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長編小説を分割して投稿していこうかなと考えております。kindle出版やブログ、You…

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長編小説を分割して投稿していこうかなと考えております。kindle出版やブログ、YouTubeも展開中。人間が面白いです。

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  • 悪魔の子供たち(完結・小説)

    自分の正体を誰にもバレることなく、事件の裏側を知られることもなく、自然発生的に平和を混沌に変えてしまう存在。ある高名な僧がそのような性質の子供たちを称して「悪魔の子」と呼んだ。「悪魔の子」は人のフリをするのが上手いだけで、実はどこにでも潜んでいるのだとその僧は言う。  舞台は立て続けに事件に見舞われている呪われた学校。事件を裏で操る「悪魔の子」は誰なのか。そしてその予想だにできない目的とは。是非その目でお確かめください。

最近の記事

破壊の女神⑨

 9  相沢華蓮は母親の百合子に辟易していた。 「もうホント勘弁してほしいよ」  斜陽差し込む教室の窓際。三者面談の後のことだ。 「自分の本の中じゃあ女性はこうでなきゃならない、みたいな決めつけは敵だとか言ってるくせにさ、自分の娘に関しては「自分の娘像」をハッキリ押し付けてくんのよね」  窓の傍に立つその茶髪の女性に茶色い光線が容赦なく突き刺さり、髪の色を無かったことにしている。  しかめ面が似合う女は嫌いではない。ただしこの年齢でその特性を身に着けてしまっていることにど

    • 破壊の女神⑧

       8  ドアを開けると、そこにはテレビで見たままのその人がいた。アラフォーには見えない中年の女性。 「あら、テレビでお見かけするよりスマートなんですね」  逆に向こうから言われてしまった。 「失礼します」  僕は勧められた椅子に座り、弦吾君はドアの前で待機していた。カメラマンや編集者もその辺の位置についている。  部屋の中はテーブルクロスやカーテンのレース感がやたらとよく目につき、四方八方からエレガントな雰囲気が顔を覗かせていた。テーブルの上には西洋の花が生けてあり、紅茶の

      • 破壊の女神⑦

         7 「だ、だからと言って、日向さんが光政大学を志望しているのは事実です!」  魔法の解けた先生は大慌てで遅れを取り戻そうとしてきた。 「今のままでは絶対に志望校に受かることはできません! それでもよいというのですか? あなたは妹さんの希望を何でも叶えたいのではなかったのですか?」  さすが百戦錬磨のネズミ先生。すぐに立ち直り別の手段を講じてきた。これはいわゆる誘導尋問というやつだろう。音々を言葉巧みに操り、別の角度からうまいこと丸め込むつもりらしい。一度敗北を喫したことで

        • 破壊の女神⑥

           6  進路相談室に入ると、フォーマルスーツを着込んだネズミのような顔のオバサンが作り笑いであることが一目瞭然の笑顔で出迎えてくれた。  コイツとは話が合わない。一瞬で私はそれを悟った。  笑顔を見せると人とのコミュニケーションがスムーズになるというのは本当だろう。ただし極端に作為的な笑顔の場合は話が別だ。作為的であると私が判断してしまうほどに演技の度合いが強い笑顔、と言い換えてもいい。他者とコミュニケーションを図るときに、相手を嫌な気持ちにさせないための礼儀として見せる笑

        破壊の女神⑨

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        • 悪魔の子供たち(完結・小説)
          9本

        記事

          破壊の女神⑤

           5 「――以上が僕の考える生涯学習の今後についてでした」  頭を下げ、壇上を後にする僕を万雷の拍手が襲った。僕はそれから逃げるように観客から視界を隔てているステージ横の幕の中へと逃げ込んだ。持っていたマイクをスタッフに預け、空いているパイプ椅子に落ち着いたところでようやくため息を吐けた。  名前が売れ、注目度が上がると要らぬプレッシャーが発生してしまうことを最近知った。あの夢路響の講演だということで見ている側の期待度も勝手に上がってしまうのだ。  あの拍手喝采は一体どうい

          破壊の女神⑤

          破壊の女神④

           4  校舎の取材と称して美琴ちゃんの学校に潜り込み、そこでモンペ捜索をやろうと目論んでいた私たちを、他でもない美琴ちゃんが止めた。  まあ、正確には止められてはいないのだが。 「止めたって止まらないのがあなたたちなんだから、私は止めない! けどやるなら私の目の届くところでやって!」  なんと信頼されていることか。監視付きで許されることになるとは。美琴ちゃんとしてはただ白石君に復讐したいだけなのかもしれないが。  こうして冒険に旅立つ前に強力なメンバーがパーティに加入するこ

          破壊の女神④

          破壊の女神③

            3  光政大学社会学部の研究室は第三室まであり、僕ら下っ端研究員の詰め所は一でも二でもなく第三の研究室となっていた。第一はゼミで使う演習室で、第二は学生諸子の詰め所となっている。しかし第二と第三の垣根はほとんどなく、僕はいつも忙しそうな学生たちと肩を並べて研究員としてのノルマの処理に追われていた。教授や准教授が出席し発言するシンポジウムの資料作りや、僕が出席するわけでもない会議の下準備といった理不尽極まりないメニューが目白押しだ。ひどい時には事務処理的な機械作業も回って

          破壊の女神③

          破壊の女神②

           2  閑静な高級住宅街など、夜になれば単なる犯罪の温床にすぎなくなる。金持ちしか通らないこと請け負いのこんな道、盗賊どもの格好の標的ではないか。武家屋敷みたいな家屋の防犯設備だけが完璧で、お出かけの際の自分らの対策がザルではどうしようもない。  マンション暮らしからの脱出に成功した成金共がここに城を建て定住する。この御時世、マイホーム購入など不道徳で生きてきた世渡り上手たちの専売特許でしかないはずだ。真面目に生きているスーツ姿の百姓らは昨日も今日も外れくじばかり引いている

