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自由エネルギー原理入門: 知覚・行動・コミュニケーションの計算理論 乾敏郎

認知科学で注目される自由エネルギー原理の解説書を読んだのでメモ。

図解も説明も丁寧だが数式もそれなりにあり専門の大学生か大学院生向けレベルかなと思う。

自由エネルギー原理は、私の興味である人間の意識や自我を理解する観点でも、非常に興味深い理論だと感じた。確かに環境の認知から行動を一貫した原理で説明できているように見えるし、脳神経科学の知見との整合性もあるように思える。

理解が間違っているかもだが、従来の認知科学の知見である予測符号化(脳は外界の知覚情報を”予測”していて、それを一致させようとするように働く)を発展させて、サプライズ項を導入したことと、それのうえで行動まで含めた理論化したことがポイントなのだろうと理解した(と思われる)。

サプライズ項は、めったに起こらないことを知覚するのを避けるという働きのようだ。これにより、危険を避ける、または飢餓状態や窒息状態などの異常状態をさけるという行動が説明できる(と理解した)

動物(人間含む)の行動は、外部の知覚情報(この知覚は脳が主体なので飢餓や窒息などの自身の身体状態も含む)と脳による知覚情報の予測との差異をサプライズ項を抑えつつを小さくする方向で行動するといえる。

さらに、この理論の実装として、機械学習で研究される強化学習のポリシーの設計に活かせるらしい。このサプライズの長期的な低下を目指す方策はエントロピー最小化に一致するらしい。

書籍の引用をすると「人間を含む生物は不確実性を最小化するように行動する」という行動原理が導出できるとのこと。この行動原理は直感にもあっていると感じる。

この原理をもとにしたロボティクス分野やニューラルネットとくに生成モデルによる実証研究について具体的な検討がすすでいるようで※、昨今のChatGptなどの生成モデル/LLM発展を合わせ、さらなる研究発展を期待して待ちたい。

※カール・フリストンらによる「能動的推論:心、脳、行動の自由エネルギー原理(2022年)」の第二部など


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