見出し画像

放射能汚染地域の鉄くず等売却事件:環境省は警察頼みか?

東京電力福島第一原発事故による汚染地域から金属類が持ち出され、売却されている。そう毎日新聞がスクープしたのは、2023年9月19日朝5時。同19日の定例会見で環境大臣は、警察頼みの姿勢しか見せなかった。どうなっているのか、後追い取材を試みた。


鹿島JVの下請け作業員

福島第一原発の爆発や放射性雲(プルーム)は、周辺土壌も建物も田畑も森も海も汚染し、7町村にはいまだに帰還困難区域が広がっている。うち6町村の帰還困難区域内には、人を帰還させるために「特定復興再生拠点区域」が設けられ、除染が進められてきた。

今回の毎日新聞鉄くずを無断で持ち出し換金 帰還困難区域の解体現場の実態は、大熊町で起きた事件。つまり、鹿島建設(2022年までの関連ページ)ら共同企業体が約50億円で落札、2月ごろに始めた大熊町の図書館・民俗伝承館解体工事で、1次下請けの土木会社の作業員が4~6月に少なくとも7回、鉄くずや銅線を、仮置き場に持って行かずに、県内業者に売却してしまったというもの。

7月から報道まで環境省は何をしていた?

環境省に事実確認を試みると、各紙で報道された内容すら、自らは明らかにしようとしない。

しかし、環境省がこの事件を知ったのは7月27日で、「元請から報告を受けた」(環境再生・資源循環局 環境再生事業担当 参事官室)と明かした。

9月にスクープされるまで、環境省は沈黙していたのだ。

「100ベクレル以下なら再利用できる」の根拠は?

報道内容には気になることがあった。多くの報道機関が「100ベクレル以下なら再利用できるが、仮置き場での濃度確認が前提となる」(日経新聞「汚染恐れの鉄くず、無断で持ち出し売却 福島・大熊町」9月19日)と書いたことだ。その確認をせずに売却されたことが問題とされているのだ。

共通してそう書かれているので、環境省がそのように説明をしたのだろう。

確かに、原子炉等規制法のクリアランス制度では、原発等で利用された資材を再利用できるレベルが決まっている(同法第61条の2=放射能濃度が放射線による障害の防止のための措置を必要としないものとして原子力規制委員会規則で定める基準を超えないことについて、原子力規制委員会規則で定める)。

セシウムであれば100ベクレル/kg以下だ。

原発事故で汚染された金属の再利用を規制する法律はまだない

しかし、原発事故による放射能汚染された金属等の再利用を「100ベクレル以下」と定めた法律はまだない放射性物質汚染対処特措法(以下、特措法)で、除染や運搬や処分については定めがあるが、再利用についての定めがない。

環境省が報道機関に対して「100ベクレル以下なら再利用できる」と説明した根拠は一体何か、というところから取材を始めた。

「通知」で業者を処分できますか?

「100ベクレルという決まりはありませんよね?」そう聞くと、参事官室担当者は、あっさりと「関係省庁の通知によって使われる基準で定めている」という。

具体的には、2013年10月「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」(内閣府原子力災害対策本部 原子力被災者生活支援チーム、復興庁、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省)だという。見ると、確かにこう書かれている。

帰還困難区域・居住制限区域において発生する建設副産物であっても、以下のいずれかの条件を満たす場合は、発生した区域より放射線量が低い区域において再利用等を行うことができる。
1  建設副産物を再資源化した資材(建設発生土を含む。以下、「再資源化資材」という。)の放射能濃度が100ベクレル毎キログラム以下である場合。

2013年10月「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」(内閣府原子力災害対策本部 原子力被災者生活支援チームほか)

関係省庁のウェブサイトから消えつつあり、福島労働局労働基準部長に宛てられたものを見つけたので、ここで保存しておくことにする。

通知に拘束力はあるのか?

