見出し画像

【感想】NHK土曜ドラマ『17才の帝国』第1話

吉田玲子が連ドラでオリジナル脚本を書く。
こう聞いて「おぉっ!?」となるのはドラマファンよりもアニメファンかもしれない。

数々の人気アニメの脚本やシリーズ構成を手がけてきた超の付くほど多作の脚本家。

話題作・ヒット作のみを独断と偏見で抜き出そうとしても相当な数になる。
しかも興行的・ビジネス的にヒットするだけでなく中身に対する評価も総じて高い。
直近も『岬のマヨイガ』がアヌシー国際アニメーション映画祭2022の長編部門コンペティションにノミネート中。

ところが、である。
これだけ多作=分析の材料が豊富にも関わらず、吉田玲子の作風・作家性を見出すのは意外に難しい。
それは原作あり作品が非常に多いため。
原作からテーマを抽出する手腕に疑いの余地は無い一方で「吉田玲子自身が世に訴えたいメッセージは何なのか?」が掴みづらいのだ。

自分は過去作を全部見ているわけではない。
さらに『17才の帝国』を見てから「そういえば吉田玲子作品ってこういう傾向あったけど今作は違うのかも」と天下り的に導き出した部分もあるのだが、

  1. 当人にとっての目の前の問題に一生懸命向き合う

  2. 世界・社会の描写の少なさ

が特徴ではないかと思う。

主人公は何かしら問題を抱えており、それに向き合うことで成長・変化する。
これ自体はスタンダードな作劇。
ただ、その結果別に世界や社会に何か影響を及ぼすわけではない。
そもそも主人公の抱える問題が社会に起因するものではない作品がほとんど。

  • 恋人や友人との関係性

  • 引き継いだ店や旅館を盛り上げる

  • 自身の夢と現実のギャップ

新海誠監督に代表されるセカイ系とも異なり、世界と直結することもない。

そういった意味で今作『17才の帝国』は吉田玲子作品としてはなかなか異色になりそう。

―202X年―。すぐ近くの未来が、このドラマの舞台です。そこではAIがもう少し生活に利用されていて、SF感はありつつリアリティーもある……。
(中略)
そしてもう1つ、企画段階のリサーチで海外からの期待が集まったのは、やはり「ジャパンアニメ」的な世界でした。そこで、今回参加をお願いした佐野亜裕美プロデューサーの発案で、数々の名作アニメの脚本家・吉田玲子さんを訪ねました。その時、吉田さんから出てきたモチーフが『17才の帝国』です。― 17才の総理大臣が、若者たちの国を作り、高齢化と闘う!―即決でのろうと思いました。
https://www.nhk.jp/p/ts/VNXRGXV8Q3/blog/bl/pJePOEwvmB/bp/pq8NjWpLGQ/

政治をテーマにしたゴリゴリの社会批評SFである。
しかも吉田玲子の発案というのが興味深い。

まだ第1話しか放送されていないので最終評価を下すには時期尚早だが、少なくとも第1話で提示されたテーマにはビンビン来るものがあった。
既に投資信託など経済分野ではAIが判断・実行して動いているものもあるわけで、これが政治にも拡大したらどうなるのか?
しかもAIと実務に当たるのは17歳の高校生。
パッと見だとディストピアSFになりそうだが…?
Netflixドラマ『ブラック・ミラー』(特にシーズン3・4)や小川哲の小説『ユートロニカのこちら側』を思い出す。

強いて気になった点を挙げるなら、劇中の人々が不満や恐れを抱いているのが

  • AIに政治を任せること

  • 17歳の少年に政治を任せること

のどちらなのか?というのは少し思った。
AIが超優秀なら17歳でもいいんじゃね?と。
だってAIに従うだけでしょ(ってその時点で超絶ディストピアだからドラマにならないかw)
第1話を見る限り、AIはあくまでシミュレーションなど補助をしてくれるもので政策の立案は人間がやるという世界観なようだ。
とはいえAI自ら「具体的な政策の提案も可能です」と言っていたので、もしかしたら今後の展開に関わってくるのかもしれない。
第2話以降も楽しみ。

本作ではAIは3機のスーパーコンピュータから構成されているという設定。
もろに『新世紀エヴァンゲリオン』のMAGI(マギ)である。
ただ、作り手も馬鹿じゃないのでおそらくこの事は分かっている。
なにせAIの声は碇シンジ役でお馴染み緒方恵美なのだから。

むしろ個人的にエヴァとのシンクロを感じたのは本作の撮影と編集。
ちょくちょく無機物のカットが挿入される編集が庵野秀明カラーというかw
あと会見シーンの後に平清志(星野源)と山口早希(松本まりか)が密会しているシーンでの東京タワーの撮り方!
完全にシン・エヴァ冒頭のエッフェル塔w
まぁ庵野の元を辿れば実相寺昭雄や岡本喜八に行き着くんだけど。
(もちろん今作における無機物はAIの無機質さを表現するモチーフとしてのサブリミナル的効果があるため、庵野のそれと本質的には異なる)

そう、第1話はとにかく編集が素晴らしかった。
田舎の風景や都市の夜景といった一見脈絡の無い映像を、時に画面を3分割するスプリットスクリーンを交えながらテンポよく繋ぐオープニングタイトル。
その直後、平が靴を磨いてるシーンではジャンプカット!
(まぁ冷静に考えるとここでわざわざジャンプカット使う意味あるのか疑問が無いわけではないがw何にせよツカミはOK)
この時点で始まってまだ3分半。
私の心は完全に掴まれていましたw

さらに画面設計も要所でシンメトリー構図。
閣僚会議のシーンなんてお土産が対面の人に渡せないぐらいデカい机を用意しての画面全体を広く使った左右対称。
(あのお土産は机の上を這って回収したんだろうかw)
これもAI、ひいては17才の総理・真木亜蘭(神尾楓珠)の合理主義的なキャラクターを表現することに繋がっている。

美術といえば、住民に用意された家(団地)が先日テレ東で放送された『空気階段の料理天国』よろしく白で統一されているのに対して、官邸は大正時代の建物をリノベーションしているから汚れているという対比も面白かった。

『空気階段の料理天国』もそうだが、なぜ本来綺麗であるはずの白が使い方次第であんなにも我々の心をざわつかせるのだろうかw

最後に、本作は制作体制も面白くてNHKのドラマなのにプロデューサーは『大豆田とわ子と三人の元夫』などを手がけてきた関西テレビ局員の佐野亜裕美。

何でもTBSを退社して関西テレビに中途入社する前のフリーだった時期に声がかかったそう。

関西テレビに入社したタイミングでNHKの人に引き継いでプロジェクト離脱となりそうなところを、その仕事を最後までやり遂げる環境を用意したカンテレも寛大で素晴らしい。
異動した海外事業部が肌に合わずTBSを退社したという佐野PがNHKの予算で海外でも放送されるドラマを作ったというもう一つのドラマ。
(無責任な視聴者的にはこの調子で『佐野Pの帝国』を築いてもらって全然構わないわけですが)

他にも山田杏奈と河合優実という今後の日本映画界を間違いなく背負っていくであろう女優2人の競演や坂東祐大による音楽・劇伴についても語りたいけど今回はこの辺で…

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?