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【感想】テレ東ドラマ『SHUT UP』

2023年12月、多くの地上波連ドラが最終話に向けてラストスパートを始めた時期。
この妙なタイミングで1本の連ドラが始まった。

監督は劇場映画『猿楽町で会いましょう』で鮮烈なデビューを飾った児山隆。

監督の名前に惹かれて第1話を観た。
サブタイトルは「女子大生が100万円強盗を企てる」
あらすじはこんな感じ。

学費も生活費も自分で稼ぐ苦学生・田島由希(仁村紗和)は、同じ境遇である恵(莉子)・しおり(片山友希)・紗奈(渡邉美穂)と共に寮で身を寄せ合いながら「貧しさを諦めたくない」と日々思いながら過ごしていた。そんなある日、恵の妊娠が発覚。相手は同じサークルに所属する、エリート大学生・鈴木悠馬(一ノ瀬颯)だった。
しかし、彼は彼女たちを馬鹿にするだけで向き合ってさえくれなかった。非力だと見下された悔しさと虚しさ…。どうにもならない現実に、彼女たちは自分たちなりのやり方で立ち向かうことを決意する。たとえそれが間違ったやり方だとしても―。

https://www.tv-tokyo.co.jp/shutup/lineup/202312/27701_202312042306.html

貧困やホモソーシャルといった骨太なテーマを描いた部分はとても見応えがあったが、個人的には「とはいえ100万円を奪うってのはシンプルに犯罪行為だよな…」と昨年末のドラマ折り返し地点では少し心が離れていた。

ちなみに自分は『天気の子』や『キリエのうた』を観た際も「警察がすげぇ悪として描かれてるけど、でもやっぱり犯罪はあまりよろしくないんじゃないかなぁ…」という感想を抱いたので、そういう傾向があるのだと思う。

まぁこれは個人的な思考傾向ということで。

そんなわけで語られるテーマは非常に興味深く拝見していたものの、主人公たちの行動が犯罪に向かっていくことに少々モヤモヤしていた昨年末。
ところが、そこから物語はまた別の方向へと展開し、2023年12月から2024年1月にかけての放送という珍しい編成が思わぬ形で効いてくることになる。

事の発端は週刊文春が報じた松本人志の性加害疑惑報道。
この報道それ自体については映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』およびその原作や、ラジオ『爆笑問題カーボーイ』で太田光も語っていたウディ・アレンの件を思うと文春にも松ちゃんや吉本にも色々言いたいことはあるのだけど一旦置いておく。

この報道で論点になっているポイントの一つが「性的同意」

第6話はほぼ全ての時間を使って性的同意について描き、第7話も丸々1話を割いて性加害の立証過程とその困難さを描いていた。
これを「面白い」と無邪気に言うのは憚られるが、とても丁寧かつ精密に時代をキャプチャーした作品。
そして放送時期にこれ以上ない形で現実世界とリンクしてしまった。

性加害に遭った女性が立ち上がる物語という点ではエメラルド・フェネルの傑作『プロミシング・ヤング・ウーマン』と通じるものが。

エメラルド・フェネルといえば昨年末にAmazonプライムで配信された『Saltburn』も良かった。

また本作は性加害だけでなく貧困やホモソーシャル、トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)といった題材も描いている。
虐げられてきた女性の物語と解釈すればこれまた年をまたいでAmazonプライムで配信されたドラマ『ファーゴ』シーズン5とも共鳴。

今シーズンはシリーズでも上位に入る出来だったのではなかろうか?

俳優陣の輝きも素晴らしい。
(恐らくは児山監督の演出による部分もあるのだろう)
特に失礼ながら莉子と渡邉美穂は「演技経験があまり多くないように見受けられるけど、この重い題材のドラマで大丈夫か…?」と正直心配だったのだが完全に杞憂だった。

莉子といえば木村聡志監督の『違う惑星の変な恋人』も良かったなー

こちらは恋愛群像会話劇で完全にコメディ。
往年の今泉力哉作品のような味わい。
(今泉力哉監督ご自身は2023年の『ちひろさん』と『アンダーカレント』を観るに少し別のステージに進もうとしている感がある)

キャストに話を戻すと、第6話で非常に重要なキーパーソンを演じた野呂佳代も素晴らしかった。
バラエティ番組で元AKBの売れてない人扱いをされていた頃が今や遠い昔。

あと「素晴らしい」とか「リアルな演技」とかって賛辞が果たして相応しいのか複雑だが、性暴力被害者の女性を演じた方々も。
もしあのシーンの演技が微妙だったらテーマと直結する場面だけにかなり残念な出来になってしまうので。

現実世界と同じく、性加害を立証できる直接的・具体的な証拠は見つけられなかった第7話。
第8話(最終話)ではそれでも加害者であるホモソーシャルと対峙をする形になるようである。
どのような結末になるのか見届けたい。

さて、被害者と加害者を明確に線引きして描いてきた『SHUT UP』が完結しようとしているタイミングで、被害者と加害者の境界線それ自体を問い直すような『エクスパッツ ~異国でのリアルな日常~』というドラマがAmazonプライムで始まった。

監督兼脚本はA24配給の映画『フェアウェル』で世界中から絶賛されたルル・ワン。
(配給権もサンダンス映画祭で上映されて激しい争奪戦になったそう)

被害者/加害者というのは坂元裕二が『それでも、生きてゆく』や『怪物』で書いてきたテーマでもある。

ピークTV時代は残念ながら2023年で終わったと言われているけれど、それでも2024年も良質なテレビドラマ・テレビシリーズを楽しみに過ごしたい。

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