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地域ファクトリーブランドの提案

1.変化するアパレル流通と縫製メーカー

 アパレル流通が激変している。百貨店、量販店、専門店等の問屋依存のチェーンストア業態は衰退してしまった。
 更にグローバルサプライチェーンに依存したSPA業態もまた、コロナ禍、中国の人権弾圧、ロシアの武力侵攻等によって、様々な制裁、行動制限等の影響を受けている。
 流通はネットが主流となり、「ネットで販売するための店舗」「ネットで販売するためのコミュニティ」「ネットで販売するためのSNS」等が求められているが、現段階では、ネットと店舗が十分にリンクしていない。全てをネット中心に置き換える発想の転換が必要だ。
 アパレル製品を生産する縫製メーカーも時代の岐路を迎えている。問屋からの受注だけに依存していたのでは生産が安定しない。OEM生産だけでは海外メーカーとの価格競争に勝てない。設計・開発・提案等の機能を持つODM生産を行ってこそ、日本国内に立地するメリットが発揮できるのだが、多くの縫製メーカーは企画提案ができていない。。
 OEMからODMの転換が成功すれば、次の段階として、自社のファクトリーブランド事業が見えてくる。
 ここまででも、十分にハードルは高い。デザイン、パターンメーキングだけでなく、素材や付属の調達も必要だ。それでアパレル製品を生産できたとしても、その製品を販売しなければならない。
 これら全ての機能を備えて、初めてファクトリーブランドが動き出すのである。

2.アパレル市場は供給過剰

 さて、ここで消費者がどんなブランドを求めているかを考えてみよう。
 世の中にはあらゆる種類のブランドが存在している。各企業は真剣にブランディングを考えている。自社の資産、時代のトレンド、競合他社の状況、消費者真理の変化等を把握した上で、ブランドコンセプトを組み立て、顧客ターゲットを設定する。
 売れる商品を作るためにデザイナーを雇用し、機能的で着心地の良い服を作るためにパターンナーを雇用する。
 そして、営業が売場を確保し、販売員が接客して、顧客に商品の魅力を伝える。
 以上は、特別なことではない。多くのアパレル企業が当然のように実践していることだ。それでも簡単に商品は売れない。アパレル不況と言われていても、相変わらず供給過剰が続いているのが現状だ。
 市場にはブランドも商品もあふれている。現在市場にブランドや商品と類似したものを新規に作っても意味がない。市場が飽和している中でブランドを開発するなら、徹底した差別化が必要である。
 消費者にとって、小売店のブランド、問屋のブランド、縫製メーカーのブランドを見分けることはできない。どのブランドも各企業が自らの利益を追求しており、消費者にとって誰から商品を購入しても同じことだ。
 そういう意味では、インフルエンサーが作るブランドもデザイナーが作るブランドも大きな違いはない。国内縫製にこだわるか否かは、ブランドの規模と小売価格の設定に関わる。もし、インフルエンサーがプロデュースするブランドの規模が大きくなれば、会社の経費も増大し、利益を確保するためにフェアトレード型の海外生産に転換するかもしれない。

3.地域経済圏と地域ブランド

 現在、国内で流通しているアパレル製品の多くは海外生産であり、生産者の顔が見えない。海外工場が環境問題、人権問題等についてどのような意識を持っているかを確認することもできない。
 国内生産であれば、顔が見える商品が可能だ。といっても、国内生産であることに価値があるのではない。企業の姿勢、経営者の哲学、地域における雇用の実態等に価値があるのだ。その価値を消費者に伝えない限り、ファクトリーブランドの価値を訴求するのは難しい。
 グローバリズムは持続可能ではなくなった。いつどんな原因で、海外との人的交流や物流が止まるか分からない。
 今後は、小さな自立した経済圏を構築することが持続可能の条件になるだろう。言い換えれば、グローバリズムからローカリズムの転換であり、地産地消による地域経済の自立である。
 ファクトリーブランドが地域ブランドとして機能し、地域活性化に貢献できれば、地元消費者がその商品を購入する意義が生じる。
 地域社会が地域ブランドを応援し、地域ブランドが地域に貢献するという相互扶助的な関係が理想だ。

4.地域ファクトリーブランド

 例えば、自治体は地域ブランドの商品を優先して使用する。公共ユニフォーム、地域スポーツチーム、地域コミュニティ等が地域ブランドを支持し、地域生産のアパレル製品を着用すれば、アパレル製品の地産地消が実現する。勿論、これはアパレル製品に限ったことではない。食料品、工業製品等も地域ブランドで括ることができれば、地産地消の段階から、地域経済の自立につながるだろう。
 また、ネット以外の販売チャネルとして、地域内の小売店に限定すれば、地域の商業に貢献することができる。地域のアイデンティティをもとにしたブランドが注目されれば、地域イメージの向上にも役立つ。
 私は、ファクトリーブランド構想の段階から、地域のブランディングと地域活性化に貢献することを目的とする「地域ファクトリーブランド」を提唱したい。
 地域内の異業種の工場、企業、教育機関、行政等と連携することで、ファクトリーブランドの社会的意義が訴求できるようになるに違いない。

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