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ブライアン・G・ハットン監督、リチャード・バートン&クリント・イーストウッド共演『荒鷲の要塞』

 テレビシリーズ『ローハイド』で人気を博し、その後、イタリアでセルジオ・レオーネ監督と組んだ『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』で世界的な人気を獲得したクリント・イーストウッド。そんな彼がハリウッド凱旋第1作にして、『ローハイド』で組んだテッド・ポスト監督の『奴らを高く吊るせ!』の次に出演したのが、『ナバロンの要塞』や『北極の基地 潜航大作戦』、『八点鐘が鳴るとき』ほか、数多くの映画化作品を生み出した原作者アリステア・マクリーンが映画用に脚本を担当し、1970年に『戦略大作戦』でふたたび組むことになるブライアン・G・ハットン監督、名優リチャード・バートンと共演したのが1968年の『荒鷲の要塞』だ。 
 テレビ初放送されたのは1975年4月23日に前編、30日に後編が放送された日本テレビ『水曜ロードショー』で、バートン=木村滉さん、イーストウッド=山田康雄さん(1979年5月23日の再放送の際はこのふたりで再録音された)というキャスティングだった。これまでは短縮版しか残っていなかったが、2021年5月16日にムービープラスで放送された際には、再放送版時にカットされた約36分をバートン=星野貴紀さん、イーストウッド=多田野曜平さん(多田野さんは青野武さんの部分も担当)ほか、新たなキャストで追加録音し、ノーカットの吹き替え版が作られた。山田さんがかつて担当したものの、カット版しか残っていないイーストウッド作品を多田野さんが担当するというのがお約束になり、最近作の『運び屋』や『クライ・マッチョ』では多田野さんが全編を担当するというパターンも完成しつつある(多田野さんが全編を担当した『白い肌の異常な夜』もある)。だが、今や93歳となったイーストウッドは現在、最新監督作となる法廷心理劇『Juror No. 2(原題)』に取り組んでいるという話もあり、もし仮に最後の監督作(もう出演はしないのかも)になるのだとしたら、一抹の寂しさもある。
 舞台は第二次世界大戦時。ロバート・ビーティ演じるヨーロッパ大陸反抗作戦を担当するアメリカ陸軍のカーナビー将軍が飛行機事故でドイツ軍の捕虜になる。連合国の機密漏洩を防ぐため、マイケル・ホーダーン演じるイギリス軍情報部のローラント提督と、パトリック・ワイマーク演じるターナー大佐が救出作戦を計画し、バートン演じるスミス少佐を中心とするイギリス軍情報部員6名と、イーストウッド演じるアメリカ陸軍レンジャー部隊のシェイファー中尉を加えた救出部隊が結成される。彼らは将軍が収容されているアルプス山脈の断崖絶壁に建てられた“鷲の城”と呼ばれる城塞に潜入するというのが物語のおおまかな流れだ。前半は捕虜を救出するために潜入するが、メンバーのひとりが謎の死を遂げるものの作戦が遂行されるというサスペンス、中盤は救出劇かと思われたのが意外な人物の意外な正体が判明するという謎解き風ミステリー、そして、真相が判明してからの終盤の緊迫の脱出劇というアクション、ラストにはさらなる思わぬ展開が待ち受けていて、155分という長尺を飽きさせない、さすがはマクリーンと思わせる巧みな構成となっている。今作ではバートンの方が格上で、イーストウッドは二番手という立ち位置だが、作戦を成功させるためにさまざまな仕掛けを施し、アクションの見せ場も多いのがイーストウッドで、女性との絡みが多いバートンよりもイーストウッドの方が得をしているように感じるのは自分だけではないはずだ。『空軍大戦略』や『ナバロンの嵐』などの作品を手掛けたロン・グッドウィンが担当する音楽も勇壮で、映画のワクワク感を盛り上げるには十分だ。さまざまなジャンルがバランスよく散りばめられ、映画の面白さ、楽しさを満喫できるという点で、『荒鷲の要塞』は最適な1本と言える。
 『荒鷲の要塞』はイーストウッド作品の中でも未だにスクリーンで観たことない1本だ。同じハットン監督の『荒鷲の要塞』と併せて、午前十時の映画祭で特集するとか、4Kデジタルリマスター版で再上映されないものかと密かに期待している。そんなことを考えている映画ファンも筆者だけではないと確信している。

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