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ふたり、窓辺で

朝から雪が降っていた。
カーテンを開け、外をよく見えるようにするときみはひょいと窓のへりに飛び乗った。それから、上手に後ろ足を折りたたんで窓の外を眺めた。
「今日は雪だね」
話しかけながら、きみの目線に高さを合わせて同じように外を見てみる。
「雪、はじめて?」
と聞いてから、そんなことはなかったなと気づいた。きみは雪のたくさん降るところから来たんだった。
でも、わたしだって雪の降るところで育ったの。きみより長生きだから、わたしのほうがきっと雪を知ってる。
きみはじっと外を眺めている。きちんと前足をそろえて。
でも、きみは海から来たのだった。
海の冬を、海の雪をわたしは知らない。
だって、海には晴れた日にしか行かないから。
きみはきっと堤防の雪や砂浜の雪、波間に降る雪を知っているんだね。
削られた貝殻と雪とどちらが白いのか知っているんだね。
その瞳には、わたしの知らない雪がたくさん入っているんだね。
そう言うと、きみはゆっくりまばたきをした。
南天の赤い実にふんわり雪が積もっている。風もなく空はずいぶん明るいのに、まっすぐに雪は降り続けている。
ふたりでずっと雪を眺めた。そのうち、きみは目を閉じて眠ってしまった。
口がむにゃむにゃ動いたので、美味しい夢でも見ているのかもしれない。
そうだといい。



○写真はみんなのフォトギャラリーからお借りしました


#小説 #散文詩 #二人称 #猫 #雪 #窓


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