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服装【エッセイ】六〇〇字

 テレビが家庭に入り始めた六〇年前後。アメリカのドラマが、人気だった。『奥さまは魔女』とか、『パパは何でも知っている』とか、『ルート66』とかが、放映されていた。
 一ドルが三六〇円の時代。変動相場制に移行する七〇年代まで今の三倍以上だから、海外旅行は高根の花だった。『アップダウンクイズ』というクイズ番組の目玉賞品に、夢のハワイ旅行なんてのもあった。なので、画面の中の海外に、思いを馳せていた、と思う。
 そんな時代でも、団体ツアーで出かける日本人もおり、マナーの悪さや姿・格好を、よく揶揄されたりもした。コロナ禍で消えたが、中国人の爆買いをする姿を皮肉るひともいたが、ちょっと昔は、日本人も同じだったのだ。
 黒縁のメガネ、七三分けで、首からカメラを提げ、出っ歯。服は紺色や茶色というのが日本人のツアー客として風刺画に描かれた。子ども心に、格好悪いな、と思っていた。
 反してアメリカ人の洒落たファッション。赤いブレザーなんか着こなしている高齢者を観ながら、母にこう言ったと記憶している。「ボクが大きくなって、このお爺ちゃんくらいになったら、赤い上着を着ようかな」と。
 そろそろ、そんな歳になる。赤といえば「ちゃんちゃんこ」。還暦も、今年の古稀も、丁重に辞退した。年寄りと思われたくないという可愛くない抵抗。反省している。せめて傘寿のときには、素直になって「赤いブレザーがいい」と言ってみようかと、思っている。

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