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【感想】NHKドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第1話

新垣結衣や松岡茉優の初主演映画を撮ってきた大九明子監督が河合優実の連ドラ初主演作を撮る。
この座組みを聞いた時点で快哉を叫んだ人も多かったはず。
自分もとても楽しみにしていた。

誤解を恐れずに言えば、大九監督はショット(カメラアングルや構図)にはあまり特徴の無い作家だと思う。
被写体(特に女優)を割と真正面や真後ろから撮り、魅力をそのまま最大限に伝えようとする作風というか。
庵野秀明が「画面を完全にコントロールする上で役者の身体性を排除するため」のアップ多用ならば、正反対の「この魅力的な人を見てほしい!」という意図が込められた正面からの顔アップ構図。
なので「なんだこりゃ!見たことない!」という映像は正直少ない一方で、俳優をしっかり撮ってくれる人だと自分は思っている。

今作でも大九監督は小細工なしで河合優実を撮る。
それに応えるように、あまりにも魅力的に演じる河合優実が素晴らしい。
もはや言語化不能なレベルで一挙手一投足と発話の全てが圧巻。
そして陽の中にふと訪れる陰の表現。
第1話の時点で誰もが心を掴まれたはず。
あれを観るために汗水垂らして働いてBS受信料を払った甲斐があったというものである。

僕もnoteでちょくちょく「河合優実は良い」と書いてきたが、本当にこの人はどこまで到達してしまうのだろうか?

出演作の並びが異常事態。

映画出演は多作な一方でドラマ出演作は慎重に選んでるのかな?

ところで、このドラマは原作と監督の作風の親和性もなかなかに高い。
大九監督は代表作である『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』を筆頭に、一見して強烈な個性を確立している主人公が、他者や周囲との関わりを通じて自己を再認識して新たな一歩を踏み出すという話を一貫して描いてきた人だと思う。

描くテーマが一貫していながらオリジナル脚本よりも原作もの中心というフィルモグラフィーも興味深い。
ちなみに自分が観た中ではバカリズム脚本の『ウェディング・ハイ』だけはちょっと毛色が違ったかな。

ただ、これもめちゃくちゃ面白い。

今回の原作は我らが(?)noteに綴られたエッセイ。

自分は書籍化されたものを本作の放送前に読んだ。
各章が「◯◯とわたし」という構成になっており、読みながら「この原作は大九監督と相性ばっちりでは?」と。
主人公が家族との関わりを通じて(月並みな表現になるが)成長していく。
大九監督が自ら企画を持ち込んだのかプロデューサーがオファーを出したのかは不明だが、適任とはきっとこういう時に使う言葉だ。

家族を描いた自伝的なエッセイを一定脚色してドラマ化という点で、企画としてはテレ東で山戸結希監督が手がけた『生きるとか死ぬとか父親とか』を思い出したり。

あと、オープニングの赤い車には血縁のモチーフを連想。

ただ、じゃあ大九監督は職人に徹して原作に忠実にやっているだけなのか?というと決してそんなことはない。
まずスタッフはゴリゴリの大九組。
過去に映画で何度も組んでいる人選で本作にも挑んでいる。

  • 音楽:高野正樹

  • 撮影:中村夏葉

  • 照明:常谷良男

  • 録音:小宮元

  • スタイリスト:宮本茉莉

  • 編集:米田博之

これで大九監督の色が出ない方がおかしい。

作品の中身の話に戻すと、大九監督の過去作でも見られた女性バディという構図が今作にも持ち込まれている。

  • 新垣結衣&菊地凛子(恋するマドリ)

  • 松岡茉優&石橋杏奈(勝手にふるえてろ)

  • 黒川芽衣&臼田あさみ(美人が婚活してみたら)

  • 松雪泰子&黒木華(甘いお酒でうがい)

  • 能年玲奈&橋本愛(私をくいとめて)

  • 河合優実&福地桃子 ← New!!!

福地桃子が演じるマルチ(なんちゅうあだ名w)は原作には登場しないキャラクター。
このドラマ化に当たって取材もして追加エピソードを引き出したそうなので完全に架空の人物というわけでもないのかもしれないが、大九監督らしさを感じる。
この「女性同士の連帯が主人公に自分を見つめ直すきっかけになる」という構造は今作にも引き継がれるのだろうか?

また、終盤には明らかにそこまでの40分間とは異質な編集が。
細田守作品のような定点カメラで時間経過を表すカット。
病室に向かう道中で現在と過去を交互に見せるパラレル編集。

そして父についてのある真相が終盤で明かされる。
あのサプライズ的な明かし方は『勝手にふるえてろ』の中盤を思い出した。

大九明子監督と河合優実の化学反応がここまで期待以上のものになるとは。
5月スタートで最終回は7月だから、世間的には春ドラマ・夏ドラマや上半期・下半期のエアポケットに埋もれそうなのがやや心配だが、いち視聴者としては純粋に第2話以降も楽しみでしかない。
誰が何と言おうと傑作の予感である。

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