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ファッションとコピーの悩ましい問題

1.人真似は恥か?

 尊敬する人、憧れの人の服装を真似ることは珍しくありません。その人に近づきたいと思う気持ちがそうさせるのです。
 これは案外、普遍的な気持ちでしょう。ファッション雑誌のモデルの格好を真似したり、人気ショップのスタッフの真似をする。あるいは、コスプレも、好きなキャラクターの真似をする行為です。
 ファッションデザイナーを目指す学生も、好きなデザイナーの作品やファッション雑誌を眺めながら、デザイン画を描きます。アパレルに勤めるプロのデザイナーも、トレンド情報や売れ筋情報の商品を見ながら、デザインすることは珍しくありません。
 本当にゼロからデザインする人はごくわずかです。多くは何かを下敷きにして、デザインします。そして、顧客もまた、ファッション情報に影響されて服を選びます。
 こうした真似の連鎖、情報の連鎖がファッションを広げ、ファッションビジネスを成立させます。
 それでも、知的所有権の問題が起きることがあります。どこまでが許されて、どこまでが許されないのか、そのあたりの微妙な話を掘り下げてみたいと思います。
 

2.コピーされないデザイナーの存在意義は?

 コピーすることは悪い、と言われます。逆に、コピーされないデザイナーに存在意義はあるのでしょうか。
 そもそも売れそうだと思うからコピーするのであって、売れないデザインをコピーすることはありません。コピーされることは、売れるデザインの証です。
 コピーされても、自分のブランドの商品が売れるなら全く問題はありません。むしろ、多くのブランドがコピーしてくれることで、そのオリジナルを作ったブランドであることが訴求できます。
 パリのラグジュアリーブランドのショップの売上の内、海外のアパレル企業がサンプルとして購入する比率は意外に高いと言われます。商品の購入の目的は、コピーすることです。しかし、コピーしても売れないことは珍しくありません。経費をかけても、利益につながらないのです。
 中国には、「開発バイヤー養成講座」がります。開発バイヤーとは、コピーするために商品を購入するバイヤーの意味です。どんな商品を購入すれば、無駄がないのかを教える講座です。
 最近は、コピーするのは効率が悪いので、オリジナルデザインに移行する中国アパレル企業も増えています。

3.コピーファッションは裁かれない?

 そもそも一言でコピーといっても、その中身は一つではありません。最も分かりやすいのは、ブランドを含めて、そっくりコピーする偽物商法です。これは明らかに違法行為で、誰もが悪いことだと知っています。
 商品のデザインのコピーとは、どの範囲をいうのでしょうか。服を構成する要素の内、一部だけをコピーする場合、それはコピーといえるのでしょうか。
 例えば、型紙をコピーして、素材を載せ変えた服はコピーと言えるのでしょうか。素材が違えば、全く服の印象は変わるので、コピーと気がつく人もいないでしょう。
 色違いはどうでしょうか。黒や紺などのダークな色だけで展開しているブランドの服をコピーして、赤や黄色など派手な色で販売するのはコピーでしょうか。
 ディティールは、どこまでをコピーというのでしょうか。テーラードジャケットをコピーして、ポケットだけを変えるのはコピーでしょうか。あるいは、素材もデザインも同じで、目立つワッペンを付けたら、それはコピーでしょうか。
 更に根本的な問題として、民族衣裳を着用していた国が、洋服を導入した場合、洋服は全て欧州のコピーとも言えます。
 ブランド名、ブランドのシンボル、ブランドロゴ等をコピーしたら明らかに犯罪です。しかし、デザインのコピーについては、ほとんど訴訟にはなりません。なぜなら、デザインをコピーされても、それを立証するのが難しく、裁判費用のほうが高くつくからです。コピー商品で、大儲けした企業が訴訟相手なら、弁護士は張り切るでしょう。しかし、ファッションの流行は速く、訴えて裁判になる頃には、既に会社が倒産しているかもしれないのです。
 

4.デジタル時代のコピー問題

 アナログ時代は、デザインをコピーも手間が掛かりました。サンプルを購入し、そこから型紙を抜き取る。それだけでも結構な作業です。しかも、コピーしても売れるかは分かりません。コピー商法は長続きしないし、リスクの割には儲からないのです。
 デジタル時代になって、状況が変化しました。そもそもデザイン作業がデスクトップで行われ、コピペが簡単にできます。
 特に、イラストやグラフィックデザインの分野では、著作権フリーの素材を加工してデザインするのが一般的になりました。元になる素材が著作権フリーなら問題はありませんが、ネットで図案を見つけてコピーすると、著作権侵害につながることがあります。
 それでも、多くの場合は、被害者は泣き寝入りしてしまい、問題が表面化することは稀です。仮にクレームが入ったとしても、丁重にお詫びし、誠意を持って対応すれば示談で解決することが多いでしょう。
 問題がこじれるのは、コピーが指摘されても逃げてしまうか、開き直って罪を認めない場合です。
 デジタルは簡単にコピーできます。そして、一つのデザインを決めるのに、何種類もの提案を求められるケースが増えています。そういう事情もあり、罪の意識もなくコピーしてしまうことが多いようです。
 アナログの時代には、デザイン提案は膨大な作業を伴い、コストも掛かりました。ですから、「発注」も、「提案」も、「決定」も慎重でした。しかし、デジタルになって、簡単にコピーできるようになり、全てが軽くなってしまいました。その結果、安易で無責任なコピー犯罪が増えているのだと思います。

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