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デジタル時代のファッション:パターンデータ販売からマスターパターン共有まで

アナログとデジタルの違い

 アナログからデジタルへの変化は、グラフィックや音楽分野の制作方法を変えました。
 アナログのグラフィックデザインは、白い紙に向かってデザインを開始します。デジタルのグラフィックデザインは、複数の画像や図案等を組み合わせたり、アレンジしながら作品に仕上げていきます。
 0から1を生み出すアナログに対し、デジタルは100から1を生み出します。
 アナログの音楽の制作は、楽器を引きながら、メロディーを五線譜に書いていきます。
 デジタルでは、既存のコード進行やリズムのデータを組合せ、そこにラップのようにメロディを重ねていくことも可能です。やはり、100から1を生み出す手法です。
 パターンメーキングも同様です。アナログなパターンメーキングは0から1生み出すが、デジタルなパターンメーキングは100から1を生み出します。しかし、アナログの手法に縛られている限り、デジタルのメリットを活かせません。
 日本のパターンメーキングは、一人のパターンナーが最初から最後まで仕上げるのが一般的です。あるいは、パターンは一から、つまり原型から引くものという思い込みが強ければ、パターンCADを使っていても、デジタル的なパターンメーキングの手法は採用されません。
 

パターンデータの販売

 CGソフトには、画像データが必要です。ネット上には、数多くのフリー画像、フリー素材が公開されています。画像を加工し、組合せ、WEBデザインやグラフィック作品に加工します。
 プロのイラストレーター、フォトグラファーも自己紹介のように作品を公開しています。注文があれば、オリジナルの作品を制作し、納品するというスタイルです。
 もし、アパレルパターンも無料、有料のデータが数多く公開され、販売されていたらどんなことが起きるでしょうか。
 パターンデータ購入は、アイテムやトレンドテーマ、ターゲット顧客等で検索してから、3D画像のサムネイルから選べるようにします。
 パターンデータ販売だけでなく、パターンを通じて、新しいデザインやシルエットを発表することもできます。
 昔の洋裁雑誌「装苑」のように、「若手デザイナーによる簡単服特集」、「自作パーティードレス特集」、」ロリータドレス特集」などのように編集し、生地を選んで実際に服にしてモデル着用で撮影すれば、自作ファッションのメディアにもなります。そして、作品やパターン、生地や付属を販売します。
 アパレルだけではなく、「帽子特集」、「トートバッグ特集」、「ぬいぐるみや人形特集」、「アクセサリー特集」も可能です。
 ファッション専門学校の教材用として、既製服として市場で通用するパターンを販売するのも良いと思います。基本パターンからのバリエーション展開、共通の身頃に袖、襟、ポケット等の変化を解説すれば、そのままカリキュラムになります。
 

マスターパターン・コンサルティング

 コロナ禍でアパレル企業の淘汰が進んでいます。アパレル企業の経営は厳しく、リストラ、経費削減が進んでいます。
 最早、社内でパターンナーを育成する余裕はなく、社内にベテランがいないので、企業内パターンナーが自分の技術を向上させる手段もありません。
 私自身、アパレル企業に勤めていた時、ベーシックなテーラードジャケットのパターンが社内ではできず、外部のベテランパターンナーに依頼したことがあります。
 本来ならば、ブランド毎にボディを設定し、オリジナルの原型(スローパー)を作り、シーズン毎にマスターパターンを組み立てるべきです。そうしないと、シルエットで差別化することはできません。
 机上でターゲット設定をしても、それが服のシルエットに反映されなければ意味がありません。年齢による体型変化を理解し、パターンを作成すべきです。
 安価なアパレル製品であれば、トレンドと価格だけで対応できますが、ベターゾーン以上になると、着心地や丁寧な仕立て、上質な素材が購入の条件になります。
 例えば、ベテランのモデリストがブランドと契約して、全てのパターンをチェックし、マスターパターンを確立するためのプラットホームができないでしょうか。
 それができれば、冒頭に述べたような、デジタルの特徴を活かした、マスターパターンを共有しながら、ブランド内で統一感のあるパターンができるでしょう。

モデリスト&ファクトリー・ブランド

 デザイナーズブランドは、デザイナーがコレクションを発表し、その作品を販売します。デザイナーは時代に対応したテーマを設定し、時代をリードします。
 ラグジュアリーブランドのグローバル展開が進むにつれ、ブランドビジネスの要素が強くなり、ビジネス全体のクリエイティブ部門を統括するアートディレクター、クリエイティブディレクターと呼ばれる職種がデザイナーの上位に存在するようになりました。
 モデリストは、パターン制作と仕様を決定する技術者であり、「服のシェフ」とも言われます。
 クリエイティブディレクターがショップやメディアをコントロールするように、モデリストは縫製工場の特徴を活かしたシルエットや素材を設定することができるはずです。
 そして、プロダクトマネージャーやテキスタイルディレクターが設定したテキスタイル・コレクションとモデリストが打ち出すシルエットのコレクションが組み合わされ、進化したファクトリーブランドが誕生するのです。
 このコレクションを、例えば、百貨店で予約販売会兼試着会を行うのはどうでしょうか。完全予約販売とすれば、売れ残りのリスクは軽減します。
 もちろん、クラウドファンディングで行ってもいいし、通販カタログと組んで販売することもできるでしょう。
 このように、パターンを軸にビジネスモデルを組み立てることで、ファクトリーブランドの可能性を拡大することができるでしょう。

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