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ゲームを活用したヘルシンキ行政の共創文化の醸成

ヘルシンキ市のビジョン/戦略と市民参加

早く行きたければ一人で行け。遠くまで行きたければみんなで行け

これはアフリカのことわざです、今、混沌とした時代において、わたし達はどのように進みたいのか、どこへ向かいたいのか。問いかけられているように感じます。

フィンランドの首都ヘルシンキではこのことわざの通りに、みんなで遠くへ行くという実践を見ることができます。行政と、市民が手を取り合っていく。人々は行政になんでも「お任せ」ではなくて、自分たちでどうありたいかを考えていく。そうしたことを大事にしている都市です。

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ヘルシンキ市の2021年のビジョンには"The most functional city=最も機能的な街へ"と掲げられています。ここでいう機能的とは、"毎日の生活が市民のためにより心地よくなるように具体的な行動と選択肢が存在している"ことだと定義しています。その背後にあるのは、平等生・非差別・社会的連帯・包摂などの価値観です。その中で、一文として"街とは誰しものためであり、共に作られる"ものと考えています。

このビジョンに向かうために、市の戦略の中核として市民参加を位置付けて、市民をシティ・メイカーとして位置付けています。市民とともにまちづくりをする、というのは簡単で多くの自治体・行政が口上として述べていることですが、重要なのはその参加や市民との共創を実現するための基盤と仕組みをいかに整えるかです。

今回は、ヘルシンキ市がサービスデザイン会社のHellonと協働し、行政組織の職員むけにデザインした「共創風土の醸成」と「よりよい市民参加のプランニングを行う」ためのゲームを事例として紹介します。
初回の記事でお伝えした4分類のうち、行政組織のためのデザインに位置づけられます。

課題の設定:なにに取り組む?

ヘルシンキ市からプロジェクトを委託されたHellonのデザイナーはまず、市民参加の活性という大きなテーマに対して、どこから初めて行けばよいのか、行政担当者へのインタビューやワークショップを通じて理解を深め、課題を設定しました。

その結果、行政上の取組を市民と共に成し遂げていくためのマインドセットや市民参加を計画し設計するという考え方が、行政組織で働く公務員に根付いていないことが分かりました。

というのも、行政組織において部署ごとに分断され業務を行うため、各取組にたいしても協働はなく、プロジェクトの計画も、個々人でWordで行い完結するというのが現状です。これは日本の縦割りの大企業や行政でもよく見られることではないでしょうか。また、市民と共に何かを行う際、なぜその参加が必要で、そこから何を得たいのか、という目的の熟慮なしには実現しません。その意味づけなしでは、とりあえず参加してもらえばそれでいいのだ、と参加が目的そのものにすり替えられてしまいます。

まとめると、一方では風土の問題、他方では具体的なプランニングの問題がありました。

ゲームという協働のためのアプローチ

こうした課題設定のもと、アプローチとしてゲームを採用したのです。
ただゲームというものの、一般的な勝ち負けを競うたぐいのものではありません。ボードゲームを模した、共通のゴールを達成するために<ルール>や<手順>、ボード・カードなどの<小道具>を活用した協働的なワークのためのツールという意味合いです。

しかし、これをゲームとして意味付けることが重要なのです。普段のルーティンワークやデスクワークのマインドとは異なる、遊び心に満ちた空間がそこに立ち現れ、それにより異なる発想や態度が生まれます。いつもと異なる状況に放り込まれ、職員はゲームを通して協働して働くという体験を得て、参加のプランニングを行うというゴールの達成を目指します。

もう1つここでゲームの性質として、「ルール」があるというのが重要です。いつもとは異なる慣れない協働を円滑にワークさせるたえです。つまり、ルールのもとでは上司ー部下・部署など関係なく誰もがルールに従うという点で平等なために、ヒエラルキーを無効化することで、自然と協働を生み出しやすくするのです。

ゲームの遊びかた

では実際に作られたゲームはどんなもので、どう使われたのでしょうか。

出来上がった"ヘルシンキ参加ゲーム"は、市の業務に携わる誰もが遊べるボードゲームで、市の職員が公共のサービスや業務において市民の参加を促進するために、より適切に巻き込むプランニングを実現します。

そのために、ゲームは、市民参加の観点で現状なにがうまくいっていて、なにが足りていないのか、もっとうまくできるのかを理解することを手助けします。ゲームの開発自体も、デザイナー以外に100人以上の職員が各部署を代表して参加し、共につくられたそうです。

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画像: City of Helsinki サイトより

ここでは、細かな説明は省きますが、プレイの仕方としては、上記のA0など大きなサイズでボードを印刷し、ステップ番号の順に提示される問いに対して、グループで議論をしながら付箋や補助カードを使って答えていくことで、構造化された流れに沿えばプランニングが完了するというものです。

全7ステップあり、大まかに下記の流れ・問いで構成されています(一部、筆者により翻訳を変更)

1. スコープ:対象となる組織・サービスは?巻き込みたい市民/行政内部署/企業は?
2. 目的:どのように市民の知やスキルが役に立つ?他にそれぞれのステークホルダーに対して、どのような効果が参加により見込める?
3. 内省:今までどう市民や他のステークホルダーが関わってきた?
4. 現状:今現在、参加の促進のために何を行っている? (参加・市民の体験・地域ごとの協働などカテゴリで分類されている)
5. 課題:どのカテゴリにさらなる向上が必要?
6. 方法:どのような方法がそのために必要?誰が実行責任をもつ?スケジュールは?どうリソースを確保する?どう結果をはかる?
7. 文書化:議論の結果をドキュメントに残し、実践後に結果を振り返りましょう

キーマンを置く、変革の使徒をうみだす

一方、重要なのは、ゲームをつくって終わりではなくいかにこれを広めてプレイしてもらい、職員の意識改革からの風土形成や、参加のプラニングの改善につながるかです。

そのために、まず30人の職員がファシリテーターとしてトレーニングを受け、ゲームの状況に応じて他の職員をサポートできるようにします。これにより、毎回異なる職員を招いてゲームのプレイを何回も実施することが容易になり、30人のファシリテーターは今後も組織に協働的な風土をもたらすキーマンにもなります。

最終的には、職員4000人のうち、2000人以上の参加者、250回以上のゲームが実施されたと述べられています。

おわりに

市民の参加と包摂を実現するために、まず行政内の風土改革をおこなうというのはとても理にかなっているように思えます。

また、今回の事例のようにコラボレーションを促すためのゲームやツールキットの開発というのは、おおくのステークホルダーが関係するプロジェクトにおいては特に有効です。何よりどのようなツールを使うかは、わたしたちの思考の仕方にも影響を与えるのです。このゲームはPDFで無料公開されているので、下記からDLできます(インストラクション付き・ただし全部英語です)。

もちろんこれは、ヘルシンキ行政の文脈にそったものなので、直接応用はできないかもしれないですが、なにかの参考になれば幸いです。

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