この通知について行った参事官室とのやりとりの要旨を以下に書いておく。

Q:通知にはどの程度の拘束力があるのか?
A:法律事項ではないが、関係府省庁でまとめたものなので、これに基づいて対象物については運用している。
Q:鹿島と下請けへの処分は? 特措法を所管する環境省として、入札禁止とかの行政処分は?
A:どう対応するかは検討確認の最中。
Q:「通知」が根拠で処分はできるのか?うやむやになるのではないか?

9月28日取材メモの一部

拘束力にこだわるわけ

余談だが、環境省は、これまで土壌については管理すれば(管理などできないのに)「8000ベクレル/kg」未満の土壌を再利用できるとし、福島県外での実証事業をゴリ押ししようとしている(関係「地味な取材ノート」はこちら)。同じ通知に載っていても、土は無視して「8000ベクレル未満」、鉄クズは「100ベクレル以下」を守れと環境省が言えてしまうのが、「通知」の拘束力のなさではないか。

法律に基づいてどういう扱いをするのか

10月3日、さらに取材を進めようとしたが、何を聞いても、参事官室担当者は、「警察に相談中」「当局が捜査中」と逃げる。そこで聞き方を変えた。

●鹿島建設からは刑事訴訟法239条に基づいて、報告があったと捉えていますか?

・何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。

刑事訴訟法239条

●それとも行政手続法36条の3での訴えと受け止めて、環境省として動きますか?

・何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。

行政手続法36条の3

●環境省は、刑事訴訟法239条に基づいて警察に告発をしたんですか?

・公務員は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない

刑事訴訟法239条

そして、聞いておいてなんですが、通知であって、法律になっていないから、どれも無理だと思いますけど、どう思いますか?」とも聞いた。すると、「刑事訴訟法に明るくなく、こうした考え方に立っていなかった」というのが参事官室担当者の答えだった。

では、『窃盗』という扱いをしますか。法律に基づいてどういう扱いをするのかを知りたい」のだと念を押すと、「再発防止に向けた事実確認はするし、実際の事案の対応については大臣が会見した通り」で、いずれ説明するという。環境省が所管しない法律についても警察が・・・という。

取材が「意見」になってしまうときがある

それなら、その説明の際は、

  1. 事実関係(どこに売却され流通したか)

  2. 他にもないか、横展開の調査

  3. 再発を防止するなら一罰百戒(行政処分、刑事告発)が重要だが、法律がないからそれができないというなら、100ベクレル以下を定める特措法の改正

これらが必要ですよね、と確認すると「ご意見として承ります」(参事官室)と受け止められた。それならそれでもいいが、説明責任が果たされることに期待したい。

環境大臣の対応:後手

なお、大臣会見(9月22日)とは「来月(10月)に外部有識者による検討会を設置し、年度内に取りまとめを行う」というもの。金属が6月までに最低7回無断で汚染地域から売却され、7月に環境省が知ったのに、9月の報道を受けて、10月に会議を開き、年内取りまとめ。

もうその頃には、売却された金属は溶融され、製品として流通しているのではないか。新聞によるスクープがなければ、警察任せで、環境省としては1ミリたりとも動かなかったのではないかという疑いすら、筆者は持っている。

蛇足だが

なお、10月4日の原子力規制委員長会見で、この件を尋ねると、山中委員長は「そういうことはあってはいけないとは思いますけれども、原子炉等規制法で規制をしなければならない対象物であるとは考えておりません」と回答。再発防止策としてアドバイスをするとしたら?と水を向けたが「責任を持って環境省のほうで対処をお願いしたい」というにとどまった。

2017年に「あなたの隣の放射能汚染ゴミ」(集英社新書)を書いた。当時も危うい基準で「金属」が流通した事案(すでに始まっている汚染された金属のリサイクル)にも遭遇したが、通知のみで法令を作らないままでは、今回のような事案は再発必至であり、氷山の一角ではないか。

【タイトル図画】

「大熊町 下野上字大野地区建物の解体作業の様子①」http://josen.env.go.jp/kyoten/ohkuma/info_45.html を拡大抜粋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?