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【感想】TBSドラマ『不適切にもほどがある!』第8話

一見するとキレの悪い(いつものように後味スカッとしてない)脚本だった。
今回のストーリーで扱われた題材は不倫騒動とネットリンチ。
不倫は本来は当事者間の問題なのにコタツ記事だけ読んで謎の正義感に駆られて批判する人々やその風潮を批評する内容。

しかし語り口は

  • 恒例のミュージカルは誰も付いてこなくて始まらず、終盤に『3年目の浮気』のパロディソングのみ

  • 市郎(阿部サダヲ)は令和という時代に対する啖呵を切らない(「気持ち悪ぃ」と小声で言うのみ)

  • 登場人物の価値観も特に変わらず(今までは市郎の言葉でリフレーミングが起きていた)

カタルシスは乏しい。
〆は栗田(山本耕史)のこの台詞。

神妙な顔をしてれば「辛気臭い」と叩かれ、騒動をネタにすれば「調子に乗ってる」と叩かれる。どっち道叩かれる。ほとぼりが冷めれば、誰かが必ず蒸し返す。君や私が生きるのは、そういう場所だ。心してやりたまえ。

『不適切にもほどがある!』第8話

市郎は「たった1回だぜ?」と呟くも栗田に「今はダメなんです」と返され、「…はい」と受け入れる。
事実上の降伏宣言。
その後の間をたっぷり取った演出も相まって諦観のようなものを感じてしまった。

手札としては下記のように濃いものが提示されていたので、もう一歩踏み込んだメッセージがあっても…と思わなくはない。

  • 不倫

  • SNSによるネットリンチ

  • 正義中毒(ネット or リアルは問わない)

  • 民放放送とスポンサー

  • キャンセルカルチャー

まぁ結局それが「不倫を擁護している」という謎の歪曲により劇中で起きていたのと全く同じ顛末を辿るのが見えていたから結論は敢えてぼかした面もあるのかもなぁ。
それはそれでクレバーな判断だ。

ただ、結論部分だけ見ると第7話までのようなキレ味は薄かったものの、多層的な脚本の技巧はこれまで以上に炸裂していた。

まず冒頭でブッ込まれるのはドッペルゲンガーというギャグ。
タイムマシンの存在を隠すための方便として使われるわけだが、ここで注目したくなるのは井上(三宅弘城)の台詞。

ドッペルゲンガーは意思を持たない。鏡合わせのような存在。

『不適切にもほどがある!』第8話

この序盤の台詞がコタツ記事をコピペしたSNS投稿とその拡散、さらにそれをまとめたコタツ記事にコメントする人々へのメタファーにも聞こえてくる。
さすがクドカン侮れない。
世間の空気を作るのは意思を持たず鏡のように周囲と同じ言動に流される群衆なのだから。

純子(河合優実)とサカエ(吉田羊)の会話で「これだけ便利になった令和に不満はあるのか?」というやり取りがあったが、みんなで不満や不便を一つひとつ解消してきた先にあったのはまた新たな地獄だったという…
市郎の「今の時代には俺のような異物、不適切な奴が混入してないとダメ」という台詞も潔癖や正義中毒に言及している。

さらに今回は謹慎・不登校から復帰するも心が折れてしまうという2つの似た構造のストーリーが描かれた。
その原因は過剰な正義感と過剰な善意。
良かれと思ってやった行為が全くの見当外れで裏目に出てしまう。
サカエ(吉田羊)の台詞が染みる。

だとしたら、普段がどうかしてたんでしょうね。

『不適切にもほどがある!』第8話

セカンドチャンスというテーマも実に2020年代的。
自分が印象に残っているのはジェームズ・ガンの境遇もあって映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』だが、

"Everyone deserves a second chance."

という台詞は近年の洋画や海外ドラマで数多く出てくる。

日本のドラマなら『古畑任三郎』シーズン3の津川雅彦が“犯人”を演じたエピソードの終盤の台詞が金字塔だろう。

また一からやり直せばいいじゃないですか。
とんでもない、まだ始まったばかりです。
いくらでもやり直せます。

よろしいですか?
よろしいですか?
たとえ、たとえですね、明日死ぬとしても、やり直しちゃいけないって誰が決めたんですか?
誰が決めたんですか?

まだまだこれからです。

古畑任三郎シーズン3『再会』
(放送時のタイトルは『古い友人に会う』)

これが1999年5月の放送とは…!

前述したバシッと結論を出さないある意味での“弱点”を補強するかのように小ネタはいつも以上に多め。

  • AI音声のまとめ動画

  • 東京オリンピックといえばクドカン脚本の大河ドラマ『いだてん』の主演は阿部サダヲ

  • コロナ禍の不倫謝罪会見(アンジャッシュ渡部w)

  • ホストの広告

  • 明石家さんまvs.八嶋智人

  • 金曜日の妻たちへ

  • 3年目の浮気

  • 小泉今日子ご本人という“飛び道具”

  • からの彦摩呂w

キョンキョン本人からの彦摩呂はズルいw

リアタイ視聴直後は「あれ?今回はメッセージ控えめ?」と思ったのだが、録画で再び観たらやっぱり凄い脚本だった。
最終回まで残り2話も楽しみ。

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