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「生者必滅」【エッセイ】一八〇〇字

 最近、冷蔵庫のご機嫌が悪い。冷凍しておいた生ジュース用のバナナとブドウが、柔らかくなっていることで気づいた。冷凍庫は、非常食でマンタン。やむなく、順に腹の中に処分している。機嫌がなおるとは思えないので、空になったところで、交換する予定である。

 LED電球も切れ始めた。2010年前後に白熱電球から順に交換してきた。LEDの寿命は、40000~50000時間(1日8時間点灯の場合13~17年)と言われていたから、その告知通りということになる。白熱に比べれば、(100歳時代にふさわしく)隔世の感がある。
 しかし家電については、昭和な時代と変わらず、10年過ぎると次々と故障し始める。昔は、叩いて治るということがあっただけに、まだ昭和の方が、融通が利いていたかもしれない。家電製品は、「メーカーが、買い替え頻度を上げるために、10年で故障するような時限装置を仕組んでいる」のじゃないかと、勘ぐってしまうのである。

 いまの集合住宅に事務所を移して、15年。会社を整理し家主として住み込んで6年。家電などの備品たちは最初から同居してきたわけだが、この2、3年で次々と去っていった。
 テレビは前ぶれもなく、最期を迎えた。手術中の生体情報のモニタリング画像のように、次第に小波になりツゥーっと消えるのではなく、突然死であった。そのツレアイであるオーディオ・アンプも、“道行”するかのように、ほぼ同時期に。そして、給湯器、エアコンと続く。コロナ禍で半導体工場の稼働がストップし、品不足のニュースが流れている時期に。まだ早期に対応したことが幸いしたか、生活に支障をきたすことはなかった。足並みを揃えるかのように、ウォッシュレット。洗浄なしでは持(病ダレに寺)病が再発するやもしれず、慌てて全面交換。洗濯機も家主への抵抗を示し、サボタージュ。独居なので量は多くないが、綺麗好きのワタクシ、やむなく交換とあいなった。

 冷蔵庫が異常をきたしているということは、その親族になるであろうワインセラーも、「ブルータス、お前もか」と、なるやもしれぬ。このセラーくんは、事務所移転1年前に、独立10周年のご褒美として、180本入る強者つわものが同居人になったのである。が、それには、わけがある。大のお得意さまの百貨店で取引先を対象にした拡販という慣例がある。ようするに「拡張販売」。担当者が取引する会社に商品を(半強制的に)買わせるのだ。「半強制的に」というとイメージがよろしくないが、割引があり、質の良い商品を安価で販売していただけるのだ。その中に、ワインがあった。ビンテージもののワインも比較的安く購入できた。ワイン好きなワタクシ。ご担当者のお付き合いをしているうちに本数が増え、保管する場所が必要になったのだ。むろん、ご担当者のご機嫌を伺う営業行為なので、全てが接待費。しかし、その品をいま個人的に所有しているということは、立派な「業務上横領罪」。お縄を頂戴してもおかしくない・・・。
 高額ワインを超破格値でゲットできるオークションもあった。そこで仕入れたのが、五大シャトー・ワイン。なかでも、親分格が、「シャトー・ムートン・ロートシルト1973」。半世紀前のビンテージである。この年は、ピカソの絵画がラベルになっている(同年、ピカソは亡くなっているので、今年は彼の没後50年でもある)。なにかの記念日に開けようと(いや、美味しいものは最後に箸をつける性分のせいか)、味わうことなくそのままセラーに飾られたままになっている。まさか、その記念すべき日が、「最期の晩餐」? さすがにロートシルトも寿命を越えて、血のようにドロドロになっているかもしれない・・・。
そのセラーくんも、16歳を超える。まいにち扉を開けるわけではないので、冷蔵庫よりはもう少し寿命がある、と推測できる。それにしても、まずは、そのワインたちのシェルターとなるであろう、冷蔵庫の交換を急がねばならない。

 新入りの冷蔵庫の入居が終われば、同居人たちの次の交換時期は、家主は80代半ば。可能ならば、それ以上長生きさせていただきたいのだが、問題は、その次の交換時。いくらなんでもそこまでは無理だろう。ということは、次のタイミングで交換し終わったあとは、ワタクシの廃棄の番になるということだろうか。替えが効かない代物。シールを貼って粗大ごみ、ということになるだろうね。嗚呼・・・。

(ふろく)
本日の朝日新聞朝刊の書評ページです。横尾さん、今度はこれですか。いろいろとやってくれますね。

画像を逆さに貼り付けたわけではありません

読めないでしょうから、180度「逆転」。なにゆえに彼はこうしたか。文末にヒントが。


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