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【データ分析】顧客動態分析

はじめに

事業コンディションを分析する手法として、顧客動態分析というものがあります。これはネットで調べても情報が少ないので、もしかするとそれほどメジャーな分析ではないのかもしれませんが、さまざまなビジネスで活用できる汎用的な分析フレームワークだと思います。さっそく紹介していきます。

顧客動態とは

顧客動態とは自社の売上を構成する顧客数の動態を推移で示したものです。
売上とは「 売上 = 単価 ✕ アクティブ顧客数 」と表わせるので、もし単価が一定だった場合、アクティブ顧客数の減少は売上の減少に直結し、増加すれば売上も増加する関係にあります。ちなみにアクティブ顧客とは「現在も購入がある顧客」という定義になります。

アクティブの定義

ここでもう少しこの「アクティブな状態」について具体的な定義を考えてみましょう。

アクティブ顧客とは、現在も購入がある状態の顧客なわけですが、この「現在も」という部分を具体的に定義しておいた方が後の説明がしやすくなるためです。

まず確実な話として、本日この時点で購入があった顧客は確実に「現在も購入がある」状態とみなして良いでしょう。

では昨日時点で購入があった顧客は?1周間前は?1ヶ月前は?半年前は?

時間が経つにつれ、現在も購入があるアクティブな状態から遠ざかっていくような気がしますね。アクティブの定義とは「どの期間で」という時間概念とセットになります。

基準としては、そのプロダクトの購入頻度の平均値を参考にするケースが多く、例えば毎月購入する顧客が多いプロダクトであれば、最終購入日から半年以内をアクティブと定義したり、年に一回購入する顧客が多いなら、最終購入から1.5年~2年以内という基準をアクティブな状態とする会社もあります。

アクティブ顧客が増減する理由

アクティブの定義が具体的になったので、ここではアクティブ顧客数がなぜ増減するのか考えてみましょう。

まずこれまで取引(購入)のあった全ての顧客(総顧客数)を考えてみます。総顧客数は過去に一度でも取引(購入)があった顧客を指すので、新規顧客がコンスタントに流入している状況下では、総顧客数は時間とともに増加し続けます(計算上、減少はありえない)

もしこの総顧客数の全てが、アクティブな状態(直近○ヶ月以内に購入ありの状態)を維持できていたら、アクティブ顧客数は増え続けることになるはず。

しかし、全てのビジネスにおいて、これまで取引のあった顧客が永久にアクティブな状態を維持し続けることはありえません。どこかの時点で購入が止まり、アクティブではない状態になってしまう顧客が発生するのです。
このアクティブではない状態、つまりアクティブと定義された期間を超えて、買わなくなってしまった顧客を休眠顧客と呼びます。
そしてこの時、アクティブ顧客数、休眠顧客数、総顧客数の関係は以下の式で表すことができます。


① 今月のアクティブ顧客数
 = 前月のアクティブ顧客数 + 今月の新規顧客数 ー 今月の休眠化顧客

② 今月の休眠顧客
= 前月の休眠顧客 + 今月の休眠化顧客

③ 今月の総顧客数
 = ①+②
 = 前月のアクティブ顧客 + 前月の休眠顧客 + 今月の新規顧客数

この式からわかることは以下の3つです。

  • 新規顧客数(流入)が休眠化顧客数(流出)よりも多ければ、アクティブ顧客数は増加

  • 新規顧客数(流入)=休眠化顧客数(流出)の場合、アクティブ顧客数は横ばい

  • 新規顧客数(流入)が休眠化顧客数(流出)よりも少なければ、アクティブ顧客数は減少

非常にシンプルな話ですが、この3点は極めて重要です。では実際に顧客動態をみてみましょう。

Case 1 新規>休眠化

新規の流入に対し、休眠化の流出が少ないため、アクティブ顧客数が増え続けている状態です。この状態の時、売上も同じく増加傾向に入ります。

Case2 新規=休眠化

こちらは徐々に新規流入が減り、新規=休眠化となった状態の推移です。
新規=休眠化となったタイミングからアクティブ顧客数の増加は止まり、横ばいに入っています。この状態は、顧客単価が増えない限りは売上も横ばいとなります。

Case 3 新規<休眠化

こちらは新規流入を休眠化の流出が上回った状態の推移です。こうなるとアクティブ顧客数は減少し、売上も減少に転じます。


顧客動態分析から分かること

この顧客動態分析からわかるように、アクティブ顧客数を増やすには新規数が休眠化数を上回る必要があります。つまり、打ち手としては新規を増やすか、休眠化を減らすか、しかないわけですね。しかし、本当にこれ以外に方法はないのでしょうか?

