDとは…

イージーリスニング界の第一人者、ポールモーリア全集じゃないですか・・・。

もはや本物志向という言葉とは真逆じゃないすか、徳永英明さんじゃないすか、メイジェイさんじゃないすか…。

僕はこのポールモーリア事件をきっかけに、家族に対して本物だの一流だのを期待をすることは全く無くなり、完全に心を閉じてしまったのだった。欲しいものは自分で選ぶ。それが一番だという結論に小学生の時分で悟ったのだった。

一流を知る、なんてことはそれなりの財力がなければできないことで、

下民の貧困層が一流気取りをしてもポールモーリアが関の山ってこと。

これから親になっていく人は中途半端に一流を口にするのは危険だよ、というお話でした。まあ平成の親たちはもうちょっと財力あるんだろうけどね。

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