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渦のなか

卒業式も雨で、入学式も雨だった。
なぜピンポイントで雨なんだと誰かが愚痴っていたけれど、もちろん答えはだれも知らない。
雨は余計な思考を消してくれるし、写真もあまり撮れなくて、めんどくさがりのわたしには悪いことばかりでもない。
娘のときも同じことを思ったけれど、新入生の入場を見ていると本当に混沌としていて、おもしろい。
髪型も歩き方も視線も、みんな違う。女子でパンツの制服の子もいた。
変わっていくんだなと思うし、今、すごく変わっている、渦中にいるのだという気がする。
渦の中にいるときはこんな感じなのかと思うほど、めまぐるしく日常が過ぎていく。
たった1年、2年で大きく変わっていく、いろんなことに目を見張らざるを得ない。
善か悪か、なんて考える暇もなく変わっていってしまう何かを、せめて見届けておこうと思うのだけれど、変わってしまうともう前の姿が思い出せなくなっていることに気づいて愕然とする。
それは更地になったところにどんな建物が立っていたのか思い出せなくなるのによく似ている。
確かにあったはずなのに、確かにいたはずなのに。
記憶の中にすら、留まらない瞬間ばかりが増えていく。
強い風の中、自転車で坂道を降りながら、ブレーキをかける。
桜の花びらが陽の光に白く反射しながら、生きものみたいに舞っていた。
花もいいけれど葉が出てくるのも同じくらい好きだと、ふいに誰かに言いたい気持ちになった。
今日の風は少し冷たい。

#エッセイ #入学式 #桜 #渦中

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