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[書評]佐野創太『「会社辞めたい」ループから抜け出そう」』|本音に生きるための導きの書

みなさんこんにちは。本日は佐野創太さんの『「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法』(サンマーク出版、2022年)書評でお目にかかります。

最初に本書の特徴を述べます。

世の中にはたくさんの"転職本"があります。転職成功のノウハウはこれまで多く提供されてきました。しかし、転職や退職に至る以前の、まさに「会社辞めたい……」という悩みの原因と向き合い、その上で転職を通じて人生を豊かにする、または転職「だけ」でなく転職後「も」成功し続けられるようになるためのノウハウは提供されてきませんでした。佐野さんの本は、そんなホワイトスペースに一石を投じる新しい試みになります。転職・退職の価値最大化・最適化へ。ご一読いただければ幸いです。

転職で人生が好転する人/しない人の差とは

会社辞めたい……。多くの人がそう思ったことがあるのではないでしょうか。なかには不安や不満や違和感を理由に転職・退職した人もいるかもしれません。ですが転職した後、あなたの人生は好転しましたか? おそらく結構な割合の人が、転職前に抱いていた違和感を転職後も引きずり続け、負のスパイラルに陥っていると思います。もしそうであれば、転職後もあなたはこう思うはずです。「会社辞めたい……」と。危険なループです。

仮にあなたが「上司とそりが合わないから」転職するとしましょう。言わずもがなですが、転職時にどんなにリサーチをかけても転職先で上司に恵まれるかどうかはわかりません。では、いい上司に恵まれるにはどうしたら良いのか。すぐれた環境に出あえるまで転職を続けるしかない? 答えはノーです。本書は語ります。

「転職活動をして、仕事もプライベートもどんどんうまくいく人もいます。つまり、いいサイクルに入る人。一方で、転職活動をして、内定をもらっても仕事はうまくいかず、転職を繰り返し、転職市場でどんどん不利になっていく人もいます。つまり負のループに入ってしまう人」「(本書は)"その差"について書いた本です」(『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』8㌻)

そう、換言すれば(繰り返しに近い表現にもなりますが)、世の中には、①転職「だけ」成功する人と、②転職後「も」成功し続ける人がいるのです。もちろん転職を通じて人生を豊かにできるのは後者です。著者は「本音を磨く」ことで、その後者への道が開けると教えてくれます。耳慣れない表現ですが、ちょっと言語化してみましょう。

転職は基本「本音」を隠したまま進められる

そもそもですが、ほぼすべての転職は、転職後の人生を前に進めたいという願いのもとになされます。「いい上司に恵まれたい」もその一つ。「より価値のある仕事がしたい」「雑談できるような仲間と一緒に働きたい」「もっと給料が欲しい」といった願望もそうです。ですが、これらを転職理由にして――たとえば「上司が嫌い」「今の仕事に価値を感じない」「給料が安い」といった言い方で転職を進める人はいないでしょう。本音は、隠すはずです。「御社の経営理念が~」といった志望動機を面接で答えるようにして。

実は、転職シーンでは多くの人が「本音を言わない」ままでいます。採用する側もそれをわかっているので、転職希望者の知らないところでレファレンスチェックを行っている。あなたの本音が話題の俎上(そじょう)にのぼらないまま、転職が進んでいくのです。ここに悲劇の芽があるとこの本は指摘しています。

本書の肝「本音を磨く」とはどういうことか

だとすると、実際の転職では本音をどう扱えばいいのでしょうか。たとえば「じゃあ、転職活動で本音をぶちまければいいんですか?」と聞かれたら? 本書的には答えはノーになります。とはいえ「じゃあ、転職活動では(何となく「やはり」)嘘をついたり盛ったりしていいんですか?」と聞かれれば、これも答えはノーになる。まるで板挟み……ですけれど、佐野さんは、だからこそ本音磨きが必要だと言います。

本音磨きとは、「感情的な本音を思考で整理する方法」「ネガティブな感情を含めた内なる自分と向き合い、面接や職場で『あなたの良さが伝わる言葉として』本音をアウトプットする方法」です。

