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魔術【エッセイ】二〇〇〇字

 映画『キネマの神様』を観て、原作本を手にしてみた。原田マハの小説は読んだことがなかったのだが、美術だけでなく映画にも深い知識があり、学生時代に“もぎり嬢”のバイトをしていたほどの映画ファンであることを知った。このことは、後日、『キネマの神様』をテーマに書くことになる(たぶん)。
 マハつながりでエッセイを読んだ。すると、『超絶晴れ女』と、エッセイ集「フーテンのマハ」にあった。負けん気の強いワタクシとしては、「ちょっと、あのね~マハおねえさん。年季の入り方がこちとらと、ちとちゃうよ。こちとらは、物心がついたころからだから、もう70年近く。『超絶晴れ』にさらに超がつくほどだぜ。運動会なんかパーフェクト!」と思った。いうことで、その実績を(マハおねえさんに負けじと)書いてみる。とは言いながらも、全てのことに「晴れ男」ぶりを発揮するわけではない。「絶対、雨は降らないで欲しい」と、周囲のかたが願っているときに、限られる。自分本位ではなく、あくまでも社会奉仕のために威力が増すのだ。裏返せば、農業を営むかたが望むような「雨ごい」になると、とんと頼りにならない。またまた言い訳がましいが、趣味のゴルフのときに、想像を絶する神力じんりきを発揮する。正確なデータをとったわけではないが、雨予報でも晴れることが、50%以上。晴れるまではいかないが、とにかく「雨が降らない」率は、35%。残りは、ゴルフ場までは、小雨がちで、スタートするころには晴れることが、10%くらい。端数は、記憶にないので、集計から除外。選びきれないのだが、そのなかで象徴的な“晴れ男”噺を2席ほど、お付き合いくだされ。
 30年前。ゴルフがもっとも楽しかった40歳前後のころ。東京・方南町近くに住んでいた。翌日、東京から100kある関越自動車道のゴルフ場でのプレーがあった。しかし、台風が接近。普通の人間なら完全にアウトと前日に中止を決定するような状況。しかし、ワタクシは普通ではない。メンバーからは、「明日、ダメじゃない? やめたほうがいいって、嫁も言うんだよ・・・」とか、「さすがに菊地さんでも、台風には勝てんでしょ」とか、「死にたくないんだよなあー」とか、電話が入る(LINEはもちろん、メールもない)。そこで、お返しする、「これから祈祷に入ります。信じてください。どうしてもだめなら、明日の朝、連絡を入れます」と。
 しかし、内心、かなり不安な戦況。(当時はネットがないので)テレビ各局のチャンネル(ボタンではない)を回し続け天気予報を確認するが、スピードが鈍っているとの予報。ま、起きてから決めようと、早めにご就寝。
 起床し、祈る心持で、テレビで確認する。すると、台風の速度が時速50kにスピードアップ。加速がついたようだ。そこで考えた。「もっとアクセルを踏んでくれれば、車のスピードと一緒か超えてくれるかもしれない。となるとゴルフ場に着くころには、追い抜かれるのではないか」と。その予想を、メンバー各位に連絡し、「決行しましょう」ということになった。
 予報通りに上陸したが、台風の目に入っているようで雨量が弱まっている。しかし、さすがに敵は手ごわい。高速道路を走っている最中、仲良く並走しているではないか。ワイパーもきかないほどで、徐行運転せざるを得ない。しかし————。料金所を降りるころには、豪雨のピークであったが、瞬く間に追い越していき、ゴルフ場に着くと、台風一過の青空になったのだ。ではあるが、さすがにコースは水浸し。芝生を涙目で見ながらレストランで酒盛りし(当時は、酒気帯び運転にはいまほど厳しくなかった。でも、良い事ではないが・・・)待っていると、2時間後にはスタートできたのだった。メンバーたちの目は、神様を見る目に変わっていた。
 次の奇跡は、10年たった独立後。取引先のM部長と、担当のK氏とのプレーが、東京湾沿いにある若洲ゴルフ場で翌日に予定されていた。
 天気予報は、南岸に低気圧があり、90%の降雨確率、という。
 M部長は、名門「〇京ゴルフ倶楽部」のメンバー、K氏は、〇習院大学のゴルフ部出身。もちろん、三度の飯よりもゴルフ好き。ゴルフでお付き合いいだけるのは、最大の情報交換(営業)の機会。なんとしてでも、実現させたい。そこで、半ばハッタリ気味に、こうメールで伝えた。「なんとか、南岸の低気圧を力づくで押し下げますので、私の神通力に掛けてください」と。仕事していても気がきではない。10分おきにYahooや、他の天気予報、天気図をチェック。K氏もチェックしているみたいで、「ちょっと南にさがりましたね。でも雨予報は変っていない・・・」と、メールが入る。そこでさらに気合を入れる。「むひゃむひゃ、おおりゃああたーああ」とか声を出しながら。事務所のスタッフの冷ややかな視線。なりふり構わず、続ける。「エイヤーエエエエイーーーーッ」。スタッフは、完全に軽蔑の目に。

 すると、低気圧が徐々に南に下がってきているではないか。K氏からも、「下がりましたね! 晴れ予報に変わってきましたよ」とメール。
 そして、「菊地さん、M部長のポイント高いですよ、これ」と笑顔マーク付きが入った。

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