実はもう1つ方法があります。それは休眠顧客を復帰させるという方法です。

これは前述の Case 3 におけるアクティブ顧客数と休眠顧客数の推移を比較したものです。見ての通り、休眠顧客数が増加している状況を示しています。一般的にビジネス開始の初期を除き、休眠顧客数はアクティブ顧客数よりも多くなる傾向があります。

この休眠顧客は新規顧客の獲得に比べて、獲得コストが安くなる傾向があると言われています(定説では8割ほど安くなると言われています)

理由は様々ありますが、何より休眠顧客は過去に購入実績があり、少なくとも過去にそのプロダクトに対して興味・関心を抱いていたことは間違いなく、それに比べて新規顧客は認知すらない潜在顧客層に認知させ、関心を引き、購入してもらわなくてはいけないため、休眠顧客よりもコストがかかるのです。よって、この休眠顧客に再アプローチし、復帰させることによってアクティブ顧客数を増やしていくことが可能です。

これを踏まえると以下のような式が成り立ちます。

① 今月のアクティブ顧客数
 = 前月のアクティブ顧客数 + 今月の新規顧客数 ー 今月の休眠化顧客 + 今月の休眠復帰数

② 今月の休眠顧客
 = 前月の休眠顧客 + 今月の休眠化顧客 ー 今月の休眠復帰数

③ 今月の総顧客数
 = ①+②
 = 前月のアクティブ顧客 + 前月の休眠顧客 + 今月の新規顧客数

図で示すとこのようなかんじです。

顧客動態分析を行うメリット

顧客動態分析を行うメリットは大きく2つあると思います。

アクティブ顧客数UPの施策を考えやすくなる

上述の内容をまとめると、アクティブ顧客数を増やすのは以下の3つ方法があります。

  1. 新規顧客(New)を増やす

  2. 休眠からの復帰顧客(Comeback)を増やす

  3. 休眠化顧客(Fall)を減らす = アクティブ顧客をリテンションする

このように顧客をグループ分けし、それぞれに適切な打ち手を講じることによって売上の源泉であるアクティブ顧客数をマネジメントすることができます。

売上シミュレーションが立てやすくなる

新規顧客数と復帰顧客数(流入)と休眠化顧客数(流出)の予測が立てられれば、将来のアクティブ顧客数をシミュレーションが可能です。

新規顧客数や復帰顧客数はプロモーションや営業予算や計画から算出が可能なケースが多いでしょう。

休眠化顧客数は、一般的に離脱率や解約率といった指標から算出できます。(詳しくはこちらの記事を参照)

アクティブ顧客数がシミュレーションできれば、それに顧客単価を乗じれば売上シミュレーションも可能、というわけです。

売上シミュレーションの方法はこれ以外にもありますし、もっと精度の高い手法も設計可能だと思いますが、この方法は比較的容易にシミュレーションできるのと、説明もしやすく、増減のドライバーも明確なのでおすすめの手法です。



(おまけ)RFM分析

最後に顧客動態分析に応用しやすいRFM分析を紹介します。
RFM分析とは、顧客の購買ポテンシャルを以下の3つの指標で表現しようぜ、というコンセプトの分析です。

R:Recency  ⇨ 最終購入日から現在までの経過期間
F:Frequency ⇨ 累計購入回数
M:Monetary ⇨ 累計購入金額

要は、購入回数や購入金額が大きいほど優良顧客であり、最終購入日からの経過日数が短いほどアクティブな状態、という判断をします。

とくに重要なのはRで、先ほどのアクティブの定義でも用いられた「最終購入日から現在までの経過時間」と同じ概念です。
つまりRはアクティブの「度合い」を示すもので、しきい値を超えないものを「アクティブ」、超えたものを「休眠」と定義しているのです。

この3つの指標がなんとなく顧客の購買ポテンシャルに相関しそうな指標であることはイメージしやすいかと思います。

ちなみに購入回数(F)と購入金額(M)は比例関係になりがちのため、「RとF」または「RとM」のみで分析するケースもあります。

※これを応用した手法として、平均単価(=購入金額÷購入回数)や、購入アイテム数といった指標を組み合わせる方法もあります。

最もメジャーな活用方法としては、これらの指標の組み合わせによって、顧客のグループ分けを行い、それぞれに適した施策を実施する、というものです。例えばこんなかんじです。


(例)
R ≤ 180日 F ≥ 2 アクティブ顧客 顧客ランクA
⇨ 単価UPのためクロスセル・アップセル施策

R ≤ 180日 F = 1 アクティブ顧客 顧客ランクB
⇨ 定着化のためF=2へリピート購入促進施策

R > 180日 F ≥ 2 休眠顧客 顧客ランクC
⇨ アクティブ復帰のためのリテンション施策

R > 180日 F = 1 休眠顧客 顧客ランクD
⇨ 販促効率を見極め、アプローチ実施の可否を検討

このRFM分析を用いれば、アクティブ顧客については購入回数、購入金額、購入アイテム数によって顧客ポテンシャルに応じたグループ分けを行い効率的な施策を検討できます。

また、休眠顧客についてはアクティブ復帰のための施策を検討しますが、Recencyと復帰確率は強い相関がありますので、復帰にかかるリテンションコストがCAC(初回顧客の獲得にかかるコスト)を超えない範囲で施策を講じるのが良いでしょう。

RFM分析に限らず、顧客動態分析はさまざまな分析手法と組み合わせやすい分析手法ですので、いろいろ試してみると良いと思います。

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