たとえば、本音を隠したまま行われがちな転職で、本音ベースの職場選びができたらどんなに素晴らしいでしょう。直接的な表現でなくてもいい。折々に、適切に本音を表しながら転職を進めて最適な職場に行きつく。転職後「も」生きがいを感じながら働く。そんな"理想"を理想のままで終わらせない具体的なノウハウが、この本には書かれています。

ともすると私たちは「本音ベースでの転職なんて結局理想じゃん」とあきらめがちです。しかし著者の佐野さんは「そうじゃないんだよ」ということを慈愛を込めて教えてくれます。転職で失敗をして、自ら「会社辞めたい」のループにハマり、また、転職エージェントとして働いた経験も持ち、1000人以上の退職・転職相談にも乗ってきた佐野さんならではの知恵がこの本に凝縮されています。具体論は本書を開いて確認してください。以下にメソッドの大ステップだけを書き出します。

ステップ1:本音を把握する「退職成仏ノート」を作る
ステップ2:本音を整理する「人間関係の仕分けノート」を作る
ステップ3:適切に本音が伝わるように言葉を磨く「明日への手紙」を作る

本音と向き合うことで働き方・生き方に変化を

「会社辞めたい」という思いには茫漠(ぼうばく)としたものから切実なものまで、あまたとあるでしょう。汐街コナ著『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』(あさ出版、2017年)という本が前に流行りましたが、同書は、死ぬほど苦しい状況に陥った時に、人が「会社を辞める」ということにすら思い至らなくなるさまを描いています。「会社辞めたい」とつぶやくことにすらたどり着けないという状況にある人もいるのです。

もはや何が本音なのかもわからない。そんな地獄のような苦境に立たされた人にも響く「本音磨き」の指南書が本書です。また佐野さんの本は、①転職「だけ」成功する人と、②転職後「も」成功し続ける人の他にも、⓪転職・退職以前に「働き方」に悩んでいる人にも強いメッセージ性を発揮します。テーマになっているのは「どうすれば自分を偽ることなく働けるか」「どうしたら本音に生きられるか」です。佐野さんは「こうすれば自分でも気づかなかった己れの本音がわかるよ」「こうすれば本音が整理できるよ」「こうすれば本音を適切に受け入れて、言葉にして人に伝えて、転職にも人生にも活かせるよ」ということを、とつとつと丁寧に、やさしく言葉をつむいで教えてくれます。繰り返しますが、具体論は本書で確認してください。

人生から本音を問われていることに気づいて

私はこの本を読んで、ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者V・E・フランクルの名著『夜と霧』の一節、20世紀を代表する名言を思い出しました。

「われわれが人生の意味を問うのではない。返ってわれわれが人生から意味を問われているのである」(183㌻趣意、霜山徳爾訳、みすず書房、1956年)

人生の意味って何だろう? そう問うのが一般的ですよね。これがフランクルの言う「われわれが人生の意味を問う」です。ですが、彼は逆説的に「人生が私たちに意味を問うている」と言います。難しい言葉です。あえて説明は省きます。

注目したいのが、この「人生が私たちに意味を問うている」というテーゼが、佐野さんの書籍で言うところの「本音と向き合う」に通じている点です。人生は問いかけてきます。与えられた人生においてあなたは何をするのですか? どんなことがしたいですか? ほんとうは何が望みですか? と。そうやって人生からあなたの心が問われるのです。この問いを深掘りすると、結果的にあなたは自身の本音と向き合うことになります。佐野さんの本も同じくここを穿(うが)ってくれます。ただし、誰(何)からの問いかといえば、フランクルは「人生から」としましたけれど、佐野さんは「仕事から」「転職から」がメインになっています。でも、佐野さんはフランクルの思想に近似した形で「人生からの問い」に通じる内容も提示します。いわば佐野さんの本は転職論であるとともに生き方論でもあるのです。実際そういう内容になっていて思想的にも深い本です。

人生最期の後悔の究極は「自分に正直に生きなかったことへの後悔」だと言われます。死ぬ前に後悔しないためにも、良き転職を通じて良き生き方をするためにも、ぜひ本書のご一読をお勧めします。本書をもとに本音と向き合ってみてください。

長文おつき合い、ありがとうございました。

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