          破壊の女神②

          破壊の女神①

           あらすじ  人はただ生きているだけで先入観を獲得してしまう呪われた生き物である。それはやがて常識という名の欺瞞となり人間社会を万遍なく覆い隠すこととなる。果たしてそれが正しいことなのか、効率的なことなのか、ためになっているのか、不幸を招いてはいないのか……、誰も疑問に思うことなく、人はその欺瞞の薄皮の上を盲目的に歩き続けるほかない。  夢路音々(ゆめじねね)という女性は「創作物」と「自分の世界」の中だけで生きてきた奇妙な人物だった。彼女は一度として現実世界に触れてこなか

          破壊の女神①

          悪魔の子供たち 終

           9 共食い 「信用と、情報力?」 「ええ」  竜胆氏は頷いた。 「あの子は大人顔負けの類まれな情報力の持ち主です」  これはあの「悪魔の子」についての話だ。 「実際にあの子の告解を聞いていてそれに気が付いたんですよ。あの子が誰かを不幸な目に遭わせようとする時、その持ち前の情報力をいかんなく発揮していると」  何故か竜胆氏はこれを嬉しそうに言うのだ。私は悪魔の所業を糾弾こそすれ容認する姿勢など持ちたくないというのに。 「ああ、失礼。情報力というのは私の造語です」  説明が必

          悪魔の子供たち 終

          悪魔の子供たち⑧

          8 印象操作  あっという間に時間が過ぎていく。 この二日間、新聞部は我らの成すべきことの事前準備の為に奔走していた。  ハルが立案し、ハルが実行するのが新聞部のモットーだった。だが今回はそうはいかなかった。色々と出かけるところがあったので、俺もスマホ片手に市内を駆けずり回った。  俺の頑張りもあり、新聞部会心の一作は決行予定日の前日に仕上がった。もうすでにそれは大量にプリントアウトしてしまっている。  あとは明日の授業参観日の早朝、これを学校中に貼りまくるのみ。その下準備

          悪魔の子供たち⑧

          悪魔の子供たち⑦

           7 沈黙の当事者たち  昼休み。俺とハルは高屋さんに会いに出向いた。 教室では高屋さんと萩原さんが同じところに固まって話をしていた。しかも二人ともノリノリで話をしている。どちらかというと萩原さんの方がうるさいくらいだ。  他のグループはというと、その様子を遠慮がちに遠目から見ているのだった。  腫物扱い。それに加えて萩原さんよくやるわ、偉いよね、といったところか。それよりもその腫物が意外なほど元気なので、元お仲間さんたちにとってみればそれが安心材料になっているのかもしれ

          悪魔の子供たち⑦

          悪魔の子供たち⑥

           6 呪われた学校  すでにそれは「パワハラ事件」と呼称されていた。それでもそこに体罰が無かったことだけは確かなようだ。  生徒に叱責を加えている様子を動画に撮られること。この時代、教員にはいくらでもその危険性がある。そして場合によってそれは世界中に拡散されることもある。  山尾先生も撮られてしまったのだ。しかも山尾先生の「お説教」はインパクトが違う。もう段違いだ。動画を見る者に圧倒的なマイナスのイメージを植え付けてしまう。あの迫力、殺気、恐怖。山尾先生のお説教がたとえ10

          悪魔の子供たち⑥

          悪魔の子供たち⑤

           5 ハイエナ    翌日、ハルは万全な状態であの十字路に現れた。いつも通りの微笑みと、その中にちょっと毒気を含ませた美人。どうやら昨晩はよく寝たらしい。  幹線道路に出ると、今日もまたいじめ事件のいじめられっ子、高屋美樹が向こう側の歩道をトボトボと歩くのが見えた。目の大きな愛嬌のある丸顔に学校指定無視のミニスカート、毛先の撥ねた髪の毛、等々……。前まではこの道になかったその景色。  高屋美樹は以前は仲間と共に別のルートから通学していたのだ。 彼女は世にも珍しい、仲間が大勢い

          悪魔の子供たち⑤

          悪魔の子供たち④

           4 保健室の問診  インタビュー後、少しだけハルとダベっていたら夕日がいつの間にか姿を消そうとしていた。いつもこうだ。落陽は「だるまさんが転んだ」と同じ。少し目を離しただけですっかり位置が変わってしまっている。  斜陽の廊下をナツと歩いていると、前方から山尾先生が素振りをしながら歩いてくるのが見えた。もちろん、バドミントンのラケットは持っていない。それでも上下左右、縦横無尽にブンブンと腕を振り回している。やけにテンションが高い。 「ご乱心ね」  ハルがボソッと呟いたこのセ

          悪魔の子供たち④

          悪魔の子供たち③

           3 悪と聖と  何とか遅刻だけは回避できた俺たちは、いつも通りの変わらない一日を過ごしていた。俺はただただ怠惰に授業を受け続けた。机に突っ伏し、時には頬杖を突き、姿勢を正すことなく、緩慢した鼓膜と半分しか光が届いていない網膜とで適当に授業内容を見聞きし、頻繁に欠伸をした。休み時間には男女問わずちょっかいをかけられた。「今度はどんな記事書くの?」という質問から「宿題のノート見せてあげようか」という施しまで、クラスのみんなは色々と俺を気にしてくれる。「とっつきやすい」と言われ

          悪魔の子供たち③