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【掌編小説】はるのうた。

うららかな春の陽気に満ちた景色から、どこからともなく聞こえてくるうたに私はくすっと笑った。

そのうたは、
たどたどしくて
いっしょうけんめいで。

とても可愛らしいうただった。

ほー、ほほけきょ!
けきょけきょけきょけきょ
ほーほほけきょけ!
ほーほけ
けきょけきょ
ほけきょけきょ

それは若いうぐいすのうた。
近くの木の上で練習をしているのか、ひっきりなしにうたっていた。

私は、どこにいるのだろうと窓から外を見渡したけれど姿は見えない。

ほーほほけきょ!
けきょけきょ

すると、どこかに飛んで行ったのか聞こえなくなってしまった。
私は寂しく思いながらも、窓辺から離れてパソコンに向かう。

何を書こうかな。

白いカーテンが揺れ、春風の訪問を知らせてくれる。
カーテンの柔らかい光と影が、波のようにたゆたいながらフローリングの上で踊っていた。

しばらく眺めていると、ふわり、とカーテンが大きく手を振って部屋の中を春色に染めていった風を見送った。

先程のうぐいすのことを書いてみようか。

私は、ゆっくりと指を動かす。
繰り返し、繰り返し、うたの練習をしていたあのうぐいすのうたごえを思い出しながら文章を書いていると。

ほーほほけきょ。

若いうぐいすが帰ってきたようだ。
私は手を止めて静かに瞳を閉じ、じっと耳をすませた。

はるのうた。

けきょけきょ。
ほーほほけきょ。
きょけきょ。

がんばれ。

ほーほほけきょ。
けきょけきょけきょけきょ。

ほーーほけきょ。

やった。
私は思わず微笑んだ。

まだまだ、うぐいすは練習を続けている。
大人のうたに一歩近づいたけれど、このはるのうたは今だけ。

すぐに誰もがうっとりする春のうたを響かせていくのだから。



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